第136話 天地の御剣へ向かいます!

【天地の御剣】を目指して、メイは一人ヤマトの街を駆ける。


「……あれは」


 その道の先に見えたのは、大挙する天軍プレイヤーたち。

 ローランは、ヤマトの中央付近に人員を多く配置していた。

 それは御剣の発見と同時に、進路を塞ぐためだ。


「とにかく先手だ! 先手を打て!」


 天軍プレイヤーの叫びと共に放たれる矢、魔法、投擲武器。

 ローランの作戦は『見つけ次第即全員攻撃』

 そうすれば、戦闘開始と同時にメイの強力な一撃で崩壊してしまうという流れは、ある程度止められる。

 さらにメイの足を動かし続けることで、召喚による壊滅も防ごうという狙いだ。


「うわわわわっ! 【バンビステップ】!」


 驚くメイは、それでも天軍の雨のような攻撃をかわしていく。そして。


「【ソードバッシュ】!」

「うわああああーっ!!」


 敵軍の先端部隊にたどり着いた、メイの一撃がさく裂。

 天軍プレイヤーたちが吹き飛ばされる。


「ッ! 【バンビステップ】!」


 しかし降り注ぐ敵の攻撃の前に連打とはいかず、いったん回避のため下がる。

 天軍のスキル撃ち放題攻撃は、狙い通り時間を稼ぎ始めた。


「そういうことならっ! 【装備変更】【蓄食】!」


 ここでメイは頭装備を【狐耳】に変更し、移動速度上昇。

 さらに知力上げのリンゴを使う。


「【バンビステップ】! 1、2、3、4、5」


 前進しながら『知力』を向上。


「6、7、8、9……10! 【ラビットジャンプ】!」


 メイは降り注ぐ攻撃をかわしながら、敵陣の懐に入り込む。


「ジャンピング【ソードバッシュ】! ――――エクスプロード!」

「ウオオオオオオッ!?」

「ど、どうなってんだこれ!?」

「レベル70のヤツが一発で消えたぞ!?」


 数百人の部隊を消し飛ばされ、驚きふためく天軍。

 メイはさらに次の一団のもとへ向かい、これもわずか一撃で壊滅。

 一気に敵陣を崩し出す。


「時間を稼げ! 今年の地軍将はヤバいぞ!」


 しかし大きな戦いが始まったことが目印となり、数百人単位の一団が次から次へと集まってくる。


「とにかく、とにかくここで食い止めるんだ!」


 それはもはや、メイの足止めをするだけの一大部隊。


「こ、これは大変だあーっ!」


 あくまでグラムが先に【天地の御剣】へたどり着けば良し。

 時間さえ稼げれば十分という捨て身の姿勢に、メイが悲鳴を上げる。

 人数において優位を持つ天軍。

 その壁は、厚さをどんどん増していくばかりだ。


「――――遅くなりました」


 そんな中、聞こえてきた声。


「……マーちゃんっ!!」


 そこに現れたのは、地軍の大隊を連れたマーちゃんだった。


「このまま横から天軍を叩きます! メイさんの進む道を作りましょう!」

「オオオオオオオオ――――ッ!!」


 武器を手に、一斉に拳を突き上げる地軍プレイヤーたち。

 昨年までと違い、次々に伝えられてきたメイたちのミッションクリア報告。

 それによって、地軍の意気は上がっていた。


「地軍将は、グラムのヤツを頼むぜ!」

「ここは俺たちで押さえる!」

「メイさんは天軍将をおねがいします! 召喚士!」


 マーちゃんの合図に、召喚術士が応える。

 空から降りて来た巨鳥が炎をまとい、鳳凰のような姿になって天軍へ特攻。

 爆発と共に、猛烈な炎を巻き起こす。


「今です! 全軍突撃ィィィィ!!」


 敵がひるんだところに弓術師が一斉に矢を放ち、魔術師や戦士たちが突撃を仕掛ける。

 側方からの攻勢は数に勝る天軍の陣形を崩し、見事に隙間を作り出した。


「マーちゃん、みんな……ありがとーっ!」


 歓喜の声をあげるメイに、わき立つ地軍プレイヤーたち。


「【バンビステップ】!」


 メイはすさまじい勢いで、マーちゃんたちが作った天軍の隙間を抜けて行く。

 走り出してしまえば、もうその足は止まらない。

 やがて天軍の並びが途絶え、道が開けた。

 だがグラムとの距離は長い。

 ここでメイは、とっておきのスキルを発動する。


「……い、いくよー! よ、よ、よ、【四足歩行】だーっ!!」


 そして、全てを置き去りにした。



   ◆



「て、天軍将が来た……っ!」

「いくぞ! 相手が有名人だろうと関係ない! 御剣を取られたらお終いなんだ!」

「おう! 掲示板組の力を見せてやる!」


【天地の御剣】前で待機していた四人パーティは、堂々と歩みを進めて来るグラムに襲い掛かる。


「【ストームバースト】!」


 吹き荒れる猛烈な爆風。


「【大車輪】」


 しかしグラムが槍を回転させると、魔法はかき消された。そして。


「【ソニックドライブ】」

「「「ッ!?」」」


 グラムは高速移動スキルで四人の背後に回ると、そのまま長槍を一振り。


「【斬空閃花】」


 駆ける六本の軌跡で、三人まとめて粒子に変える。


「くっ! レベル60台が四人がかりでこれか……っ」

「【ソニックドライブ】」


 続く高速の突き。

 残された剣士は、これを運良く回避した。


「ほう?」


 それでも、グラムはまるで意に介さない。

 残った剣士の連撃を高速移動でかわし、【斬空閃】で斬り捨てる。


「ふん」


 街並みの奥に置かれた、切り立つ大岩。

 その天辺に刺さった【天地の御剣】のもとへ、グラムは進んでいく。


「8年目も、私の勝利だ」


 あっという間の戦闘。

 しかし消えゆく地軍四人組は、時間稼ぎを成功させた功労者となる。


「――――【ラビットジャンプ】!」


 超スピードで街を駆け抜けて来た地軍将メイは、強く地を蹴り空中で一回転。

 右手を突き、遅れて来たヒーローのような姿勢で天軍将グラムの前に降り立った。


「間に合ったぁ! 【天地の御剣】は渡しませんっ!!」

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