第183話 グランダリア大崩落

 リザードドラゴンを打ち倒したメイたち。

 しかし29階は、足元からどんどん崩れ落ちていく。


「うわわわわーっ!」

「メイ! ツバメ!」


【浮遊】を発動したレンが二人の手を取ると、三人はそのまま緩やかに落下。

 思ったより深くはなく、無事に着地した。

 しかしすぐに、最終30階の意図に気づくことになる。

 始まった崩落は止まらない。

 落ちる天井、崩れる足元。

 さらに広大な30階はシンプルな岩場が続いている。

 そして、空いた穴の底は見えない。


「最後は崩壊からの脱出。定番だけど気が抜けない展開ね」

「この地図……この階層のものです!」


 ここでツバメの持っていた地図、そして【地図の知識】が活きる。


「あっちの転移結晶まで行ければ、おそらく帰還できます!」


 ツバメがそう言うと、メイは力強く拳を握った。


「……みんなで一緒に生き残って、合宿を終わりましょう!」

「もちろんよ!」

「はいっ!」


 崩落の波はドンドン迫り、足場がなくなっていく形式。

 上部からの落石も、喰らえば即死の可能性がある。


「よっ! それっ!」

「【跳躍】!」


 素早いステップで進むメイを、ツバメが追う。

 レンは絶妙な【浮遊】を挟むことで、しっかり二人についていく。


「ッ! 【四連剣舞】!」


 目前に落ちてきた無数の落石を、ツバメが斬り払う。

 しかしその分の遅れによって、足場が減ってしまう。


「【跳躍】!」


 加速による助走が付けられなかった分、わずかに距離が足りない。


「ツバメちゃんっ!」


 伸ばした手でツバメを引き上げる。


「ありがとうございますっ」

「よかったー!」


 笑顔で応えるメイ。


「【フレアストライク】!」


 その頭上に落ちて来た岩塊を、レンが魔法で岩を吹き飛ばした。


「頭上にも注意よ」

「ありがとうレンちゃんっ!」


 駆けながら、うなずき合う二人。


「これなら、どうにか逃げ切れるかも……っ」


 だが、レンがそう言葉にした瞬間。


「ギャオオオオオオオオ――――ッ!!」


 最悪の咆哮が鳴り響いた。


「ウソでしょ……」


 三人走りながら、視線を声の方へ。

 そこには狂ったような勢いで追ってくる、リザードドラゴンの姿。


「ドラゴンが消えずに落ちていったのは、このためだったのね……」


 黒竜の高い飛び掛かりに、三人は慌てて散開する。


「ッ! 【加速】【跳躍】!」


 迫る腕をギリギリでかわすツバメ。

 やや無理な跳躍となり、着地場所にて大きくバランスを崩す。


「ッ! 【誘導弾】【フレアアロー】!」


 猛然とはい寄る黒竜をけん制するため、放つ炎の矢。

 しかし炎の矢を喰らっても狂ったように進み来る黒竜は、さらに崩落を進めてしまう。

 叩きつけにくる尾が、一気に足元を砕く。


「うわわわっ!」


 さらに黒竜は、大きく息を吸った。


「ここで炎弾!?」


 落石を避けたばかりのレンに、回避は間に合わない。


「きゃあッ!!」


 炎弾の爆発に巻き込まれたレンはその場でバウンドし、転がった先の大穴に思わず肝を冷やす。


「もうめちゃくちゃだわ……っ!」

「……レンちゃん、ツバメちゃん」


 崩落と黒竜の攻撃という最悪な状況を前に、それでも必死に走る三人。

 不意にメイが声をあげた。


「どうしたの?」

「合宿もこれでお終いだね……みんなと一緒ですっごく楽しかった」

「メイさん?」

「どうせなら、このままこのダンジョンをクリアして終わりたいよね……だから」

「「だから……?」」


「――――ここはわたしに任せて、先に行って!」


「メイ、ウソでしょ」

「メイさん、それを言ってしまったら……っ」


 あまりにも自然にフラグ展開を始めたメイに、二人は思わず息をのむ。


「ですが……」

「……分かったわ。行きましょう」


 すぐには受け入れられないツバメ。

 対してレンは、覚悟を決める。

 見事にツバメとレンも『置いていけない』派と、『覚悟を受け取り進む』派に分かれた。


「大丈夫、あとから追いつくからっ」


 トドメのセリフを口にしたメイは足を止め、笑ってみせる。


「行きましょう」

「……はい」


 先行するレンとツバメ。

 足元に入るヒビから次の崩落個所を予測し、落ちる岩場を駆けていく。

 そんな二人の前に、襲い掛かる大岩。


「【魔眼開放】【フレアストライク】!」


 全力の魔法で粉々に打ち砕く。


「こうなった以上できるのは、生き抜くことだけ! それが……私たちの使命よ!」

「はいっ! 何としても生きて帰りましょう!」


 抜け落ちていく足元を、決死の覚悟で走るレンとツバメ。

 一方メイは一人、残った足場に立ち黒竜を迎え撃つ。


「【裸足の女神】」


 飛び掛かりからの腕の振りをかわしたところで、迫る喰らい付き。


「【アクロバット】!」


 これをバク転で回避する。

 すると黒龍は輝く尾を一振り。

 一気に走るヒビが、大きな崩落を巻き起こす。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイは大きな跳躍で足場の残っている地点を目指す。しかし。


「なくなったあ……っ!」


 狙いの着地点が、崩落で落ちていく。

 そして空中で軌道を変えるすべなどない。


「でも、まだまだっ!」


 落ちれば即死の大穴を前に、メイは手を伸ばす。


「【ターザンロープ】!」


 崩れかけの上階に残った岩にかかるロープ。

 メイはそのまま大きな軌道で、空中を行く。


「アーアアー!」


 そのまま時計回りに一回転して剣を取ると、黒竜へと斬り掛かる。

 ダメージを受けた黒竜は大きく下がり、火炎放射器のように火を噴き出してきた。


「……必要なのはまず何より時間稼ぎ。もう崩落しちゃってるんだから……いいよね!」


 そう言ってメイは、右手を突き上げる。


「足元の悪い中ですが……よろしくお願い申し上げますっ!」


 壁面に描かれた魔法陣から、勢いよく飛び出して来るクジラ。

 突撃によって大きなダメージを与えると共に、炎も水しぶきによってかき消える。


「続きまして……よろしくお願いいたしますっ!」


 後方に生まれた魔法陣から現れたのは、冒険家のようにムチを手にした巨クマ。 

 落ちかけの足場を見事な跳躍で飛び越え、そのまま必殺のグレート・ベアクローを叩き込んだ。


「やったー! ありがとうっ!」


 強烈な連撃に、大きく体勢を崩す黒竜。

 帰っていく召喚獣たちにペコっと頭を下げたメイの、その手にはバナナ。


「1、2、3、4」


【蓄食】を発動し、【腕力】上げのアイテムを使用する。


「5、6、7、8、9……10!」

「グギャアアアアアア――――ッ!!」


 黒竜は全身を震わせるほどの咆哮をあげ、崩れ落ちていく岩場を駆けてくる。

 猛烈な勢いで振り降ろされる腕。

 メイはこれを決死の覚悟で避けていく。

 すると全身の結晶を煌々と輝かせた黒竜が、深紅の豪炎を吐き出した。


「がおおおおおおおお――――ッ!!」


 敵の灼熱ブレスを【雄たけび】でかき消し、メイは走る。


「【装備変更】」


 頭装備が狐耳に変わり、長い尾が生えた。


「【大きくなーれ】!」


 続いて【密林の巫女】で、【蒼樹の白剣】を成長させる。


「いっくよー! 最後は……燃える大きな【フルスイング】だああああ――――ッ!!」


 青い爆炎をまとった【腕力】100上げの一撃を、黒竜をへし折らんばかりの勢いで叩き込む。


「ギャオオオオオオ――――ッ!!」


 崩落に飲み込まれ、消えていくリザードドラゴン。

 こうしてメイは、再びの勝利を飾ったのだった。

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