第144話 まずはのんびりスキル探し

「グランダリア大洞窟。通称『ダンジョン』」


 それは5年前に見つかった、広大にして危険な洞窟。


「もちろん中には、たくさんの強力モンスターがうろついてるわ」


 豊富なボスモンスターが現れるのも、グランダリア大洞窟の特徴といえる。


「それだけならいいんだけど、即死レベルの罠もあるみたいなの。そう考えると色々と準備をしてから行くのがいいかなと思って」

「なるほどぉ」


 レンの狙いは、ダンジョンという特殊な環境に対応するスキルを増やすことのようだ。


「なにせ相手は、難攻不落のグランダリアだもの」

「どんなところなんだろう……っ」


 現実にはないダンジョンという世界観に、メイは目を輝かせる。


「ダンジョンでリスポーンした場合、手に入れたアイテムなどは没収になるのですが、そのせいで帰れないままになってしまう人も多いようです」

「どういうこと?」

「まず、複雑な迷路になってる上に帰り道は基本自力なのよ。エレベーターみたいなものはないの」

「せっかく良いアイテムを手に入れたのに道に迷ってしまい、なかなかリスポーンの決断ができずにいる人がいるということですね」

「そうなんだぁ」

「もう半ば、ダンジョン内に住んでるプレイヤーもいるという噂ですよ」

「ダンジョンに住んでる……なんだろう、すごく共感しちゃう……」


 ジャングル暮らしになったきっかけを思い出し、感慨深い顔をするメイ。


「強敵に襲われる可能性あり、罠で死んでしまう可能性もあり。運よくお宝を手に入れても、ロストする可能性が非常に高いわけです」

「探索者がその都度『マップ』を作ったりもしてるんだけどね。それでもなかなか進めていないのよ」

「すごい……」


 どうやらかなり、緊張感のあるダンジョンのようだ。


「なんだか、ドキドキしちゃうねぇ」


 メイは尻尾をブルブルさせながらも、足を弾ませている。

 三人一緒に迷宮へ挑む。

 とにかくそれが楽しみの様だ。


「ただ、その辺りはメイの【帰巣本能】が活きてきそうなのよ」

「そっか! 確かにそうだね!」

「あと、気をつけたいのは『崩落』ね」

「ほうらく?」

「私の【フレアバースト】なんかもそうだけど、大きな衝撃を伴う攻撃は洞窟を崩しちゃう可能性もあるの。当然、崩落に巻き込まれたらリスポーンよ」

「わあ、本格的だねぇ」

「だから今回、私の【設置魔法】とか【魔剣の御柄】はすごく都合がいいの」

「……あれ、もしかして」

「そういうこと。メイの【ソードバッシュ】は最悪ダンジョンごと崩壊しそうだから、代用スキルが欲しいと思って。すごくシンプルな有名スキルなんだけど。取得はそんなに難しくないものがあるの」

「さっすがレンちゃん!」

「進行は【帰巣本能】で罠は【罠解除】。私は【設置魔法】と【魔剣の御柄】で崩落を起こさず攻撃。ここにメイの【腕力】依存攻撃スキルがあれば……」

「……いけそうな気がします」


 ツバメも大きくうなずく。


「そんなわけだから、まずはのんびりスキル探しから始めましょうか」

「はいっ!」


 メイは右手を上げて、元気に返事した。



   ◆



「目的のスキルは【フルスイング】よ」

「フルスイング?」

「『星屑』を初めると、割と早い段階で行ける街で取れるのよ。文字通り武器を全力で振るっていうスキルね」

「なるほどぉ」

「【腕力】依存なんだけど衝撃波とかは出ないはずだから、ダンジョンで使いやすいんじゃないかしら」


 ポータルで、ヤマトからいつもの港町ラフテリアへ戻ってきたメイたち。

 そのまま、戦士系の転職を司る西洋風の街『ロンベルク』へ。


「さすがに重装備のプレイヤーが多いわね」

「本当だねぇ……ガチャガチャする鎧も、ちょっとカッコイイね」


 メイはフル装備の騎士たちを見て、目をキラキラさせる。


「分かります。剣なんかもカッコいいものが多いです」


 ツバメも並ぶ様々な武器に夢中だ。


「ここから少し外れたところにあるんだけど、メイは南がどっちか分かる?」

「……南?」

「【帰巣本能】を使ってみて、何か変化はない?」


 メイがスキルを発動すると、視界にコンパスの模様が浮かび上がった。


「あれ、なんか矢印が見えるよ。あっちだ!」

「それじゃあメイ、この地図を見て」


 そう言ってレンは、街の看板に貼られた地図を指さした。


「ここが今から行くスキルの習得場所なんだけど、どう?」

「あ、レンちゃん! この道を真っすぐだよ!」


 メイの視界に映る星。

 それはゲーム画面で、次の目的地を示すアイコンの様に輝いている。


「グランダリアは迷宮よ。やっぱり、メイの新スキルが活きてきそうねぇ」

「すごーい」と歓喜するメイ。


 その姿にレンも、ワクワクし始めていた。

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