第147話 地図の知識
「レンちゃん、もう一つのスキルはどこにあるの?」
無事【フルスイング】を手にしたメイたちは、次のスキル目指して進む。
「グランダリア大洞窟に向かう前に取りたいスキル。二つ目は運の良し悪しも絡むって話なんだけど……」
「も、もしや……何かを盗めというクエストですか……?」
ツバメが震え出す。
「違う違う。NPCを見つけて話しかければいいの」
「そんなに簡単でいいのですか?」
「それがね。そのNPCは常に移動を続けていて、世界のどこかにいるっていうやっかいなキャラなのよ」
発見難易度が高いのに、手に入るスキルは【地図の知識】という地味さ。
「だから、あんまり情報もないのよね」
攻略にも『世界中を歩き回っているため、確実に会う方法はない』『見つけたら声をかけるといい』程度の記述しかない。
「でも、グランダリア大洞窟に行くって決めた後にSNSとか掲示板を回って目撃情報を探したら、最近のものがあったの。場所は北部森林地帯だったわ」
そこでレンが使った手は、目撃者の『投稿』を追うことだった。
「その前の情報ではもう少し南にいたから、進路は北。エルフの住処の方に向かってるはず」
「その後を追う形ですね」
「目的は旅の地図製作者『イノー』の発見と、スキル【地図の知識】をもらうことよ」
「はい」
「エルフの住処かぁ……どんなところなんだろう」
早くも足取りがはずみ始めるメイ。
三人はロンベルクからポータルを使い、北部への移動を開始した。
◆
ポータルを乗り継いで、ロンベルクから大きく北上。
北欧風の街並みが並ぶ、『星屑』の北西部へとたどり着いた。
そこからはあえて馬車に乗り、森林地帯の入り口まで移動。
「なんだか神秘的だねぇ」
密林とは違い、動物の鳴き声が少ない北部の森の中。
どこかひんやりした雰囲気が、何とも心地よい。
ゆっくりと歩を進める事しばらく。
メイが足を止めた。
「……なにかな。少し甘い匂いがする」
「もしかして、ユリじゃないかしら」
「そうかも!」
「さすが、メイは鼻も利くわね。だとしたらエルフの集落はこの辺りね」
「……レンちゃん」
メイが、聞こえてきた音に振り返る。
するとそこには、五匹ほどの狼。
「メイ、ちょっと引き付けててもらえる? 魔法を試したいの」
「りょうかいですっ」
メイは即座に走り出し、先頭の狼の前に飛び出して行く。
「【キャットパンチ】!」
飛び掛かって来た狼を軽快な猫パンチで叩き落すと、即座に粒子に変わる。
HPは決して高くない。
「【設置魔法】【フレアストライク】」
レンは足元に向けて杖を向け、新スキルを発動してみる。
すると地面に、魔法陣が描かれていく。
大きさは魔法によって違うようで、【フレアストライク】は直径2メートルほどだ。
「準備できたわ。こっちに連れて来て!」
「りょうかいですっ!」
メイは狼たちの飛び掛かり攻撃を、わずかな脚の動きだけで回避。
あえてゆっくり逃げを打ち、狼たちに後を追わせる。
「そこ、気をつけて!」
「りょうかいですっ! 【ラビットジャンプ】!」
魔法陣を見つけたメイは大きくジャンプ。
あとを追って来た狼たちは、そのまま魔法陣の上を通過して――。
吹き上がる炎の砲弾に、まとめて粒子になった。
火の粉をまき散らしながら、燃え上がる炎。
「……この魔法、楽しいわ。設置に少し時間がかかるけど、色々できそう」
思わず笑みがこぼれるレン。
「あっ、レンちゃん!」
「なに……って、きゃああああっ」
逃げるメイの跳躍した先には、棒立ちでニヤニヤしているレン。
当然、空中で軌道を変えるすべはない。
「わ、わわわわーっ!」
そのままメイはレンに飛びつく形になり、ごろごろと二人転がる。
「レンちゃん、大丈夫?」
「……ありがと。ふふ、こういう展開には気をつけないといけないわね」
これくらいなら衝突ダメージもなし。
メイに手を引かれて起き上がるレンは、とにかく楽しそうだ。
「さてと、この辺りにエルフがいるはずだけど……」
「あっ、あの子じゃないかな?」
すぐにメイの【遠視】が、耳の長い少女の姿を捉える。
「エルフさーん!」
少し離れた樹の上でまどろんでいた少女NPCに、メイはさっそく声をかける。
「はい?」
「この辺りに地図製作者さんが来ていませんかっ?」
「イノーさんですね。それだったら北の集落へ向かいましたよ」
「北の集落だって」
「……普通なら、ここは諦めどころでしょうね」
「そうなの?」
レンはどこまでも広がる北部森林地帯に目を向ける。
「この中に点在する小さな集落のどこかにいる。って、見つけるのかなり大変よ」
何せヒントは、集落の目印であるユリの花のみ。
それなら歩き回って探すより、南部の街で『イノーの帰還』を待つ方が確実だろう。
「でも、ユリが目印になっているということは……」
「目と鼻が利くメイさんには、そう難しい話ではない」
「そういうことね」
エルフの子供に手を振るメイを先頭に、三人は次の集落目指して歩き出した。
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