第159話 大変なことになりました!

 やっかいなボスがいる11階12階を、異例の早さで通過した3人。


「ここは地図のない階になるわね。気をつけて進まないと」


 天井は高く、むき出しの岩場と草木の生えた箇所がまばらに続く13階は、階段状の地形をしている。

 時に現れる大きな段差を下りながら、14階へと続く路を探さなくてはならない。

 まずはゆっくりと、付近を探索して回ることにする。

 視線を動かしながら、遠方を探すメイ。

 やがて、思った以上に近い距離から聞こえてきた音に振り返った。


「何か来るよっ!」


 下草を踏みながら歩く、見通しの良い一角。

 木々の影から飛び出して来たのは、大型の四足獣。


「どうみてもボス級のモンスターね……」


 獅子、山羊、竜の顔を持つ巨大な獣の名は、キマイラ。

 メイたちを発見すると同時に、三人を中心に円を描くような軌道で走り出す。

 その頭上に生まれる、無数の炎球。


「くるっ!」


 足を止めることなく放つ炎の魔法が、一斉に飛んで来る。


「【バンビステップ】!」


 メイはこれを速い足の運びでかわしつつ、距離を詰めて行く。


「いくよー!」


 そのまま懐に飛び込み剣を抜く。

 するとキマイラは後方へ跳躍し、背中の翼を広げた。


「わあ! 飛んだあっ!」


 高さ数メートルの位置で滞空し、竜が大きな口を開く。

 吐き出されるのは、豪快な炎。


「うわっと! 【ラビットジャンプ】!」


 メイはこれを大きな後方への跳躍で回避。

 空中からの攻撃はやっかいだ。


「でもその位置なら――【誘導弾】【魔砲術】」

「ッ! レンさんッ!!」


 宙へ逃げたキマイラを撃とうとしたレンに、大慌てでツバメが飛びつく。

 すると次の瞬間、レンのいた場所に大きな斧が突き刺さった。


「な、何よこれ!?」


 慌てて顔を上げると、そこには二足で立つ筋肉質な牛の化物。


「ミノタウロス!? ちょっと待って、これボスが合流してるわ!!」


 14層にいるボス級は、一種ではない。

 それが数日放置されたことによって、このような不運な合流を果たしてしまったようだ。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 レンは即座に四連続の魔法で攻撃する。

 しかしミノタウロスは武骨な鉄の盾を構え、スキル【堅防】でその威力を大幅軽減。

 巨大な雄牛は、反撃とばかりに砂煙を上げて特攻してくる。


「【加速】」


 猛烈な突進を前衛のツバメがかわすと、ミノタウロスは斧を取りそのままレンもとへ。

 この猛牛も、後衛に攻撃を仕掛けるタイプの様だ。


「【ファイアウォール】!」


 慌てて放つ炎の壁。

 するとミノタウロスはスキル【猛攻】を発動。

 それはダメージを受けながらも、ノックバック無視での進攻を可能にする。

 猛牛は炎の壁を突き破って、レンのもとへと突撃していく。


「マズっ!!」


 ミノタウロスはそのまま、鉄斧を大きく振り上げた。


「【加速】【紫電】」


 これを後ろから追いかけて来たツバメが、電撃で強制停止。


「【電光石火】!」


 速い切り抜けで一割弱ほどのダメージを与えた。


「助かったわ! 【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 まさに猪突猛進型のモンスター。

 レンも下がりながらの攻撃で、わずかにダメージを与える。


「うわっ!」


 キマイラの持つ山羊の顔が吠えると、飛んで来る光の砲弾。

 それが弾けると、強烈な閃光と共に大きな爆発を巻き起こす。


「このままだと時間がかかりそうね。メイ、戦う相手を換えましょう」

「りょうかいですっ!」


 ミノタウロスは防御力が高く勢いもあるが、速くはなく空も飛ばない。

 キマイラは空へ逃げるが、回避の得意な前衛と魔術師のコンビネーションなら戦えそうだ。

 対応モンスター交換のタイミングを、見計らう三人。


「……何だろう、この音」


 そんな中、空を駆け回るキマイラに【投石】だけでまあまあのダメージを与えるという凄まじい戦闘を見せていたメイが、声をあげた。


「何かが近づいて来る?」


 メイの【聴覚向上】が捉えたのは、慌ただしい無数の足音。


「……あれ、でも一人だけだ」


 木々の間から出て来たのは、見知らぬ一人のプレイヤー。

 しかしその後。


「え、ええええ――――ッ!?」


 たくさんのモンスターたちが、一斉にこの場に押し寄せてきた。

 それを引き連れて来たのは、命からがら逃げて来た一つのパーティ。

 そしてそんなパーティを追ってきたモンスターたちの最後尾には、新たな一匹のボス。

 戦闘中に突然ボスが登場し、態勢を整えようとしたところでさらに敵が集まり、あれよあれよという間にモンスターの隊列になってしまったようだ。

 こうして13階の一角に3体のボス、そして複数のモンスターが集結してしまった。


「これって……」

「危機的な状況ですね」


 これにはレンやツバメもさすがに驚きを隠せない。


「こ、これは大変だーっ!」


 まさかの光景に、メイも思わず叫び声を上げた。

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