第260話 光と普通の共演

「なんだこいつらは!」

「やっちまえ! 王国軍の差し金に違いねえッ!」


 王国軍副官の救助のため、氷海に面した小国フィンマルクの海運倉庫へと忍び込んだメイたち。

 そこで再会を果たした白夜は、ヴァイキングたちの前に躍り出た。

 確認できるだけで敵数は八人ほどだが、もちろんこれだけではないはずだ。


「それではわたくしの相手には不十分でしてよ! 【エーテルジャベリン】!」


 スキルの発動と共に浮かび上がる、六本の光の槍。

 ヴァイキングたちの集まりに、まとめて放り込む。

 流れ弾に砕け散るコンテナ、穴の開く外壁。

 倒れた三体のヴァイキング。

 いきなりの派手な攻撃に、倉庫内は一気に騒がしくなった。

 もちろん、これで一斉にヴァイキングたちが集まってくることになる。


「【跳躍】」


 斧を掲げるヴァイキングたち。

 空中へと跳び上がった白夜は、その先頭にレイピアを向ける。


「【ライトニングスラスト】!」


 放つは高速の突き。

 空中からでも狙いの地点に飛び込めるのは、【ライトニングスラスト】レベルⅡの特性だ。


「ぐおおっ!!」


 強烈な突きを喰らったヴァイキングは転がり、コンテナを突き破った。


「いかがでして?」


 倉庫に穴をあけるほど豪快な立ち回りを見せる白夜。

 レンたちにカッコよいところ見せようと、普段以上に派手目に暴れているようだ。

 すると続くメイも、付近にあった割れコンテナを抱え上げた。


「いくよー! それーっ!!」


 そのまま投擲し、ヴァイキングを押しつぶす。


「【フレアアロー】」


 そこへさらに炎の矢が突き刺さり爆発。

 メイたちらしい連携を見せた。


「そこの鉄扉、どう考えても人質の副官を隠していますわ!」


 他に路はなし。

 白夜はそう言って、レイピアで古びた鉄扉を指し示した。


「そして奥のヴァイキング、少し装備が違います! これみよがしなカギを腰に提げていますわ!」

「ッ」


 その言葉を聞いて、ツバメが顔を引きつらせる。


「か、【壁走り】っ」


 ツバメは外壁を蹴り上がり、そのまま【跳躍】

 カギ持ちヴァイキングの前に降り立つと、腕の装備を変更する。

 そしてカギ持ちヴァイキングが、両手持ちの巨大斧を振り上げたところで――。


「【スティール】!」


 予想通り盗みに失敗。


「【加速】【リブースト】!」


 即座に後方へ回避し、二本の斧が地面に叩きつけられたのを見て最接近。


「【スティール】!」


 華麗に盗みを失敗してみせる。


「……ねえ、ツバメ」

「すみません。やはり私の運のなさでは目当ての物は奪えません……っ!」

「さすがにドロップアイテムとして入手できるわよ」

「……あっ」


 目が死んでいたツバメ、息を吹き返す。


「か、【加速】【壁走り】!」


 ヴァイキングが振り上げた大斧を再び潜り抜け、今度は積み上げられたコンテナを駆け上がってそのまま空中から落下攻撃。

 振り降ろした【アクアエッジ】が、兜を大きく揺らす。


「【サクリファイス】【四連剣舞】」


 そこから自身のHPを2割ほど乗せて放つ剣撃で、一気に瀕死状態まで追い詰める。


「【電光石火】」


 最後は駆け抜ける一撃。


「5時間は覚悟していました……本当に、本当によかった……っ!」


 こうしてツバメは無事、鉄扉のカギを手に入れた。


「【バンビステップ】!」


 メイはコンテナの隙間を駆けめぐり、出会いがしらのヴァイキングたちのターゲットを集める。


「【モンキークライム】」


 そのまま壁蹴りの要領でコンテナを蹴り進み、【アクロバット】で一回転。


「せーのっ! 【ソードバッシュ】!」


 コンテナ間の道に集めたヴァイキングたちを、駆ける衝撃波で一網打尽にする。


「さすがにやりますわね!」

「いえいえー!」

「【エーテルライズ・エクステンド】!」


 残りはわずか。

 白夜がレイピアを振り降ろすと、光の飛沫が吹き上がった。

 倉庫の天井に穴を穿った魔力光は、巻き込んだヴァイキングたちを弾き飛ばして消えていく。


「最後、おねがいしますわ!」

「りょうかいですっ!」


 生き残りは二体。

 光の飛沫の中から飛び出してきたメイは、【蒼樹の白剣】を構えた。


「せーのっ! 【フルスイング】!」


 放った薙ぎ払いは一撃で二人のヴァイキングを弾き飛ばし、壁を突き破った。

 静まり返る、海運倉庫。


「覚えておくといいですわ。そこに深き闇あらば、光の使徒が全てを暴き出します!」


 倒れたヴァイキングたちにレイピアを向け、決めポーズを取る白夜。


「普通の女の子も、見逃しませんっ!」


 その横には、仁王立ちのメイ。

 そしてその後ろから、こっそり顔を出すツバメ。

 意外と、白夜の演出を楽しんでいるようだ。


「まだ決めポーズには早いわよ。【フレアアロー】」


 そう言って、天井から飛び降りてきた最後のヴァイキングをレンが吹き飛ばした。


「ふっ、さすがですわね」


 一仕事終えた感じで、副官が捕らえられている鉄扉へと向かう白夜。


「……この倉庫の持ち主、これを見たら腰を抜かすわね」


 穴の開きまくった屋根、崩れ落ちたレンガの壁。

 粉々になったコンテナが転がる状況は、もはや半壊した遺跡と言っても過言ではない。

 ひん曲がった鉄扉も、ギリギリで壁に張り付いてるくらいの状態だ。


「もう自分で出てきなさいよ」


 それでも律義に小部屋で待つ副官を見て、レンは苦笑いを浮かべたのだった。

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