第158話 ツバメ無双

「こうはんせんっ、こうはんせんっ」


 メイは鼻歌を口ずさみながら、10階の岩場を軽快に進んで行く。


「もうすっかりいつも通りね」

「はいっ、その節はご迷惑おかけしましたっ」


 お腹いっぱいメイは「てへへ」と後頭部をかく。


「ふふ、お母さんも香菜も一緒になってよろこんでたし、こっちがお礼を言わなきゃいけないくらいよ」


 終始楽しそうに夕食をとっていたメイ。

 星城家での夜は、いつも以上に賑やかなものとなった。


「さて、それじゃいきましょうか」

「はいっ!」

「初日後半戦ですね」


 普段は楚々とした歩みのツバメも足が弾む。

 現実世界は夜の21時半。

 楽しくなってくる時間帯だ。


「10階は問題なさそうね」


 落とし穴から落ちる形でやって来た10階は、マップ片手に難なく踏破。

 11階は、再び森が広がっていた。

 レンはさっそく、もらったばかりの地図に目を向ける。


「なるほど。神官の子が言ってた11階の面倒なボスモンスターって、こういうことなのね」

「どう大変なのですか?」

「距離を詰めさせてくれない感じのモンスターって感じ。とにかく遠距離からちまちま攻撃を当ててくるみたい」


 敵は狼の獣人。

 武器は炎の弓矢で、逃げ隠れに特化したタイプのようだ。


「動き回って戦うっていう事は、当然他のモンスターたちにも遭遇することになるのよね」


 そうなれば最悪、大量のモンスターに追われることになり、パーティは崩壊してしまう。


「それですと、メイさんに追ってもらう形でしょうか」

「それでもいいんだけど……逃げ隠れっていうのが嫌らしいのよ」


 せっかくメイがボスのもとに向かっても、その度に隠れられてしまってはらちが明かない。


「でも、問題ないわ」


 聞くからに厄介そうな状況。

 しかしレンは、大した問題とは感じていないようだ。


「何せ今回のボスには、大きな弱点があるから」

「弱点……?」

「ええ」

「レンちゃーん……見つけたよぉ……」


 そうささやきながら、メイが木の上からそーっと降りてくる。


「……あっちの岩、その影の辺りに狼型のモンスターがいる」

「ふふ。そんな小声にしなくても、この位置なら聞こえないわよ」


 歩き方まで『警戒している猫』みたいになっているメイに、笑うレン。


「かわいいです……」


 尻尾まで緊張させているメイに、ツバメも夢中になる。


「こうやって居場所を先に見つけてしまったら、やるべきことは一つだけ」

「……そういうことですか」


 ツバメは理解したとばかりに【隠密】を発動し、姿を消した。


「いってきます」

「……がんばってねぇ」


 小さく手を振りながら、やっぱり小声になってしまうメイに笑いながらツバメは進む。

 罠にだけ気をつけながら、辺りに視線を走らせている狼の獣人のもとへ。

 そしてその目前に来たところで――。


「【アサシンピアス】」


【グランブルー】を突き刺した。

 敵に認知されていない状態、そのうえで弱点を突いた場合、特効が乗ったその威力は間違いなく一撃必殺。

 11階を守るやっかいなボスモンスターは、得意の戦法を披露することなく消えていった。


「11階ボス最大の弱点は、この辺りに出るって地図に書かれてたことね」


 仕事を終えて戻ってきたツバメに、レンが笑みを見せた。

 場所さえ分かれば、メイの【遠視】が先行して敵を発見してくれる。

 あとは【隠密】で近づいて【アサシンピアス】を刺すのみだ。


「さすがツバメちゃんだねぇ」


 メイは尻尾をフリフリ、ツバメにほほ笑みかける。


「ありがとうございます」


 ツバメは嬉しいやら恥ずかしいやら。


「……これが恐ろしい話なんだけどね」


 そんな中、続くレンの言葉にメイが首と尻尾を傾げる。


「12階のボスはプレイヤーを麻痺させる霧を、広範囲に噴霧するかなり面倒なボスみたいなの」

「そうなんだぁ」

「それは大変そうですね」

「でも」

「でも……?」

「マーちゃんからバラでもらった地図で、これも大体の居場所が分かってる」

「「……なるほど」」


 三人は12階に着くと、即座に地図を確認。

 メイが【帰巣本能】で、13階へ降りるポイントを把握する。

 そしてボスはその手前付近に生息しているという情報をもとに、メイが【遠視】で目をこらす。


「【隠密】」


 先に見つけてしまえば、あとはツバメに託すのみ。


「【アサシンピアス】」


 見事12階のボス、アイアンワームを一刺しにしてみせた。


「こんなあっさりでいいのでしょうか」


 若干の困惑を見せるツバメ。

 しかし、消えない。

 12階のボスのやっかいさは、痺れる霧だけではなかった。

 スキル【食いしばり】は、ごくごく僅少のHPを残して一度だけ生き残るという効果を持つ。


「ッ!!」


 巨大な身体を持つ芋虫は、【食いしばり】発動と同時に怒り狂う。

 木々をなぎ倒し、地面に軌跡を残しながら容赦なくツバメを追ってくる。

 その怒涛の勢いに、観念したかのようにツバメは足を止めた。

 アイアンワームがその身体を持ち上げ、渾身のボディプレスを仕掛けてきたところで――――。


「【跳躍】」


 後方へ跳躍。

 ツバメの後ろにあったのは、地面に描かれた【設置魔法】の陣。

 直後、吹き上がった炎の砲弾によって12階のボス・アイアンワームは消滅した。


「……恐ろしい連携だわ」

「……とても非情です」


 炎を見ながら、思わずつぶやくツバメ。


「これが……アサシンの戦い方なんだね……っ」


 11階12階と、戦闘らしい戦闘を行わずに連続踏破。

 そのすさまじいペースと恐ろしい威力に、メイは思わずゴクリとノドを鳴らしたのだった。

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