第145話 フルスイング!

 メイの【帰巣本能】によって、三人は迷うことなくロンベルクの道を進む。

 たどり着いたのは街の片隅にある、古びた西洋宿舎のような建物。

 その門前には、老騎士のNPCが仁王立ちしている。


「分かりやすいクエストでいいですね」


 常時設営の開かれたスキル取得場は、やはり基礎技らしさがある。

 いかにも教えたがりな老騎士の姿が、何ともほほ笑ましい。

 メイたちの前には、スキルを求めてやって来た二人の戦士。

 どうやらまだ、『星屑』を始めてわずかなようだ。


「お前たち、このワシを訪ねてくるとはなかなか見込みがある」


 老騎士NPCは、メイ含め三人の挑戦者を見て満足そうにうなずく。


「だがもしもお前たちが『力』持たぬ者であれば、この技は意味をなさない。出直すことになるだろう」


 始まるクエスト。

 老騎士はややフラフラしながら、庭先の練習場へと進んで行く。

 そこには人数分、三つの岩が置かれていた。


「【フルスイング】の極意は、とにかく全力で叩くこと。三回の攻撃で、見事この岩を叩き割ってみせるのだ」

「……なるほど、【腕力】値で線引きされるのね」


 レンが見守る中、出て来たのは手前にいた男剣士。

 渡された鉄の斧を、思いっきり振り上げる。


「いくぞ! はあっ!」

「もう一回! もっと全力で!」

「おらーっ!」

「いいぞ! さあ最後の一発だ!」

「おりゃああああ!!」


 三発目。

 バキャッ! と心地よい音が鳴って岩が割れた。


「うむ、悪くないぞ。では次!」

「次は私の番ね。よいしょっと!」


 続く女戦士が、勢いよく鉄の斧を振り下ろす。


「もう一回!」

「ええええーいっ!」

「よし、最後の一発だ!」

「これでトドメよぉぉぉぉ—っ!」


 バキャッ! 続く女戦士も、三発で見事に岩を割ってみせた。


「うむ、なかなかだ」


 よしよしと、うなずく老騎士。


「最後は、お前だな」

「はいっ!」


 元気に返事して、メイは老騎士から鉄の斧を受け取った。


「よいか。全力で振り、しっかり当てるのだぞ」

「はいっ!」


 メイはそのまま鉄斧を高く掲げ、大きく息を吸う。

 先に試験を終えた二人は、早くも余裕の見学モード。


「せーのっ!」


 ゴッシャアアアアアアアア――――!!

 岩は、跡形もなく砕け散った。

 鉄の斧は地面にめり込み、老騎士にいたってはひっくり返っている。


「な、なにあの威力……」


 思わず尻もちを突いた二人の戦士が、驚きの声をあげる。

 するとそんな視線に気づいたメイは、そっとレンの横にやって来た。


「……ね、ねえレンちゃん。鉄の斧なら原始人ぽくないよね?」

「心配するのそこ? 大丈夫よ。石斧じゃないし、原始人感は出てないわ」

「よかったぁ」


 ちょっと安心しながら、鉄の斧を下ろすメイ。


「ふむ、筋がいい」

「いや老騎士も。ひっくり返ったまま『筋がいい』じゃないわよ」

「お前たちよくやったぞ。だがまだまだ【フルスイング】の道は始まったばかり。これからも『力』を磨き、精進するのだぞ!」

「はいっ!」


 ひっくり返ったまま話し出す老騎士と元気に応えるメイに、ツバメは笑ってしまいそうになる。


「老騎士は倒れたままだし、一発で岩が砕け散ったのにこのセリフ。なんだか一気にシュールな感じになったわね」

「砕けさえすれば、基本NPCのセリフは同じなのでしょうね」


 こうしてメイは、あっさりと新スキルの試験を終えた。


「さあ持って行くがいい。これが【フルスイング】のスキルブックだ」



【フルスイング】:【腕力】依存で放つ渾身の一撃。ある程度の【技量】がないと命中しづらい。



「無事手に入ったわね」

「うんっ」

「シンプルなクエストで、楽しかったですね」


【フルスイング】を取りに来た戦士たち二人も、岩の無残な砕け方に驚いていたものの、新スキルを手にうれしそうに去って行く。


「――――お前、なかなかやるな」


 そんな中、老騎士がメイに声をかけて来た。


「ありがとうございますっ」


 笑顔で頭を下げるメイ。


「……実はお前の力を見込んで、頼みたいことがあるのだが」

「あれ……レンちゃん、これって」

「ミッションね。こんな派生があったなんて知らなかったわ」

「基礎技である【フルスイング】を、ハイレベルのプレイヤーが取りに来る理由がありませんからね。ほとんど気づかれないままになっているのでしょう」


 このミッションは【腕力】と【技量】の合計値で発生する。

 当然『星屑』を始めたばかりのステータス値では起きず、かといってレベルが上がった頃にはもう【フルスイング】自体が必要ない。

 盲点と言えるミッションの発生に、ちょっと楽しそうにするレン。


「どうするメイ? 受けてみる?」

「もちろんだよっ!」


 意外な展開に、メイは大きくうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る