第181話 vsリザードドラゴン

「くるよっ!」


 グランダリア大洞窟29階に棲んでいたのは、身体の各所に結晶を生やしたリザードドラゴン。

 黒い鱗に金の紋様が入ったその巨体で、メイたちに飛びかかってきた。

 放たれる右腕の振り下ろし。

 これをメイがバックステップ一つでかわすと、黒竜は続けて左腕を払う。


「【跳躍】」


 これをツバメが後方への跳躍でかわすと、後ろ足にわずかな動きが見えた。

 速い突進による喰らい付き。


「【アクロバット】!」


 鋭い牙による一撃。

 しかしこのタイプの敵にすっかり慣れているメイは、余裕をもったバク転で回避する。

 さらにリザードドラゴンの予備動作から、次の動きまで予測。


「この動き……尻尾がくるよー!」

「はいっ!」


 メイの言葉通り、砂煙をあげながら接近してくる尾による攻撃を、二人は同時に跳躍スキルで回避。


「さすがメイね。おかげでタイミングが分かりやすかったわ! 【フリーズストライク】!」


 メイとツバメによる近接戦闘中に距離を取っていたレンが、尾撃の隙を突く。

 放たれた氷の砲弾は黒竜に激突して、HPゲージをわずかに減少させた。

 すると黒竜は、燃え盛る炎を吐き出す。


「「ッ!!」」


 岩石のような大きさの炎塊弾を、二つ三つと連続で吐き出すリザードドラゴン。


「【加速】【跳躍】!」


 これをかわしたところに、黒竜が飛び込んでくる。


「もう一度っ! 【加速】!」


 再び腕による振り下ろしが来ると予想して、横への移動をするツバメ。

 しかしそこに来たのは縦の軌道で迫る尾。


「ああっ!!」


 横方向への移動だったため直撃こそ回避したものの、地面を叩いた尾から割れ飛んだ結晶を被弾。

 ツバメはHPを3割ほど持っていかれる。


「またさっきの炎が来るわ!」


 即座に体勢を立て直すツバメ。

 レンの言葉を聞いた二人は、同時に走り出す。


「【バンビステップ】!」

「【壁走り】!」


 連続で放たれる炎塊弾。

 対してメイは地上から炎をかわしながら進み、ツバメは壁から天井へと駆けていく。


「それーっ!」

「【跳躍】!」


 メイは地面を、ツバメは天井を蹴る形で。

 二人の斬撃が交差するようにリザードドラゴンを斬りつける。

 見事な連携に微笑み合った二人は、そのまま駆け抜け跳躍。


「【フリーズストライク】!」


 締めとばかりに飛び込んで来たのは、氷の砲弾。

 リザードドラゴンのHPゲージが2割ほど削られた。

 すると黒竜の口元に、チラチラと炎が揺れるのが見え出した。

 それから大きな二度の跳躍で距離を取ると、リザードドラゴンは体勢を整え始める。

 ふくらむ胸元と共に、首が後方へ傾いていく。


「メイ! 岩の後ろに隠れて!」

「え?」

「メイさん! 岩の後ろですっ!」

「ええっ?」


 首と尻尾を傾げるメイ。

 駆け寄ってきたレンはそのままメイの腕をつかみ、岩の後ろへ。

 次の瞬間、視界を埋め尽くすほどの豪炎が付近一帯を飲み込んだ。


「あっぶない」

「わあ……」


 炎の通り過ぎた後は、一面真っ黒。

 付近を一瞬で炭にするその威力に、思わず感嘆の息をつくメイ。


「あの炎はため時間も長かったし、光り方も尋常じゃなかった。避けるための猶予が大目に与えられてたってことは、回避しないとほぼ即死だったはず」

「ええっ!?」

「岩場でのドラゴン戦では、定番のギミックなのよ」

「そうなんだ……えへへ、ありがとうレンちゃん!」


 そんなお約束を知らないメイは、レンの助けに笑顔を向ける。


「ふふ、でもまだまだ勝負はここからよ」

「はいっ!」


 元気に返事をして、駆け出すメイ。

 黒竜は長い跳躍から、結晶の生えた前腕を振り下ろしにくる。

 これを短いステップでかわす。

 するとそのままさらにもう一発、反対の腕による叩きつけ。

 これも見事にかわしたところで、腕の結晶が輝いた。


「うわああああーっ!」


 前腕叩きつけの直後に地面から突き上がった結晶塊が、メイを弾き飛ばした。

 まさかの二段階攻撃は、HPを2割も削り取る。


「グオオオオオオ――――ッ!!」


 黒竜はさらに、咆哮と共に結晶角を輝かせる。

 直後メイの足元に着弾した白の光弾は、波紋のように広がっていく。


「うわっ!」


 白色の輝きは『拘束』のもの。

 メイは全身を、白い輝きに囚われた。


「…………レンちゃん、ツバメちゃん」


 二人の名前を呼び、ただ一度うなずいてみせるメイ。


「了解!」

「了解です!」


 すぐさま二人はその意図を読み取った。

 助走をつけ、跳び上がる黒竜。

 それは当然、拘束されたプレイヤーを押しつぶすため。

 その巨体は容赦なく、メイに迫り来る。

 だが拘束は【耐久】と【腕力】によって、その時間が変わる。

 黒竜が跳躍し、その軌道を替えられなくなったところで。


「よい……しょっと!」


 メイは拘束の光をあっさりと引きちぎった。


「【装備変更】っ!」


 頭装備を【鹿角】にして、移動速度を向上。


「【裸足の女神】【バンビステップ】!」


 メイは走り出す。

 両足の装備を外して真っすぐに。

 驚異的なその高速走行は、飛び込んでくる黒竜の足元を抜けるようにして駆け抜けていった。

 そうなれば黒竜のボディプレスは外れ、ただの隙となる。

 そしてそこには【魔眼開放】状態のレンが杖を向けていた。


「【フリーズバースト】!」


 強烈な冷気が黒竜を打つ。


「【電光石火】! 【四連剣舞】!」


 飛び込んで来たツバメが、たて続けの剣撃を放つ。

 しかし硬直時間は思ったよりも短い。

 動き出した黒竜の反撃は、輝く爪によるもの。

 光の軌跡を描き、叩き込まれる一撃は――。


「がおおおお――っ!」


 ツバメに届く直前に放たれた【雄たけび】によって強制停止。


「【電光石火】!」


 駆け抜ける一撃と共に、ツバメは距離を取る。


「【フリーズストライク】!」


 そこに飛び込んで来たのは氷塊。

 直撃を受けた黒竜は、慌ててメイたちから距離を取った。


「やったね!」

「はい!」


 前衛のメイとツバメがハイタッチ。

 レンも杖を掲げてほほ笑んでみせる。

 これでリザードドラゴンの残りHPは5割を切った。

 息が荒くなり、全身にまとった結晶が輝きだす。


「グギャアアアアアア――――ッ!!」


 一度豪快な炎を吐いた黒竜は、いよいよその全力を開放する。

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