第150話 最後の準備です!

「こっちです、皆さん!」


 ロンベルクから北部森林地帯へと向かったメイたちは、港町ラフテリアに戻ってきた。

 そこにはすでに、マーちゃんが待っていた。


「マーちゃん!」

「マップ、集めてきましたよ」

「ありがとう。助かるわ」

「マップ?」


 レンとマーちゃんの会話に、首と尻尾を傾げるメイ。


「はい。グランダリアは広大で深く、道も無数にあります。そのためマップを持って入るのが基本なのですが、ちゃんと記されていないものが多く出回っているんです。書きかけ、書き間違え、崩落による変化、とにかく半端なものが多くて」


 グランダリア大洞窟は、マップ帳を自筆で埋めて行くことも可能だ。

 ただ、広大なダンジョン内で実用に足りる地図を自力で作るのは、かなり難しい。


「半端なマップを持って入ったら、迷いに行くようなものなのよ」

「基本、作った地図の売買はプレイヤー間で行われているのですが、道一つの間違えで全滅するような場所なので、良いものが必要なんです」


 グランダリアの地図は無数に出回っているが、使う以上は目利きが必要になる。

 レンがマーちゃんに頼んだのは、そういった理由からだ。


「今回用意できたのは10階までの基本ルート、バラで12,14,17階のものを見つけてきました」

「分かりやすいマップねぇ、助かるわ」

「あと、新品のマップ帳ですね」

「ありがとうございます」


 受け取ったツバメが頭を下げる。

 メイたちは、これを埋めながら進むことになる。


「いえいえ。地軍勝利の奇跡を思えばこのくらい。ステータス上げの実もいただきましたし」


 ステータス向上アイテムはいい商売になるのか、マーちゃんはうれしそうだ。


「今回はグランダリア大洞窟に挑むのですね。やはり新記録樹立を目的に?」

「もっと気軽な感じよ。いつも通り、楽しめればそれでよし。もちろん準備はちゃんとしておくけどね」

「以前もそう言っていましたね」


 ヤマトの時も、最初レンは「メイやツバメと楽しくイベントが楽しめれば良い」と言っていたことを思い出す。


「ああー、楽しみだなぁ……っ」

「はいっ」


 実際メイもツバメも楽しそうだ。


「こんなに楽しそうな感じで、あれだけの奇跡を起こしてしまうのですね……」


 マーちゃんや他のプレイヤーたちの中では伝説となった『ヤマト天地争乱』も、メイたちの中では楽しかったイベントの一つ。

 そんな温度の差に、またも驚くマーちゃんだった。


「グランダリア攻略を終えたら、また話を聞かせてください」

「もちろんよ」

「楽しみにしています! ではまた!」


 そう言ってマーちゃんは去って行く。


「これで準備ができました」

「楽しみだなぁ。なんだか遠足みたいだね!」


 メイは尻尾をフリフリ、その場でくるくる。

 早くも楽しみで仕方がないようだ。


「やっぱり三人だと『攻略!』って感じより、遠足感が先に立つわねぇ」


 レンもくすくすと笑う。


「うんっ。お菓子を持って行きたいくらいだよー」


 そう言ってメイは、不意に動きを止めた。


「あっ、今日『ムーンライト』がお買い得なんだった!」

「それってクッキーよね。確かうちの近くでも週末までお買い得だった気がするわ」

「そうなんだよー。スーパーに入ってすぐのところにいっぱい置いてあると、ワクワクしちゃうんだぁ」

「カゴ取ってすぐのところにあるのよね」

「思わず四箱まとめてとって、四つは多いかなって悩んじゃうんだよー」

「その商品配置のスーパーって、サーミットじゃない?」

「うん。ものすっごく動きの速いパートさんがいて面白いんだよ」

「……え? まさかとは思うけど、それって眼鏡で背の低いおばちゃんだったりする?」

「うん、そうだけど……あれ?」


 会話の情報が合致した二人、思わず見つめ合う。


「レンちゃん、お惣菜を豪快に焼くおにいさんを見たことある?」

「背が高い、動きがゆっくりの人じゃない!?」

「そうそう! そうだよっ!」

「もしかして……」

「同じスーパー!?」


 予想外の展開に、思わず手を取り合うメイとレン。


「あ、あの、もし差し支えなければ……そのお店ってどこの店舗ですか?」


 そんな中、ものすごく緊張した顔のツバメが恐る恐るたずねてきた。


「「サーミット桜見台店」」


 ツバメ、その場に崩れ落ちる。


「桜見台……電車で……行ける距離です……っ」

「ツバメちゃん、それ本当!?」

「はい。桜見台は電車で数十分ほどで行けます」

「すごいすごい! ツバメちゃんすごーい!」


 メイはツバメに抱き着いて、ぴょんぴょん飛び跳ねる。


「一人だけ遠方みたいな形でなくて……本当に良かったです……」


 ツバメも強くメイを抱きしめ返しつつ、安堵の息をつく。


「なるほど。三人が直に会える距離にいるってことね」


 するとレンは、ニヤリと笑みを浮かべた。


「そういうことなら……ダンジョン合宿とかどうかしら」

「が、合宿ーっ!?」


 メイの顔がパアアアアっと、一気に明るくなっていく。


「うんっ! いいよ! すっごくいいっ!」


 そのままレンに飛びつき「やりますっ!」と大きくうなずいてみせる。


「いいと思います!」


 ツバメもこれ以上ないくらい乗り気だ。


「そういうことなら、次の三連休とかはどう?」

「賛成ですっ!」

「私も異存はありません!」

「決まりね。次の三連休は、グランダリア大洞窟を遊び尽くしてやりましょう!」

「「おおーっ!」」

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