第160話 ボス三体そろい踏みです!

 空を飛ぶキマイラと、地を駆けるミノタウロス。

 ボス級モンスターの共演という恐ろしい事態。

 さらにここへ、逃げ込んで来たパーティが連れて来たモンスターたちまで合流。

 その最後尾には、樹木型のボスモンスターである大型トレントが。

 かつてない最悪の状況に、逃げてきたパーティは愕然とする。


「申し訳ねえ! ボス三体同時なんてめちゃくちゃな状況にしちまって……っ」

「本当にごめん! この階がこんなことになってるなんて予想もしなかったんだ!」

「こうなりゃ仕方ねえ……どうせ全滅はまぬがれないんだ、せめて最後まで戦うぞ!」


 半ば自棄になりながら、覚悟を決める四人パーティ。

 もはや特攻も辞さない構えだ。


「私とツバメでキマイラとミノタウロス相手に時間を稼ぐ。その間にメイがトレントを片付けて、また3対2の状況を作るっていうのはどう?」

「分かりました」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」


 早い判断。

 メイは急加速して、一気にモンスターの群れに突っ込んで行く。


「【装備変更】」


 そして装備を【狐耳】へと変更。


「【キャットパンチ】!」


 放たれる連続の猫パンチは、【狐火】によって強化される。

 舞うような動きから放つ乱打は、高速で敵数を減らしていく。


「す、すげえ」


 その驚きに思わず視線を奪われる青年剣士。

 しかし、それがアダとなる。


「しまった!」


 追いついてきた大型トレントのツルが、剣士の死角から迫ってくる。


「っ! あぶなーいっ!!」


 これに反応したメイが、剣士の身代わりに。

 一斉に集まってきたツルは、メイを一瞬でグルグル巻きにしてしまう。


「マズい! このままじゃ引きずり込まれるぞ!」


 大型トレントの攻撃方法の一つは、捕まえたプレイヤーを引きずり込んで噛みつくというもの。

 助け出す猶予がある分、ダメージは甚大なものとなる。

 青年たちは大慌てでメイを助けに行こうとして――。


「あれ……?」


 おかしな現象に気づいて、足を止める。


「全然……動いてない」


 大量のツルでぐるぐる巻きにされたまま、メイはその場を一歩も動かない。

 ツルは震えるほど強く引かれているが、全くの不動。

 引きずり攻撃への耐性は、【腕力】と【耐久】の合計で変わる。

 その結果メイ、この攻撃を普通にこらえる。


「よい……しょっと」


 やがてメイは、自分をつかんでいるツルをつかむと……ブチィ!


「てへへ、ご心配をおかけしました」

「「「「ッ!?」」」」


 呆然とする剣士たちの目前でツルを引きちぎり、笑ってみせた。


「よーし、次はこっちの番だーっ!」


 そしてそのまま、【バンビステップ】で走り出す。

 飛んで来る無数のツルをかわし、一気に大型トレントの目前に。

 取り出した剣で斬撃を二発叩き込み、キツネの尾を毛羽立たせる。


「いっくよー! 【狐火】【フルスイング】だああああーっ!」


 巻き起こる、青炎の爆発。

 豪快なエフェクトと共に打ち付けられた一撃で焼かれた大型トレントは、早々に消滅した。


「残りのモンスター、おねがいしますっ!」


 笑顔でぺこりと頭を下げるメイ。

 一連の流れに唖然としていた剣士たちは、それで我に返った。


「わ、分かった! せめてザコは俺たちが喰い止めるんだ!」

「「「おうっ!」」」


 一方レンは、空を駆けるキマイラに杖を向ける。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 四連続の氷弾が、真っすぐその巨体に向けて突き進む。

 するとキマイラは進路を変更して迂回。

 飛行をやめ、レンに向かって地上を走り出した。


「【ブリザード】!」


 すかさず氷嵐の壁で足止めを計る。

 それでもキマイラは止まらない。

 吹き荒れる嵐を、翼で飛び越えてくる。


「【フリーズストライク】」


 この瞬間を狙い撃ち。

 これがキマイラの身体の一部にかすめた。

 しかし体勢を崩し切るには至らず、着地と同時に喰らい付きに来る。


「あっぶな!」


 これを横方向へ必死の回避。

 するとキマイラは再び空中へ。


「やっぱり飛行はやっかいね……っ」


 とにかく近接戦を避ける形で、時間を稼ぐレン。


「お待たせしました!」


 そこに、大型トレントを倒したばかりのメイの声が聞こえて来た。


「レンちゃん! 空中にいる間に魔法をお願いしますっ!」

「なるほど、そういうことね」


 意図を読み取ったレンは薄く笑い、再び杖を掲げる。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 放つ四連続の氷弾。

 これをキマイラが、やっかいな空中旋回で避けたところに――。


「――――大きくなーれ!」


【蒼樹の白剣】を掲げたメイは、【密林の巫女】を発動。


「いっくよー! せーのっ!」


 振り下ろされる『生きた剣』は、メイの声に合わせて成長。

 凄まじい早さで伸びていく。


「大きな【フルスイング】だああああーッ!」


 放たれるのは、長く重たい一撃。

 空中から迫るキマイラを、真正面から問答無用で叩き潰す。

 そのまま地面に深くめり込んだキマイラは、粒子になって消えた。


「想像以上の威力ね」


 早くも二体目のボス撃破に、軽くハイタッチをするメイとレン。


「【電光石火】!」


 ツバメはミノタウロスに早い一撃を叩き込む。

 しかしスキル【堅防】による大幅な防御力上げで、ダメージは軽微。

 その上ノックバックも微小なため、追撃も不可能だ。


「なるほど、普通に戦ったのでは何時間かかるか分かりません……っ」


 突撃してくるミノタウロスの回転斬りをかわし、再び【電光石火】で削る。

 そしてそのまま、手にした【ダインシュテル】を【投擲】した。

 このダメージはさらに微弱。

 薄くゲージを削っただけだ。


「ですが……」


 それでも、『一発』に変わりはない。

 身体に蓄積した毒が爆発し、ミノタウロスはその場にヒザを突く。


「【加速】【アサシンピアス】!」


 これまでの鬱憤を晴らすかのような早い刺突。

 しっかりとダメージを取って、振り返る。


「お願いします、メイさん!」

「はいっ! 【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ!」


 そこに飛び込んで来たのはメイ。

 なぜか普通の猫パンチ連打でミノタウロスのHPを削っていく。そして。


「お願いします、レンちゃんっ!」

「……私!?」


 どうぞ! と振り返ったメイにレンは慌てて走り出し、その手に【魔剣の御柄】を装備。


「【フリーズブラスト】!」


 生まれた氷雪の刃でミノタウロスを斬りつける。

 そこからさらに、もう一発。


「解放!」


 そのまま魔法剣に込められた【フリーズブラスト】を開放。

 全身を一瞬で氷漬けにされたミノタウロスは、レンが指を鳴らすと粉々になって消えた。


「おおー! かっこいいー!」

「華があります」

「い、意外な流れね……まさか魔術師の自分が、近接連携のトリを取るなんて……」


 メイの思い付きで生まれた新たなコンビネーションに、思わず笑うレン。

 魔術師が近接の攻撃で止めを刺すという流れに、思わず中二心をワクワクさせるのだった。


「……か、勝ったのか?」

「マジかよ……ボス三体同時だぞ?」


 ザコ狩りは無事完了。

 普通に考えればありえない勝利に、互いを見つめ合う四人パーティの面々。


「大丈夫でしたかー?」


 そこにメイが、笑顔で問いかけてきた。


「……ははーん。さてはもう死んでるな、俺たち」

「あー、死ぬ前に集団幻覚を見てるとかそういう」

「そりゃこんな可愛い子にボス三体の地獄から助けてもらうようなこと、起こるわけがねえ」

「心配しなくても、ちゃんと現実よ」


 苦笑いのレンが、一応小さくツッコミを入れる。


「マジか。それなら本当に助かったよ、ありがとう」


 剣士は大きく息をつく。


「連日の鉱石採掘での稼ぎが全部吹き飛ぶところだった……マジで救いの神様だな」

「ありがてえ……っ!」

「いえいえー」


 あがめるような態度の剣士たちに、さすがに少し照れるメイ。


「採掘ポイントって、この下の階にあるのね」

「ああ。ちょうどこの下、14階から採掘スポットなんだけど、地底湖がすっげー綺麗なんだ」

「あの光景、一度見ておいて損はないぞ」


 そう言い残して、剣士たちは嬉しそうに去って行く。


「……綺麗な地底湖ねぇ。初日だし今夜はここで終わろうかと思ってたんだけど……少しだけ夜更かししちゃいましょうか?」

「「ッ!!」」


 レンの言葉にすぐさまメイとツバメは目を輝かせ、思わず見つめ合う。


「いいと思います!」

「はいっ」

「それじゃいざ……14階の地底湖へ!」

「「おーっ!」」


 今夜は夜更かしで遊ぶ三人。

 たどり着いた14階には、美しい緑の光を放つ地底湖が広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る