第142話 今度は友達と一緒に
「今のは……?」
レン宅に入るや否や、慌てて駆けて行った少女。
ツバメが問いかける。
「妹の香菜よ」
するとすぐに、香菜は母親を連れて玄関に戻って来た。
「あらあら、可愛いお友達で良かったわぁ」
「待って、人は見た目で判断しちゃだめよ! こんなに朗らかで明るい美少女でも、中身は闇の何とかにドップリつかっている可能性があるわ!」
「それは大変ねぇ」
「……三人で、一体何をする気なの?」
香菜は神妙な面持ちで問いかけてくる。
「普通に遊ぶだけよ」
「ミサは? 召喚は? 儀式の類はしないの?」
「しないわよっ!」
「本当にぃ……?」
「ツバメちゃん、儀式って何をするの?」
「お祈りとかではないでしょうか」
「むむむむむ……」
怪しいところがないか、ジッとさつきを見つめる香菜。
不意に「あれ?」と首を傾げた。
「なに、どうしたのよ香菜」
「もしかして…………メイちゃん?」
「はいっ、メイです!」
「やっぱり!」
さつきが元気に返事をすると、香菜は慌てて階段を上がっていった。
そして戻ってくるや否や、手にしたタブレットを向けてくる。
「うっ」
さつき、見た瞬間に白目をむく。
映し出されていたのは『星屑』情報誌の新刊。
その表紙になっているのは、クマの背に隠れてバナナを掲げるメイ。
そこには『野生・全開!』の文字。
「可憐姉、メイちゃんと友達だったんだ!」
すごいすごい! と、さつきの周りを飛び回る香菜。
それに合わせてツインテールも跳ねる。
「どういうこと?」
香菜の意外なよろこびぶりに、首を傾げるさつき。
「ヤマトのイベントをひっくり返したってのは、それだけ大きな話なのよ」
トッププレイヤー打倒という偉業も、さつきには実感なし。
レンたちと参加した大型対戦イベントが、とにかく楽しかったという記憶しかないのだった。
「……ていうか、どうして香菜が『星屑』の雑誌を?」
「私も遊んでるからだよ」
「そ、それなら何で私に言わなかったのよ!?」
「だって可憐姉と一緒だと、闇の組織に入れられちゃうし」
「ぐうの音も出ないわ」
中二病時代なら間違いなく『闇の使徒』として勧誘していただろう自分を思い、閉口する。
「メイちゃん、今度私とも遊んでね!」
「もちろんだよっ」
「やったー!」
両手を上げてよろこぶ香菜。
「よかった変な人じゃなくて。今夜ついに可憐姉の仲間がうちに集まるって聞いて、『姉が徹夜で闇の儀式をしてごめんなさい』って、近所に謝って回るつもりだったんだから」
「しないわよそんなことっ!」
香菜は安堵の息をつく。
するとレンの母も、穏やかにほほ笑んだ。
「それなら、生贄用のニワトリもいらないわねぇ」
そう言って、ニワトリのぬいぐるみを取り出してくる。
「そ、それで代用させようとしてたわけ……?」
「やっぱり生きたニワトリは……ねえ?」
ニワトリのぬいぐるみを受け取り、呆然とするレン。
「その子の名前ですが……イケニエでどうでしょうか」
ツバメはメイたちと出会ったジャングルでの事を思い出して、そんな提案をしたのだった。
◆
「わあ、綺麗なお部屋だね」
レンの部屋は物が少なく、綺麗にまとまっていた。
カーテンなどの黒レース部分が多少中二病感はあるが、シックな色遣いは大人っぽい雰囲気を感じさせる。
「普段はこんな感じなのよ。結構普通でしょ?」
そう言ってレンが余裕の笑みを見せた、その瞬間。
突然開いたクローゼットから、大量の中二病グッズがなだれ落ちて来た。
「「…………」」
「メイ、今すぐ私を【ソードバッシュ】で斬って」
死んだ目で言うレン。
「まとめて捨てようとしたら、回収車が来るまでこれらが道端に放置されることになるのよ。そんなの気が気じゃないでしょ?」
そのため今回は、全てクローゼットの中に押し込めることに決めたのだった。
「メイ?」
さつきはジッと、中二病グッズを眺めていた。
「……これ、ちょっとカッコイイね」
「すぐに片づけましょう!」
さつきにグッズを見せないようベッドに座らせると、そそくさと片づけを始める。
テキパキとクローゼットにグッズを戻していくレン。
その姿を見て、さつきは自然と笑みをこぼす。
「……こんな風に友だちと一緒に遊べるようになるなんて、思いもしなかったなぁ」
うれしそうに、そうつぶやいた。
「本当です。一人で遊んでいた時は、友だちの家で一緒になんて考えられませんでした」
「……私もやめるつもりでいたのよね。本当にあの時、メイに出会って良かったわ」
クローゼットを閉じて、レンがほほ笑む。
「そのおかげでジャングルでのイベントに参加して、ツバメとも出会うことになったんだもの」
ジャングルでの7年、中二病時代、他者との会話ゼロの日々。
各々その時のことを思い返し、もう一度顔を見返し合う。
「今はレンちゃんツバメちゃんと一緒でとっても楽しいよ! もっともっと色んなことをしてみたいですっ!」
「もちろんそのつもりよ。今回はせっかくこうして連休に集まったんだし、短期集中攻略でいきましょう」
「いいと思います。まさにこれは……合宿ですね」
ゲーム合宿という未知の体験に、ツバメの意気も上がる。
「合宿……っ」
さつきもその目を輝かせている。
背負った大きめのリュックは、宿泊のための荷物。
「まずはこのまま夕食まで。そのあと少し休んでお風呂。そこから……夜の部も始めちゃう感じ?」
「賛成ですっ!」
「それがいいと思います」
「遊んだ後も、レンちゃんたちと一緒にいられるっていうのはいいね!」
「最近はクエストを終えた後も、『星屑』の中でそのまま話してることが多いものね」
「名残惜しさゆえですね。ですが今日はログアウト後も一緒です。寝る時はどうしましょうか? 攻略の作戦会議をしますか?」
「いいじゃない。本当に合宿みたいね」
「た、楽しそう……っ!」
三人、友達の家に集まって同じゲームを遊ぶ。
さつきがワクワクしないはずがない。
「……それじゃ、いきましょうか」
「はい、いきましょう」
「うんっ! 今日も絶対、楽しくなっちゃうね!」
キラキラと目を輝かせるさつき。
七年前、初めてゲームを始めた時に負けないくらいの笑みと共に『星屑のフロンティア』を起動した。
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