第264話 トッププレイヤーたちの戦い方

「【旋風斬】!」


 剣士の放った風の刃が、ヴァイキングを斬り払う。


「いけいけーっ! 押し込めーっ!」


 生まれた隙間に、駆け込んでいくプレーヤーたち。


「おい! そこ危ないぞっ!!」

「えっ!? うわああああっ!」


 ヴァイキング船から飛んできた砲弾が炸裂。

 すると新たなヴァイキングの一団が、すぐさま駆けつけてきた。


「本当に数が多いな! あの船にどんだけ詰まってんだよ!」


 街中で上がる戦火。

 各所にいる王国軍のNPCも足止めをしてくれているが、状況は一進一退だ。


「【壁走り】【紫電】」

「すまねえ、助かった! 【ローリングアックス】!」


 そんな中ツバメは、得意の高速移動とスタン系スキルで周りのプレイヤーを助けつつ、ヴァイキングの数を減らしていく。


「【ファイアウォール】! あまり無理な先行はしないで、港湾部に入っても退路の確認をしておくといいわ」


 レンも敵の動きを止めつつ、そんな注意を付け加える。


「あっ、あぶない!」


 ソロの少女の背後に迫るヴァイキング。

 メイは近くに置かれたままになっている停船用のイカリをつかむと、そのまま跳躍。


「それーっ!」


 オブジェクト攻撃で、ヴァイキングを弾き飛ばした。


「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ! よっと!」


 襲い掛かって来た新手もイカリの振り回しで弾き飛ばして、笑ってみせるメイ。


「砲弾が来ますわっ!」

「はいっ! 【フルスイング】!」


 白夜の指摘にも即座に反応。

 大型船の放った砲弾を、豪快に弾き飛ばしてみせた。さらに。


「あっ、危ないっ!」


 見えたのは、二体のヴァイキングに囲まれた弓手の姿。


「せーのっ! それーっ!」


 メイはそのまま大きく三回転。

 手にした身の丈大のイカリを、ハンマー投げの要領で放り投げた。

 ヴァイキングをまとめて吹き飛ばし、そのまま弓手の助けに駆け付ける。


「すごい戦い方……こんなの見たことありません」


 そこら辺にあったオブジェクトを振り回し、ぶん投げて助けるメイ。

 少女は唖然としたままつぶやいた。


「ふふ。ハンマー投げのクエストがあっても優勝確実ですわね……相変わらず、とんでもない自由ぶりですわ」


 驚きに苦笑しながらも、ついつい楽しくなってしまう白夜だった。


   ◆


「くっ! やっぱヴァイキング・リーダーはやっかいだな……っ」


 大型船落としのクエストからフィンマルクにやって来たプレーヤーたちは、三対一という状況でも苦戦を強いられている。


「おっさきー」


 そんな戦闘の中を、ローチェは軽やかなステップで抜けていく。


「みんなは足止め、しっかりお願いねっ」


 そう言ってウィンクまでしてみせた。


「さて、ここからですな」


 迫り来るヴァイキングの相手はクエスト参加者たちに任せ、一気に港湾部までたどり着いたなーにゃたち。


「あらあら、大変ですね」


 氷海の状態を見て、シオールが頬を抑えた。


「おいおい、こんなのムリだろ!」

「きっちり海からの接近にも対応してきやがるッ!」


 これまでのクエストで小船の存在を知っていた参加者たちは、大型船へ向けてこぎ出していた。

 しかしそこにもヴァイキングたちはバリスタや投石機による反撃を仕掛け、小船の耐久値は減る一方。

 やっかいな攻撃を前に、なかなか近づけずにいる。


「くすくす、でもローチェちゃんにはそんなの関係ないんだよねぇ」


 そう言って難儀しているプレイヤーたちを笑った後、ローチェは足を引いた。

 そのまま右手に愛用のムチを構えると、スキルを発動。


「それじゃいっちゃうよー! 【サンダーウィップ・スプレッド】!」


 足元に広がる雷光。

 振り降ろすムチが、うなりをあげる。

 本来数メートルほどの射程の攻撃範囲が、一気に大幅伸長。

 天から降り来る豪快な一撃で、百メートル以上離れたヴァイキング船に雷光を叩きつけた。

 辺り一面を駆け抜ける稲光が、まばゆく輝き消えていく。


「この感じ久しぶりだなーっ! やっぱ気持ちいいーっ!」


 ローチェの放った一撃は、大型船の耐久値をいきなり一割近くも削ってみせた。


「はい、次はリズちゃんの番だよーっ」


 くるっと回って場を譲ったローチェに代わり、リズは静かに黒の両手剣を掲げる。


「目覚めろ――――【暗夜剣】」


 呼びかけと共に、黒の大剣から吹き出す闇のオーラ。

 大きな一歩と共に振り降ろした【暗夜剣】から、三日月形をした闇の波動が駆け抜ける。

 黒の衝撃は、氷海の波間を駆け抜け直撃。

 ヴァイキング船をさらに大きく揺るがせた。


「そっちの調子はどうだ?」

「こちらも問題なしなのだよ」


 リズの問いかけに、応えたのはなーにゃ。


「アルカナちゃん【ペネトレイトエッジ】だぁ」


 船を狙うリズたちのもとに押し寄せる、ヴァイキング・リーダーたち。

 錬金術師なーにゃの隣に控えた【ホムンクルス】アルカナは、手にした純白の槍を突き出した。

 すると先頭にいた個体に直撃した白の衝撃は、そのまま後方の個体まで一気に刺し貫いた。

 倒れ伏す、ヴァイキング・リーダーたち。


「いつ見ても、アルカナちゃんは最高ですなぁ」


 わずか一撃で四体を一掃。

 その姿にうっとりするなーにゃ。

 いざとなればシオールもいるため、この場の防衛にも隙はなし。


「【サンダーウィップ・スプレッド】!」

「【暗夜剣】」


 続く一撃で、大きくヴァイキング船を削りにかかる。

 たった四回の攻撃で、すでにヴァイキング船の耐久値は半分ほどまできている。


「さあ、このまま大型船破壊のクエストはいただいちゃいましょうかっ!」


 文句なしの流れ。

 そう言ってローチェが、余裕の笑みを見せたところで――。


「ッ!?」


 氷海が大きく盛り上がり出した。

 思わず、リズの手が止まる。


「なんだ、こいつは」


 船と港湾部の間に突然現れたのは、超大型船に負けない巨大さを誇る海竜。

 猛烈な咆哮と共に、輝きが広がる。

 すると次の瞬間、氷海が大きく波打った。


「うわああああー! なんだこれはああああッ!!」

「こんなの……逃げ切れねえだろーッ!!」


 驚愕に悲鳴を上げる参加者たち。


「これは……大変なことになりましたねぇ」


 その光景には、シオールもさすがに圧倒されてしまう。

【氷海大波】は、怒涛の勢いで港湾部を押し流していく。

 前線にいたプレイヤーたちを大きく後退させつつダメージを取り、さらに凍結状態にまで陥らせたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る