第182話 打倒リザードドラゴン

 残りHPが半分を切ったリザードドラゴン。

 怒りの咆哮と共に、身体の各所に生えた結晶が輝き出す。


「グルァァァァァァ――――ッ!!」


 勢い、そして速度を上げた黒竜の突進。

 輝く結晶爪による突きからの振り払い。

 これに立ち向かったのはメイ。

 踊るようなステップでかわすと、リザードドラゴンはその腕を振り上げた。

 迫るは、猛烈な前腕の叩きつけ。


「よいしょっ!」


 これを横方向へのステップでかわすと、腕の結晶が強く輝く。

 地面から突き上がる結晶攻撃は、二回目だ。


「【アクロバット】!」


 今度は華麗な側転でかわす。

 するとリザードドラゴンは身体を一回転。

 光の軌跡を描きながら迫る、結晶の尾。


「うわっ!」

「ッ!!」


 明らかに攻撃範囲を広げた一撃が、メイとツバメのスレスレを通り抜けていく。

 尾が叩きつけられた地面に走るヒビ。

 立ち昇った光が、もの凄い早さでさく裂する。


「後列……までっ!」


 慌てて横っ飛び。

 レンもとっさの回避で身を守る。

 大きな振りの一撃をかわしたメイとツバメは、距離を詰めにいく。


「「ッ!!」」


 しかし光る尾による叩きつけは、思ったより隙が生じない。

 それは大きな挙動の後には大きな隙ができるという定番を裏切った、『プレイヤーを呼び寄せる』罠。


「グギャアアアアアア――――ッ!!」


 放たれる咆哮と共に、蜘蛛の巣状に地面を駆けていくヒビと光。


「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」


 直後の爆発を、真上への高い跳躍でかわした二人。

 その滞空中に、黒竜は後方へとステップ。

 口元が、煌々と輝き出す。


「メイ! ツバメ! 即死の炎が来るわ!」

「わあ! 本当だあーっ!」

「早く、着地をっ!」


 高く飛んだことがアダとなる。

 着地までの時間にも、リザードドラゴンの口元に灯る炎は輝きを強めていく。


「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 地面に足がつくと同時に、二人は近くの岩目がけて全力で走り出す。

 見事な脚の運びで駆けるメイに対し、ツバメはわずかに身体の運びに遅れが出る。

 放たれる、即死の豪炎。


「ツバメちゃん!」

「【跳躍】ッ!!」


 滑り込むようにして岩の裏へ飛び込むツバメ。

 その腕を先に着いたメイが引く。

 足元をわずかにかすめていく炎。

 ツバメは自身のHPゲージを見て絶句する。

 ほんの一瞬の接触で、残りHPは1割を切っていた。


「ツバメちゃん、大丈夫?」

「ど、どうにか間に合いました。ありがとうございます」


 駆け抜けて行く炎に、安堵の息をつく二人。


「よーし、ここから反撃だあっ!」

「はいっ」


 うなずき合う二人は、即死の豪炎を吐き終えた黒竜の前に出る。

 次の手は炎塊の乱舞。

 豪快に燃え上がる炎の砲弾で、一気に勝負をつけにくる。


「ここはわたしにお任せくださいっ!」


 前に出たのはメイ。


「【バンビステップ】!」


 次々に飛んで来る炎塊を、早い足の運びでかわす。


「いきますっ!」


 リザードドラゴンの狙いがメイに集中したところで、走り出すツバメ。


「【壁走り】!」


 そのまま壁から天井へ、黒竜目指して反時計回りで駆けて行く。


「ツバメちゃん!」


 すると黒竜の炎塊が一つ、ツバメに向けられた。


「ッ!?」


 予想外の一撃がツバメを捉える。

 天井に巻き起こる、猛烈な爆炎。


「問題ありません」


 しかしそれは【残像】

 ツバメは【壁張り付き】による急停止から、スキルを解除することによって始まる垂直落下で黒竜に迫る。


「…………背中に結晶」


 見るからに堅硬そうな結晶部位は、物理攻撃耐性あり。

 このままではほとんどダメージを与えられない。

 そう踏んだツバメは、武器を【デッドライン】に持ち替えた。


「良い武器に感謝です――――【アサシンピアス】」


 落下からの一撃が突き刺さり、黒竜のHPを削る。


「【紫電】」


 着地と同時に発動するスキル。

 電撃でわずかな硬直を奪う。


「【誘導弾】【フリーズブラスト】!」


 待っていましたとばかりに飛び込んでくる、氷塊の一撃。

 体勢を崩したところに駆けて来たのは――。


「【ラビットジャンプ】!」


 高い跳躍と共に、メイが剣を振り上げる。


「ジャンピング【フルスイング】だああああ――――ッ!!」


 叩き込まれた一撃が、リザードドラゴンを弾き飛ばす。

 これによって残りHPは、いよいよ2割を切る。

 メイは【バンビステップ】で追撃に向かう。


「せーのっ! 【フルスイング】!」


【蒼樹の白剣】で、置き上がったばかりの黒竜にトドメの一撃を叩きつける。

 豪快な全力攻撃で、勝負あり。

 誰もがそう思った瞬間、突然リザードドラゴンの尾が切れ飛んだ。


「え、ええええええ――――ッ!?」


 まさかの【尻尾切り】

【フルスイング】使用直後のメイに、大きな隙が生まれる。

 リザードドラゴンは待ってましたとばかりに、結晶輝く腕を振り下ろした。


「うわああああーっ!!」


 腕による一撃を喰らうと、さらに地面から突き出す結晶が追撃として叩き込まれる。

 この連撃で、メイのHPは半分ほどまで減少。


「グオオオオオオ――――ッ!!」


 止まらない。

 形勢を逆転したリザードドラゴンは、輝きと共に再生した結晶の尾を左右に二連撃。


「【ラビットジャンプ】! もう一回【ラビットジャンプ】ッ!」


 メイは決死のジャンプでこれを回避する。

 するとリザードドラゴンの尾が、これまでにないほどの光を灯した。

 跳躍。トドメとばかりに迫る、輝く尾の振り下ろし。

 光の軌跡を描く一撃は、回避しても爆発に巻き込まれるという最悪の一撃だ。しかし。


「……メイ、準備はできてるわよ」

「ッ! りょうかいですっ!」


 レンの一言で生まれる閃き。


「【装備変更】っ!」


 迫る縦方向の大技は、メイにとってはお得意様以外の何物でもない。

 頭装備を【鹿角】に替えると、豪快な光の軌跡を残しながら迫る必殺の一撃に真正面から立ち向かう。


「いくよー! とっつげきー!」


 そのタイミングは、寸分も狂わない。

 一撃必殺の輝く尾と、鹿の角。

 ぶつかり合った両者は大きく弾かれ合う。

 そして硬直からの復帰は、当然メイの方が早い。


「【バンビステップ】!」


【鹿角】による高速化で一気に突き進み、そのまま黒竜に特攻する。


「もう一回……とつげきだー!」


 弾き飛ばされるリザードドラゴン。

 その先にあるのは、レンの準備した【設置魔法】の陣だ。

 発動した【フリーズブラスト】は、猛烈な氷雪の刃を噴き上げる。

 大きく体勢を崩したリザードドラゴンのもとに駆け込んでくるのはツバメ。


「【電光石火】!」


 駆け抜けて、振り返る。


「【アクアエッジ】【四連剣舞】」

「【フリーズブラスト】!」


 すでに【コンセントレイト】で『溜め』状態になっていたレンの魔法が、【アクアエッジ】によって生まれた水分を凍結させる。

 ツバメが足を引き、レンも杖を下ろす。

 その視線の先には、ただ【蒼樹の白剣】を掲げて待つメイの姿。


「今よメイ」

「おねがいします」

「大きくなーれ!」


【密林の巫女】によって、伸びていく白刃。

 メイは力いっぱい【蒼樹の白剣】を振り下ろす。


「いっくよぉぉぉぉ!! 大きなフルスイングだああああああ――――ッ!!」


 豪快な風切り音と共に叩き込まれる必殺技。

【フルスイング】の上位版に与えられた『ため』効果も乗せたその一撃は、猛烈なエフェクトと共にリザードドラゴンに叩き込まれた。

 HPゲージ全損。

 黒竜リザードドラゴンは倒れ、そのまま大穴に落ちていった。

 最後の大物相手の見事な勝利。そして。


「…………本当に最後まで、容赦ないわねぇ」


 レンが息をつく。

 足元に、壁に、天井に走り出すヒビ。

 グランダリア大洞窟が、大きく揺れ始めた。

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