第263話 ヴァイキングと闇の血盟

「行くぞォォォォーっ!!」


 ウェーデンギルドにて依頼を受け、フィンマルクへとやって来たプレイヤーたちが叫び声と共に走り出す。

 目的はヴァイキングの超大型船を落とすというもの。

 イベントの中でもかなりの大型クエストとあって、皆気合十分だ。


「うおおっ!?」


 街中に突如として巻き起こった風は、ヴァイキングの斧から発せられたもの。


「止まるな! ドンドンぶつかっていけー!」

「おーっ!」


 メイも元気よく拳を上げる。

 異変を感じて出て来たヴァイキングも、その数は相当なものだ。

 怒涛の勢いで防衛に回り、各所で激しい戦いが始まった。


「しまった!」


 不運にも風斧の振り回しによって転げた戦士のもとに、ヴァイキングたちが殺到する。


「【装備変更】【フルスイング】!」


 そこに飛び込んできたのはメイ。

【狐火】状態で叩きつけた剣の一撃が、青炎でヴァイキングたちをまとめて消し飛ばした。


「すげえ……」

「がんばりましょうっ!」


 グッと拳を握ってみせるメイ。

 そんなメイのもとに、身軽そうな三体のヴァイキングが屋根上から飛び降りてくる。


「【エーテルジャベリン】!」


 しかし白夜の放った光の槍が、その全てを片付けた。


「背中がお留守でしたわよ」

「白夜ちゃん、ありがとうございますっ!」


 そう言ってクールなポーズを取り合うメイと白夜に、戦士プレイヤーは思わず目を奪われる。


「うおおっ!? なんだこいつは!?」


 あがった悲鳴のような声。

 イベント参加者とヴァイキングたちの戦い中に踏み込んで来たのは、さらに大柄なヴァイキング。

 兜が銅色に鈍く輝いているのは、各部隊のリーダー格の証だ。

 掲げた宝石付きの大斧から、猛烈な炎風が吹きすさぶ。


「うぐっ!」


 その炎風には強い『転倒』効果あり。

 付近のプレイヤーたちが、ダメージと共に一斉に転がった。


「あらあら。それではここは、私たちにお任せください」


 そう言って上品な歩き姿でやって来たのはシオール。


「【聖刃】」


 手にした聖金のメイスを掲げると、三本の光輪が広がる。


「ぐあああっ!」


 光の輪に触れたヴァイキング・リーダーたちは、大きく弾かれ体勢を崩した。

 プリースト装備をまとい、聖なる光を放つシオールはまさに聖女といった雰囲気だ。


「わあ、かっこいいなぁ」


 メイも目を輝かせる。


「それじゃ軽く肩慣らししておこっかな」


 シオールの崩しに、軽やかなステップで続くのはローチェ。


「そーれえっ!」


 手にした魔法のムチに【雷】が宿った。

 放つ連打は、体勢を崩していたヴァイキング・リーダーを容赦なく打ち付ける。


「それそれそれっ、どうしたの? そんなんじゃ勝負にならないよっ」


 とどめの一撃。

 ローチェは最後にムチを華麗に振り払うと、くすっと余裕の笑みを浮かべてみせた。


「ローチェさん」

「もう、なーにゃちゃん。私のことはローチェちゃんって呼んでよぅ」

「たはは、これは失敬」

「それでご用は何かなっ?」

「背後にヴァイキングが迫っておるのですな」

「あれっ、本当?」


 危機を告げるにはのんびりとした、なーにゃの言いよう。

 しかしローチェもまったく慌てる様子がない。


「【獅子霊】ちゃん」


 スキルの発動と共に、ローチェの肩に青白い輝きの獅子が現れた。


「グオオオオッ!?」


 獅子の霊は迫るヴァイキング・リーダーに喰らいつき、そのまま地面へ豪快に叩きつける。

 わずか一撃。

 ローチェは振り返ることもなく、可愛らしくなーにゃに「ありがとー」と手を振ってみせた。


「な、なんだあれ……」

「これがトップの力か……」


 プレイヤーたちがヴァイキング・リーダー1体に4、5人で立ち向かっている状況だ。

 わずか10秒ほどで2体を片付けたローチェたちに、驚きの声があげる。

 しかし皆の注目を最も集めたのは、黒神リズ・レクイエム。


「【魔法陣牢】」


 スキルの発動と空中に現れる、数十の魔法陣。

 その全てが、付近のヴァイキングたちを取り囲むように展開。

 黒い魔力光の乱射で、一体残らず消し飛ばす。

 残った五つの魔法陣はヴァイキング・リーダーを囲み、一斉掃射。

 こうして付近一帯のヴァイキングの一団が、まとめて倒れ伏した。


「どうだナイトメア、我が力は」

「……たいしたものねぇ」


 目前で大技を放ったリズに、レンはさすがに感嘆の息をつく。


「これならいけそうだな!」

「ああ! このまま突き進むぞ!」


 ヴァイキングはとにかく数が多く、斧を使った特殊攻撃もやっかいだ。

 しかしシオールたちがいれば、余裕の進攻が可能。

 トップの凄まじい攻撃力に、意気込む参加者たち。そんな中。


「「「うおおおおお――――ッ!?」」」


 一息ついていた参加者たちが、まとめて吹きとんだ。


「大砲、やっぱりきたわね」


 魔法での援護を繰り返していたレンが、視線を上げた。


「やっかいですね」


 苦戦しているパーティを見つけては【紫電】で助けに入っていたツバメも、足を止める。


「「「うわああああっ」」」


 大型船から飛来する砲弾、次々に吹き飛ぶプレイヤーたち。


「んー、これはちょっと面倒っぽいかもぉ。船の破壊は競争だし、ザコの相手しながら砲弾を避けるのは楽しくなさそうだなぁ」


 それを見たローチェは「よしっ」と手を打った。


「それじゃあ、ここはよろしくねっ」

「「「ええッ!?」」」


 第二陣、第三陣と切れ間なく送られてくるヴァイキングたちを前に、まさかの「ここは任せて先に行く」宣言。

 驚きふためく参加者たち。


「あはは、ごめんごめん。船は私たちが落とすから、皆は街のヴァイキングと大砲を引き付けておいてねーっ」

「「「ええーッ!?」」」


 そう言い残して、ローチェは走り出す。


「……見ていろナイトメア。あの船は我らが落とす」


 リズも、そう宣言して歩き出す。

 こうしてトップチームは、ローチェのあとに続いて大型船の破壊へと向かうのだった。

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