第151話 グランダリア大洞窟

「すごーい!!」


 ラフテリアからのポータル移動。

 グランダリアに着くや否や、メイは歓喜の声をあげた。

 最初に目に入ってきたのは、長い長い幅を持つ壮大な滝。

 圧倒的な水量が流れ落ちる光景は、見るものを感動させるほど。

 陽光を反射する水流と、そこから生まれる重たい音が肌を震わせる。

 そんな滝を作り出しているのは、切り立った円形の台地。

 その脇には、地下へと向かう半円型の穴が開いている。

 ここが、グランダリア大洞窟だ。


「すごい光景ねぇ……ナイアガラの滝に負けないものにしたって雑誌には書かれていたけど」


 木々の立ち並ぶ深い森。

 拓かれたグランダリア大洞窟までの道には露店が並び、プレイヤーたちが行きかっている。

 ダンジョン内でのみ採取できる素材は、ここで換金しているようだ。


「いよいよ合宿の始まりだね」

「はい、昨日はワクワクしてなかなか眠れませんでした」

「本当に遠足気分なのねぇ」


 ふふっ、と楽しそうに笑うレン。


「そういえば、レンちゃんの名前って『星城可憐』っていうんだね」

「ちょっと派手目な名前なのよね」


 そう言って苦笑いのレン。


「……ナイトメアはどこに?」

「ナイトメアは本名関係ないのっ!」

「そうだったんだ……」


 いまいち中二病の感じが分からないメイは、ここでも首と尻尾を傾げてみせる。


「ツバメちゃんは名前のままなんだね」

「はい、『遠山つばめ』の平仮名をカタカナにしただけです」


 三人で露店の立ち並ぶ草原を抜けていくと、そこには石積みの建物が一軒。

 グランダリア大洞窟を進むには、この『ダンジョンギルド』で話を聞いてから向かうことになる。

 中に入るとすぐに、マスターらしき渋い中年男性NPCが声をかけて来た。


「グランダリア大洞窟への挑戦かい?」

「はいっ!」


 手を上げて、元気に応えるメイ。


「そうか。挑戦者は何人いてもいい。行くのを止めたりはしねえ」


 マスターはそう言って、ニッと笑う。


「たが大事なポイントがある。グランダリアは帰りも自力で戻ってくるってのが基本だ」

「ここが難しいところなのよね」

「自力で帰れなくなった時は、ギルドの救出隊が出動して回収という形になる。そうなった場合、手に入れたアイテムは救出費用として没収。実力不足としてダンジョンにはしばらく入れさせない」

「どういうこと?」

「リスポーンは『ギルドの救出部隊』の手を借りたっていう形になるみたいなのよ。この場合手に入れたアイテムは費用として没収。そのうえ一定時間再アタックはできないってことね。その辺の駆け引きも含めて、グランダリアを楽しめってことね」

「そういうことですか……」

「良いアイテムを手に入れたけど、帰り道で迷ってしまった。でもリスポーンはしたくない。それで帰って来られなくなってるプレイヤーを『住人』って呼ぶらしいわよ」

「なんだかドキドキしますね」

「目的を達成したらすぐに戻った方がいいぞ。欲張ると帰れなくなる。グランダリアはただ強いからといって、どうにかできるダンジョンではないからな」

「なるほどぉ」


 グランダリアの厳しいルールに、感嘆するメイ。


「……ん?」


 その耳に聞こえて来たのは、騒がしい足音。

 ギルドの筋肉質な男たちが、荷車に四人組のパーティを乗っけて戻ってきた。

 四人はそのまま、床に転がされる。


「ああー! やっと手に入れた龍宝玉がぁぁぁぁ!!」

「なんであんなところに罠があんだよ! 逃げた先に見計らったようにさぁ!」

「モンスター共の連携、ヤバすぎだろ……そこに罠だもんなぁ」

「龍宝玉を手にした時点で帰るべきだった。欲張ったばっかりに……っ!」

「だからって即死はないだろ、即死はぁ!」


 悔しそうに床を叩く四人組のパーティ。

 ダンジョン10階からの帰還は、まさにギルド救出部隊の手によるものとなった。


「これでまた三日は立ち入り禁止かぁ」

「仕方ねえよ。何かスキルでも増やしとこうぜ……」


 戦利品を没収された四人組のパーティは、悔しそうにギルドを出て行った。


「お前さんたちも気をつけな。引き際を間違えるとこうなっちまうからな」


 苦笑いのギルドマスター。

 こんな光景は連日、幾万回と行われてきたグランダリアの日常だ。

 あらためて見れば、ギルドのそこかしこに強制帰還となったプレイヤーが座り込んでいる。


「これまでの最高到達は22階だったかしら? トッププレイヤーを入れたパーティが、初めから帰還を捨ててとにかく特攻に集中した時のものね」

「どこまで行けるでしょうか」

「一応準備もして、三人で連休に合宿を開催。これで1階即リスポーンでも……正直楽しいけどね」

「はい。三人なら、いい笑い話になると思います」


 レンとツバメは笑い合う。


「それでは……行ってきます!」


 マスターにビシッと敬礼してギルドを出ていくメイ。

 こうして三人は、難攻不落のグランダリア大洞窟へと踏み込んだ。

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