第146話 フルスイング『Ⅲ』

「頼みというのは、『魔性樹』の伐採だ」


 スキル【フルスイング】の指南役、老騎士NPCは追加のミッションを提示してきた。

「東北の森に川があるのだが、そこに掛かっている橋が魔性樹に寄生されてしまってな。これを駆除してもらいたい」

「戦闘系のクエストね」

「ヤツはその根で人を襲う。そのうえ切っても切っても回復していってしまうのでな、早い勝負が必要になるのだ」


 老騎士NPCは「ワシの腰では間に合わなくてなぁ」とつぶやく。


「……その結果次第では、商人たちの往来を早めることができる。今日は薬の搬入が予定されていてな。それに間に合えばと、街の者たちも期待しておる」

「りょうかいですっ!」


 さりげなく『早さ』を求められたが、メイは気にすることなく応える。


「場所はここロンベルクを出て北東へ向かい、森に入って道なりだ」


 老騎士は、取り出した地図の一点を指さした。

 合わせてメイが【帰巣本能】を発動すると、魔性樹の方向にアイコンが見えるようになる。


「頼んだぞ。お前たちの仕事に、街の者たちの暮らしがかかっているのだ」

「はいっ! それでは行って来ます!」


 メイは老騎士に敬礼して、さっそく走り出した。

 レンとツバメも、その後について行くことにする。


「迷わず走り出したけど、メイの目にはガイドポイントみたいなものが見えてるの?」

「うん、距離も見えてるよ」

「それは便利ねぇ」


 メイのスキルによって、迷いなく最短距離を行く三人。

 ロンベルク東北の森へは、すぐにたどり着くことができた。


「あっ、あの橋だね」


 深い川に掛かった、一本の立派なつり橋。

 そこには『根だけで生きる樹木』みたいな、灰色のモンスターが張り付いている。

 メイが近寄って行くと、さっそくその根を伸ばしてきた。


「おっと!」


 襲い来る、無数の根。

 その動きは不規則で、どこから迫ってくるか分からない。


「……これ、捕まえに来る根を【腕力】で振りほどきながら、再生させないよう手早く倒すっていうミッションっぽいわね」

「再生を繰り返されてしまうと、商人の到着が遅くなってしまうという感じでしょうか」


 しかし、そもそも当たらない。

 伸びる無数の根を、メイは軽やかに避けていく。


「まるで攻撃がどう来るか、分かっているかのようです」

「植物系のモンスターはジャングルに結構いたんだぁ。トカゲと一緒に出てくることもあったんだよ」


 と、説明しながら根を避けるメイ。


「そういうことですか……」

「メイ、せっかくだから【フルスイング】を使ってみて」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」


 メイは迫る木の枝をひょいっとかわすと、一気に太い根のもとに駆ける。

 そして、手にした剣を大きく引いた。


「いくよー! 【フルスイング】!」


 豪快な風切り音と共に放たれる一撃。

 鮮烈なエフェクトが弾け、大きな身体を持つ魔性樹が大きく跳ね上がった。


「す、すごい威力……」

「次は向こうだねっ! 【バンビステップ】!」


 大元の根幹。その一つを一撃で叩き潰したメイは、すぐさま次の根のもとへ。


「もう一回! 【フルスイング】ッ!」


 これも一発で難なく消し飛ばす。


「衝撃波が出ない分、攻撃力が収束してる感じかしら……」


 避けられてもダメージの入る【ソードバッシュ】との違いは、分散を感じない点。

 やや発動後の隙が大きいものの、面白くなりそうだ。


「これで最後だーっ! 【ラビットジャンプ】!」


 自己再生の時間も与えない。

 勢いのままに、メイは高く跳び上がった。


「あっ、メイ! ちょっと待って!」


「いっくよー! ジャンピング【フルスイング】ーっ!」


 派手なエフェクトが弾け飛ぶ。

 連続で叩き込まれた全力の振り下ろしに最後の根が砕け、魔性樹は川へと落ちていった。

 橋も無事なままだ。しかし。


「うわー! 揺れるるるぅぅぅぅっ!」

「落ちたらリスポーンよ! 橋につかまってーっ!」


 揺れるものは揺れる。

 三人は足場にしがみついたまま、揺れが収まるのを必死に待つのだった。



   ◆



「橋は揺れたけど壊れてない。これなら【フルスイング】はダンジョンでも使えそうね」


 なんか少し傾いたような気がしないでもないつり橋。

 両手を合わせて謝るメイに、レンは笑い返す。


「この手のハプニングは、もっとあってもいいぐらいです」


 ツバメも楽しそうにほほ笑んでいる。

 三人はあっさり魔性樹の討伐を終えて、ロンベルクへと戻ってきた。


「おお帰ってきたか! 橋は使えるようになったみたいだな」


 するとすぐに、老騎士NPCが駆け寄ってきた。


「お前の『力』は大したものだ。モンスターの早い駆除に街の者たちもよろこんでおるぞ」


 そう言って老騎士NPCは、新たなスキルブックを取り出した。


「免許皆伝だ。これを持って行くがいい!」



【フルスイングⅢ】:フィールド上のオブジェクトを使った振り回しも可能になる。その際のダメージは『衝突』。また、その場で力をためて放つことも可能。



「Ⅲ……もしかしてこのミッション、クリア時間で報酬が変わるのかも」


 レンの予想は正解だ。

 早ければ『Ⅲ』になり、時間がかかれば『Ⅱ』となるのがこのミッション。

 ちなみに『Ⅱ』は、オブジェクトでも【フルスイング】が可能になるというもの。

 最速で魔性樹を駆除したメイは見事、『Ⅱ』の性能も併せ持つ【フルスイングⅢ】を手に入れた。


「オブジェクトの時は『衝突ダメージ』判定。せっかくだし何か振り回してみたら? ……メイ?」


 メイは、宿舎の壁に立てかけられた鉄のこん棒を眺めていた。


「どうしたの?」

「……大きなゴリラが、飛行機をつかんだまま暴れ回ったりする映画みたいにならないかな」

「っ!」


 思わず目を見開くツバメ。


「あははははは。言われなきゃそうは思わなかったわよ?」

「はうっ!」

「【裸足の女神】と同時使用すると、一気に雰囲気が出そうです」

「き、気をつけますっ!」


 基礎スキルを、他者とは違う形で手にしたメイ。

 しかし気になるのは、キングコング感が出てしまわないかの方だった。

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