第267話 大砲へ向かえ!

「うおおおおお――――ッ!?」

「な、なんだこれッ!?」


 ヴァイキング船が放った巨大砲弾が港湾部の一角に突き刺さり、多くのプレイヤーが消し飛ばされた。

『極大砲』は船の耐久値が大きく減った際に出てくる、ヴァイキング船の最終兵器。


「おい! 早く船を落とさないと次が来るぞ!」


 敵側にも一撃必殺の武器が増えたことで、戦況は厳しくなってしまう。


「間に合わねえよ! あと三、四発は覚悟しねえと……っ」

「その間にまた、吹雪や氷波がくる可能性もあるぞって……」

「「うおおおおおーっ!!」」


 続く二発目が、再び広い範囲を消し飛ばした。


「……困りましたね」


 高い威力を誇る極大砲は、船の最後方にある。

 これにはツバメも、対応に悩む。


「どうやら、見せ場みたいですわ」


 するとそれまでツバメと共に港湾部への進攻部隊を護衛していた白夜が、「ふふ」と笑ってみせた。


「【跳躍】」


 九条院白夜は、近接戦闘が得意な『従魔士』

 滑空して来た黒竜が、この時を待っていましたとばかりに白夜を乗せて宙を舞う。


「メイさんが海竜を引き留めていることで、本当に戦況が優位になっていますわ。ならばわたくしもここで!」


 そのまま海上を飛行し、白夜は一直線にヴァイキング船のもとへ。


「【アークブレス】!」


 あいさつ代わりのブレスで甲板にいたもの全ての耐久とHPを削り、そのまま極大砲へ迫る。


「いきますわ! 【ツインストライク】!」


 滑空して来た黒竜が叩き込む、爪の一撃。

 通り過ぎて行くところに【跳躍】で空に舞った白夜が、遅れて落ちてくる。

 放つレイピアの一撃に、炸裂する光。

 強烈な二段階攻撃に、極大砲は煙をあげて動きを止めた。

 それを見て、歓声をあげる後方組。


「せっかくお邪魔しましたのですし、少し遊んでまいりましょうか」


 着地した白夜は、甲板に詰めているヴァイキング・リーダーたちにレイピアを向け笑う。


「【エーテルジャベリン】!」


 空中に生まれた六本の光の槍を放出すると、直撃を受けた二体が倒れた。

 駆け込んできた二体は、しっかり引き付けてから――。


「【エーテルライズ・エクステンド】!」


 突き上がる光の飛沫で片付ける。

 そして残ったリーダーの振り降ろしを優雅にかわすと、後方へ【跳躍】


「【ライトニングスラスト】ーッ!」


 こちらもレベルⅡにあがった前進刺突。

 跳躍系スキルの最中でも、狙ったターゲットのもとに飛んでいくという強襲技だ。

 見事な一撃で、甲板にいたリーダーたちを一掃した。

 しかしここは敵の本営、すぐに集まってくる新たなヴァイキングたち。


「どうやら、ここまでみたいですわね」


 新たな敵に囲まれた状態でそう言うと、甲板から海へと身を投げた。

 そして落下際をひろいにきた黒竜に乗って、港湾部へと戻ってくる。


「いかがかしら! これが光の使徒の力ですわ!」

「光の使徒が何なのかは分からないけど、助かったぜ!」


 見事な極大砲の破壊に、さらにわき立つ参加者たち。

 船の耐久値も、すでに3割を切っている。


 「さあ最後の一押しだ! 行くぞ!」

 「「「おおーっ!!」」」

 「へえ、やるじゃない……」

 サン・ルルタンの時よりも一回り以上レべルを上げた白夜に、レンも思わず感嘆の声をあげたのだった。



   ◆



「氷の尻尾は……二回転の時もあるっ! 【バンビステップ】からの【ラビットジャンプ】!」


 巨大海竜の相手を買って出たメイは、氷結の尾を後方へ駆けることでかわし、続く二発目の叩きつけもさらに後ろへの跳躍でかわす。

 一度見た攻撃は、メイにとって好機となる。

 ここで一気に距離を詰めに行こうと駆け出すが――。


「三回目っ!?」


 三度目の振り回しは、振り降ろしでなく薙ぎ払い。

 港湾倉庫に直撃し、レンガやコンテナの残骸が一斉に飛んで来る。


「そういうことならっ」


 薙ぎ払いの狙いを理解するメイ。

 しかしその足を止めることはない。

 ショットガンの様な範囲攻撃を前に、わずかにコース変更。


「せーふっ!」


 建物の陰を中継することで残骸を防ぎ、さらに距離を詰めていく。

 すると海竜の目前に、無数の氷塊弾が生まれた。

 カットされた宝石のような形状の氷弾はしかし、その一個一個が砲弾級の大きさを誇る。

 始まったのは、氷弾の嵐。


「なんだ、あれ……」


 その姿を偶然見かけたプレイヤーが、絶望的な勢いの連射に呆然とする。しかし。


「【装備変更】っ」


 氷弾は『魔法』による攻撃だ。

 メイはその手に【魔断の棍棒】を握る。


「いっくよー!」


 そして自身に向かって飛んで来た氷弾に向き直った。


「それ、それそれ、それそれそれそれーっ!」


 本来複数人をまとめて掃討するのに使われるはずの氷弾連射は、さらにその速度を上げていくが――。


「それそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれ――――っ!!」


 メイも容赦なく全てを弾き飛ばしていく。

 そしてほぼ真正面から来た最後の氷弾に、その目をキラリと輝かせた。


「きたーっ! せぇぇぇぇーのっ!」


 まさに絶好球。

 しっかりと氷弾を見据え、大きく構えを取る。

 左足を上げ、タイミングを計ったところで――。


「【フルスイング】だああああああ――――っ!!」


 豪快なフォロースルーで打ち返した氷弾は、見事海竜の前頭部に直撃。

 まさかの反撃に海竜は後方に大きくのけ反り、そのまま海中へ落ちた。

 もちろんメイは止まらない。

 たとえ相手が海にいようと、攻撃手段に困ることなどない。

 棍棒をしまったメイは、右手を高く突き上げる。


「寒さの厳しい中ではございますが――――よろしくお願い申し上げます!」


 氷海上に描かれる魔法陣。

 そこから高く飛び上がったのは、一頭の大きなクジラだ。

 氷海に浮かぶ氷ごと宙に舞い上がり、今まさに海上に顔を出したばかりの海竜にそのまま激突した。


「すっげえ……」


 メイと海竜の戦いを目の当たりにした戦士が、思わずノドを鳴らす。

 巨大な海竜と、同じく大きな体躯を誇るクジラはもつれあうようにして再び海中へ。

 豪快な飛沫の舞う光景に、目を見開いたまま硬直する者まで出始める。


「ありがとーっ!」


 潮を噴きながら帰って行くクジラに、大きく手を振るメイ。


「こ、これだよこれ……っ」

「これこそメイちゃんだよ! これが見たかったんだよー!」


 メイの怒涛の攻勢に、クエスト参加者はさらにその意気を上げたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る