第138話 決戦・天地争乱
それはイベント開始の直前。
レンが『準備』をしておこうと言い出した時の事だ。
「ねえマーちゃん、ヤマトで決戦の場になりそうな場所ってどれくらいあるのかしら」
「決戦? そうですね……7、8か所くらいでしょうか」
「なるほど、やってやれないこともないわね……」
見つかった【密林の巫女】による金策方法と、NPCの売る『種』には制限がないという事実。
「そういうことなら、イベントが始まる前に……『種まき』でもしておきましょうか」
そう言ってレンは、楽しそうに笑った。
◆
ジャングルに飲み込まれた、ヤマトの一角。
「なんだこれは、どうなっている!?」
当然、その中心にいたグラムは困惑しきりだった。
イベント直前に用意しておいた仕掛けが、ここで見事にハマり出す。
「いきますっ! 【バンビステップ】!」
木々の隙間を、圧倒的な身のこなしで駆け抜けるメイ。
一気に距離を詰め、【大蜥蜴の剣】で連続攻撃を仕掛けにいく。
これをグラムは短距離の高速移動でよけ、かわし、回避する。
「場所が変わったくらいでなんだ! 【ソニックドライブ】!」
そして後方への長い移動で、メイから距離を取ろうとして――。
「なっ!?」
肩が木の幹に直撃。
地を転がったグラムは、わずかに衝突ダメージを受けた。
「なるほど高速移動封じか………だがそれは相手も同じはず!」
「ッ!?」
「【モンキークライム】!」
しかしメイは当たり前のように木々を蹴り、枝から枝へと跳躍。
自由自在の動きで、ジャングルを駆け抜けてくる。
「なんだその動きはっ!? 【斬空閃】!」
「【ラビットジャンプ】!」
大きな軌道の斬撃は、高いジャンプでかわす。
「せーのっ! 【ソードバッシュ】!」
「【ソニックドライブ】! ぐっ!!」
これをどうにか回避するも、再び木にぶつかりグラムは衝突ダメージを受けた。
「【モンキークライム】!」
「【雷煌砲】!」
声のした方向に、慌てて放つ魔法。
しかしそこにメイの姿はなかった。
見えたのは、樹木の上部にかかった【ターザンロープ】
メイは樹を軸にして、巻き込むような軌道でグラムの背後に回り込んでいく。
「っ!?」
グラムが振り返るとそこには、ロープ片手に飛び込んでくるメイの姿。
「せーのっ! ジャンピング【ソードバッシュ】だーっ!」
「ソ、【ソニックドライブ】! うああああーっ!!」
予想外の軌道から放たれた攻撃に反応が遅れたグラムは、巻き起こる衝撃波で草の上をバウンドした。
「なんだ、これは……っ!」
自慢の高速移動スキルはその性能を発揮できず、視界を埋める木々が全ての把握を遅くさせる。
最悪の状況に、困惑するグラム。
「――――それでは」
メイは装備を【狐耳】に交換。
ふくらむ大きな尻尾と共に、バッと勢いよく右手を突き上げる。
「よろしくお願いいたしまーす!」
足元に描かれる魔法陣。
せり上がってきたのは、【幻影】によって二体になった巨大クマ。
「マズいっ!」
慌てて逃げ出すグラム。
しかし密林の中では、長い移動スキルが活きてこない。
巨グマが、後からついてくる。
両者の距離はすぐになくなり、二頭の巨大クマは同時に跳び上がった。
「くっ! 【鬼人の加護】!」
襲い来る爪の一撃を、グラムは最小限のダメージで抑えてみせる。しかし。
「ッ!?」
二頭目は青い豪炎に変わり、爆発。
「わあああああーっ!! なんだ、なんだこの攻撃はッ!?」
HPが半分ほどになり、グラムはいよいよ混乱し始める。
「1、2、3、4……」
その耳に聞こえてきたのは、謎のカウントアップ。
「なんだ……?」
「5、6、7、8……」
「今度は一体なんだというんだあッ!?」
「9……10!」
その目に映ったのは、帰りゆくクマの陰でそっとバナナを手にするメイの姿。
「バ、バナナだと……?」
「いきますっ!」
【蓄食】によって【腕力】の数値を大きく跳ね上げたメイは、走り出す。
【バンビステップ】で一気に距離を詰め、剣を構える。
「【ソードバッシュ】! からの【ソードバッシュ】!」
【腕力】向上によって威力を上げた『基礎技』は、巻き起こす衝撃波で木々をうならせ、大気を震わせる。
「そして【ソードバッシュ】からの…………【ソードバッシュ】だーっ!」
「くっ! 【ソニックドライブ】! 【ソニックドライブ】――ッ!!」
草木を千切らんばかりに揺らす、嵐のような剣撃乱舞。
直撃を受けたわけでもないのに1割、また1割とHPが削れていく。
「この威力、いったいどうなっているんだ!?」
グラムは木々にぶつかることも厭わず、転がりながら決死の回避を続ける。
「【ラビットジャンプ】!」
そしてメイが樹を蹴り大きく跳び上がったところで、その目を見開いた。
「きたっ!!」
その手を、空中のメイに向ける。
「この瞬間を待っていた! いくら木々を使った移動が得意でも、空中ではいい的だっ!!」
グラムの手に、弾けるほどのエネルギーが収束していく。
「喰らえ! ――――【雷煌震砲】!!」
轟雷が放つ猛烈な輝き。
魔術師たちですら羨望する、一撃必殺レベルの上位魔法がメイに襲い掛かる。
「がおおおおおお――っ!!」
しかし、空を震わせる咆哮の前に消滅。
「かき……消されただと……っ!?」
その威力を【腕力】と【耐久】に依存する【雄たけび】も、【蓄食】によって威力を上げていた。
グラムは意を決するように、後方へと距離を取る。
「ならば……我が最大の一撃で勝負だ」
それは高速移動に乗せて神槍を放つ、超高速超威力の最終兵器。
「いくぞ!」
収束するエネルギーエフェクト。
それが弾けた瞬間、投じられた神槍が轟音を響かせる。
「――――【神槍雷破】ぁぁぁぁ!!」
それは7年間、幾度となく地軍の軍勢をまとめて消し飛ばしてきた最強の必殺技だ。
しかし、走り出したメイは止まらない。
「【装備変更】」
頭には鹿の角。
そのまま真っすぐ、迫る槍の切っ先へ向かって突き進み――――見極める。
「とっつげきー!」
「な……んだとォォォォ!?」
たとえどれだけ強力な一撃でも、完全にタイミングを合わせたパリィは強力無比。
【鹿角】と激突した神槍が、大きく弾け飛ぶ。
【雷煌震砲】と【神槍雷破】
2つの最終兵器を打ち破った野生の王者を前に、もはや打つ手なし。
「【ラビットジャンプ】!」
大きく跳び上がったメイは、そのままグラムに向けて一直線。
「いっくよぉぉぉぉ! ジャンピング【ソードバッシュ】だぁぁぁぁっ!!」
「一体……一体なんだというのだぁぁぁぁ――――っ!!」
地が割れ、ジャングルが大きく揺れる。
【鬼人の加護】は物理攻撃を大幅に軽減し、グラムはHPをまだ3割弱ほど残していた。しかし。
メイの放った一撃は、残っていたゲージを難なく吹き飛ばしてみせた。
最強とうたわれたスキル、そして神槍。
その全てを攻略しての、完全勝利だ。
「負けたのか……私が」
驚愕の面持ちでつぶやく、天軍将グラム・クインロード。
ヤマトの一角を飲み込んだジャングルを仰ぎながら、粒子となって消えていった。
メイはゆっくりと、【天地の御剣】のもとへ。
そこに流れ出す、運営のアナウンス。
『――――将軍が倒れ、戦いに決着が尽きました』
『――――ヤマト天地争乱。今年度の勝者は』
『――――地軍!』
「メイちゃん来たァァァァ!!」
「マジでやりやがったー!」
「8年目は奇跡の、地軍勝利だああああー!!」
そしてヤマトの街は、イベント史上最高の盛り上がりを迎えた。
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