第137話 グラム・クインロード

「……今、どうやって走ってきた?」


 風のようにやって来たメイに、グラムが問いかける。


「ふふふ普通の二足歩行ですっ!」

「一瞬、猿のような――」

「き、気のせいです! はい!」


 これ見よがしにスクワットをして、『二足』アピールをするメイ。

 するとグラムは、岩に刺さっている【天地の御剣】に視線を向けた。


「……まあいい。初めて会った時は、こんな再会をするとは思いもしなかったぞ」


 そして、ゆっくりと振り返る。


「だが……好都合」


 揺れる長い白髪。

 ひざ下までの黒いコートに黒銀の部分鎧をつけた姿は、身体が小さくとも迫力十分。


「このままイベントを終えてしまったのでは、面白くないと思っていたところだ」


 そう言って胸を張る。

 その手には、白金の長槍。 


「言っただろう? 我が強さを思い知らせると」


 勝気な笑みと共に、グラム・クインロードは切っ先を向けてくる。


「さあ我が前にひれ伏すがいい! 地軍将メイ!」

「負けないよーっ!」


 メイを送り出すために集まった、地軍の仲間たち。

 金糸雀やローランの足止めを買って出た、レンやツバメ。

 メイの目は、燃えていた。

 やがて二人は、静かに武器を構える。


「【ソニックドライブ】」


 先手を打ったのはグラム。

 次の瞬間には、メイの懐に。

 早い突きの三連発、メイはわずかな身体の動きだけでかわす。


「【斬空閃】!」

「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」


 続く薙ぎ払いを、大きなバク宙で回避する。

 するとグラムは、手にした槍を振りかぶった。


「――――【グングニル】」


 ドンッ! と重い破裂音を鳴り響かせての投擲。


「うわっと!」


 強烈な風切り音を奏でながら迫る槍を、メイは屈伸一つで回避する。

 直後、後方に走る閃光。

 巻き起こった爆発が、暴風を巻き起こす。


「【バンビステップ】!」


 メイはこの隙に、武器を手放したグラムのもとへと迫る。


「【雷煌砲】」


 空いた手から放たれた轟雷。

 強烈な雷光が付近を駆け抜ける。


「【ラビットジャンプ】!」


 しかしメイの跳躍はさらに上方を行き、そのままグラムのもとに飛び込んでいく。


「せーのっ! 【ソードバッシュ】!」

「……【ソードバッシュ】?」


 飛び掛かってくるメイの『基礎技』に、不可解な表情を浮かべるグラム。


「【ソニックドライブ】」


 選択したのは後方への回避だ。しかし。


「な……にィ!?」


 巻き起こった衝撃波に、地を転がった。


「どうなってる、基礎技の威力ではないぞ」

「このまま一気にいきますっ! 【バンビステップ】!」


 当然この隙を、メイは逃さない。

 武器を持たないグラムを狙い、距離を詰めて行く。

 しかし、メイがさらに踏み込んできたところで――。


「槍が……戻ってきた!?」


 回転しながら戻ってきた神槍を、グラムが手に取った。


「槍がなければ攻撃力激減。狙うなら今だと思ったのだろう?」


 そしてニヤリと笑う。


「武器を手放したのは『エサ』に過ぎないっ! 【斬空閃花】!」


 それは連続して六本の斬撃を放つ、高速かつ高威力の範囲攻撃。


「【装備変更】!」


 対してメイは、頭装備を【猫耳】から【鹿角】に変えた。


「【バンビステップ】!」


 速度を上げた足の運びで、真正面から斬撃の嵐へと飛び込んで行く。


「右下左、右左下!」


 迫る六連の軌跡を踊るような動きで切り抜け、さらに前へ。


「かわしただと!? だが! 【ソニックドライブ】――――【グングニル】!」


【ソニックドライブ】は、地上はもちろん空中へも跳べる優秀な高速移動スキル。

 後方への跳躍から放った神槍が、メイの足元に突き刺さる。


「うわあっ!」


 荒れる爆風に吹き飛ばされ、HPゲージが1割弱ほど削れられた。


「【ソニックドライブ】!」


 グラムは追い打ちをかけにいく。

 神槍を回収し、砂煙を上げながら放つ一撃は――。


「【クインビー・アサルト】!」


 シンプルゆえに超強力な『突き』


「ッ! 【バンビステップ】!」


 起き上がり際、直撃は回避した。

 しかし穂先から放たれた閃光が炸裂し、猛烈な衝撃を放つ。


「わああああーっ!」


 この一撃が、メイのHPをさらに2割ほど減少させた。


「……【神槍グングニル】と【ソニックドライブ】の組み合わせ。これを超えることなど、不可能だ」


 得意げにするグラム。

 開始一年目にしてこの二つを手にしたグラムは、そこから勝利を続けトッププレイヤーとなった。

 それほどに強力な組み合わせだ。


「カッコいい……」


 素直に感嘆するメイ。


「わっはっは、そうだろう! さあこのまま一気に片を付けてやる! 【ソニックドライブ】!」


 グラムは大きく踏み出し、神槍を振り払う。


「【斬空閃花】!」


 一斉に襲い掛かってくる、六連の軌跡。

 しかし二度目の技。

 メイは真正面から立ち向かう。


「右下左、右左……今だっ! 【ラビットジャンプ】!」


 六発ある【斬空閃花】の最後は薙ぎ払い。

 メイはそこに、【ラビットジャンプ】を滑り込ませた。

 針の穴を通すような跳躍で、迫る槍の軌跡を越えて行く。


「なにッ!?」


 メイはそのまま、グラムの頭上へ。


「【ソードバッシュ】!」

「くっ! 【鬼人の加護】!」


 大急ぎのスキル発動が救いとなる。

 グラムは大きく弾き飛ばされたものの、ギリギリ発動が間に合った『ごく短時間だが物理ダメージを大幅減少』するスキルで難を逃れた。

 ここからメイは攻勢に出る。

 突き上げた右手に輝くのは、召喚の指輪。


「――――よろしくお願い申し上げますっ!」


 足元に描かれていく魔法陣。

 現れた巨大なクジラが、豪快に宙を舞う。


「なんだ……これは……っ! 【ソニックドライブ】!」


 特攻してくるクジラから、グラムは高速移動スキルの連発で逃げ回る。

 場所の良さも手伝い、どうにか体当たりを回避することに成功。

 しかしクジラの攻撃は二段仕掛け。

 着水点から生まれた濁流が、押し寄せてくる。


「【大車輪】ッ!!」


 押し寄せる流水。これも魔法系防御スキルで大幅軽減。

 7年連続の勝利によって得てきた報酬たち。

 誰も天軍の勝利を疑わなかった理由が、この反則級と言われる攻防の強さだ。


「続きまして――――」


 だが、それでもメイは動じない。

 突き上げたままの手。

 ゆっくりと、口元にそえる。

 誰かに呼びかけるような格好になったところで、大きく息を吸う。そして。


「みんなー!」

「…………?」


 グラムは意味を計りかねる。

『みんな』と呼びかけるような数のプレイヤーなど、この場には存在しない。

 ならば一体、メイは『何に』呼びかけているのか。



「――――大きくなぁぁぁぁれっ!!」



 響き渡る声。

 その直後、風景が一気に変化を始める。


「な、なんだこれは……っ」


 伸び上がる無数の木々が、一斉に視界を緑に変えていく。

 枝々は結び合って建物を飲み込み、生い茂る草花が足元を覆い尽くす。

 その密度は驚くほどに濃く、空を隠してしまうほど。


「どうなってるというのだ……」


 あり得ない事態に、グラムは思わず後ずさりをする。


「ヤマトに……密林が……」


 壮観な光景に、「すごーい!」と楽し気に跳ねるメイ。

【密林の巫女】がヤマトの一角に生みだしたのは――――ジャングルだった。

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