第262話 ヴァイキング船破壊クエストです!

 氷海に浮かんだ大型船の破壊クエスト。

 港から数十メートルほど離れた地点に停泊している木造船は、ヴァイキングの本拠地だ。

 その大きさは、数千人の収容を誇る豪華客船並み。

 まさに大勢参加のクエスト向けといった感じだ。


「あんなデカいのを落とすのか」

「すげえな……こんなタイプのクエスト初めてだ」

「なんか燃えてくるな」


 ギルドで船破壊のクエストを単体で受けたプレイヤーたちも、フィンマルク郊外に集合している。

 そのためとても賑やかだ。


「わあ、参加者がいっぱいだねぇ」

「皆同じクエストを受注しているんですね」

「これまでのウェーデンイベントで、一番の密集具合じゃないかしら」


 大勢でフィンマルク港に攻め入り、ヴァイキングの船を破壊するのがこのクエストの目的。


「ああーワクワクしちゃうなぁ」


 たくさんのプレイヤーがフィンマルク内を駆けめぐる姿を想像して、メイは目をキラキラと輝かせる。


「船を崩せばポイントも大量だからな」

「ボス級の敵を倒しつつ船破壊なんてことになったら、大儲けだな」


 中にはポイントの荒稼ぎを狙う者もいる。しかし。


「君たちにそれは無理じゃないかなー?」


 はしゃぐプレイヤーたちの間に割ってきたのは、長く淡い白金の髪に水色レースのリボン。

 魔法学院の制服から、目立つくらいに太ももを出したお姉さん。


「だってこのクエストには、ローチェがいるからねっ」


 集まったプレイヤーたちが自然と道を開ける。

 やって来たのは、また別口でヴァイキング船の破壊クエストを受けたトッププレイヤー軍団だ。


「このクエストは、あたしたちがいただいちゃいますっ」


 ここが自分の舞台とばかりに、ローチェは高らかにそう宣言した。


「うわー、これは終わったー!」

「ローチェたちがいたら、ポイント大量取得は難しいぞ」


 現れたトップチームに、うぐぐと悔しがるプレイヤーたち。


「そうそう。みんなローチェたちのためにしっかり船への道を開いてねっ」


 ローチェはそう言って、得意げに笑ってみせる。


「もうローチェちゃん、ダメですよ」


 そんな生意気お姉さんをたしなめたのは、シオール。


「皆さんごめんなさいね、この子ったら」

「あ、いえ……」

「大丈夫っす」


 素敵な笑顔に、言葉を続けられなくなる面々。


「おおーっ、やっぱり素敵なお姉さんはすごいなぁ」


 そして一連の流れを見ていたメイは、眼鏡のお姉さんパワーに感嘆するのだった。


「ナイトメア」

「誰のことかしら」


 レンの前にやって来たのは、黒の騎士鎧に身をまとった黒神リズ・レクイエム。


「大人数参加型のクエストとは都合がいい。成長した我が力、しかとその目に焼き付けろ。そして……」

「そして……何よ」

「ナイトメアの思惑、どのような密命を背負っているのか……しかと見定めさせてもらうぞ」

「何も背負ってないのよ。むしろ何とかして降ろそうとしてるのよ」


 真っ向から『何かしらの密命を背負っている』論をぶつけてくるリズに、レンは淡々と突っ込んでいく。


「おい見ろ、レクイエムだ」

「ということはあっちの子も闇の使徒か」

「ち、違うわ! 闇の使徒はもう一身上の都合で退職したのよ!」

「そうして我らとの関係を否定するのには、おそらく密命が関係している」

「関係してないわよ! ていうかそもそも密命がないんだから!」

「ではなぜ変わらず黒の一式を身にまとっている? それは心は闇にあるということに相違ない」

「これは装備品としていいものだからなの! ゲームをやるに当たって装備を下げるのはなしでしょう!」


 その辺はゲームに対して真摯なレン。

 始まる闇の使徒同士の掛け合いに、クエスト参加差者たちの視線が集まる。


「よく分からないけど……」

「闇の使徒たちが楽しそうのはよく分かる」

「それは何も分かってないのよー!」


 衆人環視での中二病掛け合いに、いよいよ恥ずかしさが頂点に達したレンは顔を覆い隠した。


「レンちゃん」

「メイ……?」


 そんなレンの肩に、メイはそっと手を乗せる。

 野生児という肩書に抗う少女は、大きく一度うなずいてみせた。


「密命……いつでも力になるからね!」

「密命はないのーっ!」


 そんな掛け合いが続く中、一人の参加者が突然空を指さした。


「おい! あれを見ろ!」


 皆が、一斉に顔を上げる。

 するとフィンマルクの空に撃ちあがった爆破魔法が、大きな炎を巻き起こした。

 それは、王国軍によるヴァイキング船攻略作戦の開始合図。


「……はじまった」

「王国軍からの合図だ!」

「よーし、行くぞォォォォー!」

「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 わき上がる参加者たちは、ヴァイキングの大型船に向かって一斉に走り出す。


「見ているがいいナイトメア。我が力をしかとその目に焼き付けるのだ!」


 そう言い残して、歩き出す黒騎士レクイエム。


「いよいよ始まりますなぁ。アルカナちゃん、ヘルメスちゃん、行きましょうか」


 錬金術師なーにゃも、二体のドールを率いて続く。

 進むトッププレイヤーの並びに、自然と道を開ける参加者たち。


「そろそろ、わたくしたちも参りましょうか」


 屋根の上で一人ニヒルな笑みを浮かべ続けていた白夜が降りてきた。

 作戦開始前、一人余裕の笑みを浮かべる『謎の白き使者』というポーズを存分に楽しんだようだ。


「レンさん、貴方にはあとで聞かせていただきましょうか?」

「何をよ」

「密命についてですわ」

「だから……そんなものはないんだって……」


 度重なる『密命を背負ってる疑惑』に、ため息を吐くレン。

 こうしてメイたちも、ヴァイキング船の破壊に向けて動き出したのだった。

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