第266話 反撃開始です!

「メイちゃんがいるなら勝てる!」

「待ってましたぁぁぁぁ! 高難易度クエストに希望が見えたぞー!」


 現れたメイに、歓喜の声を上げる参加者たち。


「あれが噂の……」

「海竜を吹き飛ばすとか、とんでもない攻撃力だったな……」


 初めてメイを見るプレイヤーも、感嘆の声を上げる。

 すると海中から舞い戻った海竜が、壮絶な咆哮をあげた。


「メイ、くるわよ」

「はいっ!」


 退避をすませた兄妹プレイヤー。

 迫る海竜の狙いは、もちろん強烈な一撃を喰らわせたメイだ。


「【装備変更】【バンビステップ】!」


 頭装備を鹿角に変更し、メイは走り出す。

 海竜の前腕による連続叩きつけは、一撃ごとに地が割れ氷片が舞う怒涛の攻撃だ。

 しかし範囲の広さに頼る大雑把な攻撃を、メイは踊るようにしてかわしていく。

 続くのは、圧し掛かり。

 凍結こそ起こさないが、その体躯の大きさゆえに実は【氷海大波】よりも高威力の一撃。


「【ラビットジャンプ】!」


 わずかな助走から後方への大きな跳躍で、圧し掛かりを難なく回避する。

 すると海竜は、突然その場で身体を背けてきた。

 凄まじい勢いで氷漬けになっていく尾。

 氷塊のようになった尻尾を、メイの着地際を狙って振り降ろしにくる。


「うわっと! 【蜘蛛の糸】っ!」


 しかしメイは【蜘蛛の糸】を射出し、教会の塔の先端に巻きつけると、そのまま力強く引っ張り再度空中へ。

 直後、叩きつけられた巨大な氷の尾が地面にめり込み氷片を巻き上げた。


「【装備変更】【アクロバット】!」


 メイはそのまま空中で猫のようにくるっと体勢を直し、海竜の方に身体を向ける。


「もう一回! 【ソードバッシュ】だあっ!」


 駆け抜けていく衝撃波は腹部をかすめ、海竜の体勢を崩した。


「海竜を、たった一人で……」

「すげえな……これが噂の野生児か」

「よし、メイちゃんが海竜を引き付けてくれてる間に俺たちは船の破壊に向かうぞ! レベルが低い参加者はヴァイキングに集中してくれ! それが遠距離攻撃勢の助けになる!」

「「「おおーっ!」」」


 ヴァイキングと海竜を同時に相手にする。

 本来とても難しいクエストだが、海竜がメイに集中しているのであれば、船破壊に専念できる。

 参加者たちは自然と役割分担を始め、各自が自発的に動き出した。

 港湾部へ攻め入るのは、ツバメや白夜を中心とした近接部隊。

 ヴァイキング船から飛んでくる砲弾をかわしながら、魔導士たちを先導する。


「きたっ! ヴァイキングの一団だ!」


 足止めに来たのは四体の軍団。

 ヴァイキング・リーダーを中心に、船への道に立ちふさがった。


「【加速】」


 ツバメはヴァイキングたちの中心まで、一息で飛び込んでいく。


「【紫電】【電光石火】」


 通電によって四体同時に動きを止めたところで、一番の強敵であるヴァイキング・リーダーのHPを斬撃で削っておく。


「お願いします」

「任せろー!」


 ツバメに続いていた近接職がスキルを叩き込み、後衛の魔導士たちが魔法攻撃を集中。

 一気に戦いの主導権を手にした。

 メイが得意とする、敵をしっかりと崩してから味方にトドメを差してもらう戦法。

 ここでその形式を選んだのには、理由があった。

 酒場から出てきた、赤ら顔の大男。

 それはヴァイキング・リーダーたちをさらに束ねる、ボス級の敵となる。


「ウオオオオオオ――――ッ!!」


 咆哮をあげたヴァイキング・コマンダーが振り上げた大斧から、吹き出す暴風。


「【加速】【跳躍】」


 迫り来る嵐を、ツバメは前方への跳躍で回避。

 着地と同時に一直線に走り出す。


「【加速】」


 コマンダーが振り回す大斧を、高速で潜り抜ける。


「【リブースト】」


 そして強烈なターンで後方へ回り込み、ダガーによる連撃を叩き込んだ。


「【サクリファイス】【電光石火】」


 さらにそこから続く斬り抜けで、振り返ったばかりのコマンダーの背後へと駆け抜ける。

 HPを使用しての攻撃は、通常よりも高いダメージを与えた。

 たたらを踏み、今度こそと振り返り様に放つのは、氷風の薙ぎ払い【ブリザード・エッジ】


「【壁走り】」


 しかし三日月形の軌跡を描く氷刃の一撃は、家壁を斜めに駆け上がっていくツバメには当たらない。

 もはやすべての攻撃が、一呼吸ずつ遅れてしまっている。


「【跳躍】」


 そのまま壁を蹴り、ふわっとした軌道で頭上に落下。


「【アサシンピアス】」


 ヴァイキング・コマンダーの肩口に【ダインシュテル】を突き刺した。


「それでは、おねがいします」


 上空に見えた輝きに、ツバメはヴァイキング・コマンダーを置き去りにして歩き出す。


「お、おいっ!」


 まだ終わっていない。

 起き上がり、最後の大技を放とうとするコマンダーに誰もが慌てるが――。

 直後に巻き起こった爆発で、勝敗が決した。

 レンが高所から放った【フレアストライク】が、とどめを刺した形だ。

 杖を振って合図を送ってくるレンに、ツバメも静かに頭を下げて応える。


「カッコイイ……っ」

「え?」


 流れるような戦いを目の当たりにした少女プレイヤーに、正面から言われて面食らうツバメ。


「こんな可愛いのに、すげえなぁ」

「そ、そんなことは……」


 続けて掛けられた言葉に、赤くなった顔を慌てて隠すのだった。


「そろそろ氷の大波が来るわ! 各自ラインを下げて!」

「了解! みんな下がれ!」


 レンの警告に、各プレイヤーが大波が届かない位置、場所に身を隠し始める。

 レベル低めの参加者がしっかりとヴァイキングを掃討していたこともあり、退避は速やかに完了した。

 直後に港湾部を襲った氷海の波は、逃げそびれたヴァイキングだけを凍結させて消えていく。


「でも、反撃はしっかり入れさせてもらうわよ。高速【連続魔法】【魔砲術】【フレアアロー】!」


 その杖から放たれるのは、光の尾を引く三本の炎矢。

 ビーム兵器の様な軌跡を残し、回避を許さぬ速度で海竜に直撃。

 大技を使ったら反撃をもらう。

 撃ち逃げは許さないのがレンのやり方だ。


「レンちゃーん! ありがとー!」


【氷海大波】が引くのを、建物の屋上で暇そうに待っていたメイが手を振る。


「海竜戦のアシストをしながら船落としの方も助けるって……あの子もすげえな」

「ていうかなんだよ……あの射程距離と魔法の速度は」


 ヴァイキングたちと戦うツバメたち、海竜と戦うメイ。そして合間を縫って放たれる氷波と吹雪。

 その全てを意識しながら戦うレンに集まる、驚嘆の視線。

 同時進行が難しいこのクエストは、メイたちが戦いの基点になることで見事に『押し』ていく。


「これはいけそうだな」

「ああ、このままいけばクエストクリアは確実だ!」


 しかし、参加者たちが盛り上がり出したその瞬間。


「お、おい! なんだあれ!」


 ヴァイキング船の後部に現れたのは、通常の物の十倍はある巨大な大砲。

 建物が震えるほどの爆音と共に放たれた巨大砲弾は、町の一角に突き刺さり、付近一帯を消し飛ばした。

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