第259話 現れる『光』
「王国軍副官が捕らえられているのは、氷海側の大倉庫だ」
ヴァイキングから助け出した商館の跡継ぎ息子が、新たなクエストを持ち込んできた。
それは捕らえられた王国軍の副官を救出して欲しいというもの。
「どういうわけかヴァイキングは、的確に王国の要地を抑えてきている。この攻勢からフィンマルクを守るには、この人物の力が不可欠と言っていい」
そう言って「頼む」と頭を下げる。
「おまかせくださいっ!」
もちろんメイはこれを受諾。
さっそく三人は、港を回り込むようにして倉庫へと向かうことにした。
「港に続く道は、ヴァイキングの数もかなり多いわね」
「いっぱいだねぇ」
聞こえてくる魔法や剣のぶつかる音は、他のプレイヤーたちが受けているクエストのものだろう。
やはり、ヴァイキングの数自体は多いようだ。
見張りの目から隠れきれずに始まった戦闘も、当然あるだろう。
そんな中でもメイの野生能力は、難なくその隙間をすり抜ける。
レンガ積みの海運倉庫へとたどり着いた三人は、並んで付近を見て回ることにした。
「正面から入り込むしかなさそうね」
侵入経路として使えそうなのは、大きな木製の門扉の隣に付けられた勝手口のみ。
「【アサシンピアス】」
敵がこちらに気づいていない状態は、完全にこちらの優位。
一撃でヴァイキングを倒し、鉄製のドアノブに手を伸ばす。
そっと内部に侵入すると、中は地上三階建てほどの高さがあり、木製のコンテナがいくつも積まれていた。
「さて、副官はどこにいるのかしら……」
並んだコンテナの隙間を進みながら、王国軍副官探しに動き出す三人。
先行するメイたちに続くレンが、割れたコンテナを確認すると――。
「「ッ!?」」
まさにその陰に身を隠していた何者かと鉢合わせになった。
慌てて杖を構えるレン。
正面からの戦いが始まれば、当然その音に反応してヴァイキングが集まってくる。
そうなれば状況は一気に面倒になってしまう。
しかし目前に現れた剣士も、即座にレイピアを掲げた。
「ファイアボル――――」
「エーテルジャベリ――!」
すぐさま出の早い【ファイアボルト】で先制攻撃を仕掛けにいくレン。
敵も負けじとレイピアを向けてきて――。
「「……あれ?」」
両者共に動きが止まる。
「誰かと思えば……闇の使徒ではありませんか」
「ちょっと何を言ってるのか分からないですね……」
すっとぼけるレン。
真正面から剣を突き付けて来たのは、白の中二病少女こと九条院白夜だった。
サン・ルルタンで海の冒険をした時に出会った、15,6歳ほどの少女だ。
淡い橙色の髪に、北部仕様の白コートをまとっている。
「あ、こんにちはっ」
「お久しぶりです」
そんな二人のやり取りに、やって来たメイが声をかける。
「あなたは……噂の最強野生児ですわね。ルルタンではお世話になりましたわ」
「野生児ではございませんっ。ちょっと自然風味な普通の女の子ですっ!」
「でも、こんなところで会うなんて予想外ですわね。闇の使徒……あなた一体何を企んでいますの?」
「どうして皆、私が何かを企んでると思い込んでるのよ」
「闇の使徒たちが常に『意図』を持って動いているのは、すでに承知済みだからですわ」
得意げに胸を張る白夜に、レンは目を虚ろにする。
「私たちは商館オーナーの依頼からの派生クエストで来たのよ。貴方はどうなの?」
「わたくしは王国軍からの依頼を受けて、王国軍副官の救助に来たのですわ」
「同じ目的でも、依頼主が違う場合もあるってことなのね」
「そういうことなら、ご一緒いたしましょう!」
楽しそうに提案するメイ。
「それもいいですわね。まさか再び闇の使徒と手を結ぶことになるとは、思いもしませんでしたわ」
そう言って笑みを浮かべる『光の使徒』こと白夜。
「ですけど、勘違いはなさらないで。おかしな動きをした時は、容赦なくその背中を狙わせていただきますわ」
得意げに笑う白夜。
もちろん、同じクエストに共に挑む光と闇の使徒という状況に酔っている。
「…………また、ややこしいのが来たわねぇ」
北の大地に集まる中二病たち。
レンは頭を抑えて、ため息を吐いた。
「メイ、この先はやっぱり戦いが中心になりそう?」
「そうだね、結構多くの敵がいそうだよ」
メイからの情報で、ある程度の敵数や配置を知ることは可能。
ここからはできるだけ的確に数を減らしていって、ある程度敵の数を絞ってからたたみ掛けに行くのが適当か。
ここからの流れをシミュレートし、まずは隠密からと提案しようとしたその瞬間――。
「そこまでですわ!」
ヴァイキングたちの前に、白夜が打って出た。
「フィンマルクを占拠し民を不安に陥れ、そのうえ王国軍副官を人質に取る非道。この光の使徒、九条院白夜が許しませんわっ!」
レイピアを手に華麗に一回転。
「全ての闇を、白日の下にさらして差し上げます!」
決めポーズと共に、そう宣言して見せた。
「もう、あの子は……」
わざわざ大勢をまとめて相手にする形を取った白夜に、ため息を吐くレン。しかし。
「普通の女の子メイも、許しませんっ!」
すぐにその横で仁王立ちを決めたメイと、こっそりその後ろに並ぼうとするツバメを見て、諦観の笑みを浮かべたのだった。
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