第135話 VSローラン

 レンと別れたメイたちは、『御剣』のもとへと駆ける。


「……追って来てる」


 二人の追走に気づいたのは、後方確認を怠らなかったローラン。


「残りは二人。次は私の番だね」


 ローランはここで、足止めを買って出た。


「グラムはとにかく先を急いでね。このまま御剣のところに先に着けば、今年も天軍の勝ちなんだから」

「分かっている」

「すぐに後を追うよ」

「だが追いついた時にはもう、天軍の勝利が決まっているぞ」

「そういうことだね。仮にメイちゃんがここを通り抜けても、グラムには追いつけないと思うし」


 ローランは爽やかな笑みを残して足を止め、踵を返した。


「ッ!」


 空を切って飛来した一本の矢を、メイが回避する。

 直後、後方で巻き起こる大きな爆発。

 視線の先には、洋弓を手にしたローラン・アゼリアの姿。


「メイさん、おねがいします」

「りょうかいですっ!」

「【ラピッド・ワン】」


 特攻して来たメイから、ローランは一歩だけだが早く長い移動スキルで距離を取る。


「がおおおおーっ!」

「ッ!?」


 しかしメイの【雄たけび】は範囲技。

 ローランはその身をわずかに硬直させた。


「すでに天軍将は先を急いでいるはずです。メイさんはこのまま行ってください」

「うんっ。あとで会おうね!」

「もちろんです」


 硬直が解けると、ローランはすぐにメイの後を追おうと振り返る。

 しかしそこには、小柄なアサシンが立ち塞がっていた。


「これはうまいことやられちゃったなぁ」


 苦笑いのローラン。

 もう戦いを避けては通れないと、手にした洋弓を構える。


「通してもらうよ」

「そうはいきません」


 ツバメも二本の短剣を取り、腰を落とした。

 途端に、緊張感が走り出す。


「【ラピッド・ワン】【回転跳躍】!」


 高速ステップで斜め前方へと踏み出したローランは、そのまま伸身宙返りで空中へ。


「【曲芸射撃】【速射】っ!」


 ポニーテールを揺らしながら矢を三連発。


「ッ!?」


 近接、しかも空中からの三連射という聞いたこともない攻撃に虚を突かれる。


「【加速】ッ!」


 これをどうにかかわし、前を向く。


「【ラピッド・ワン】【速射】!」


 着地したローランは、右へのステップ中に矢を二発。


「【跳躍】!」


 ツバメはこれを後方へ跳ぶことで回避する。


「どんな体勢からでも矢が撃てるのですか」

「すごいでしょう? 【オートエイム】のおかげで、どんな体勢でも狙いは的確だよ」


 本来、弓矢は接地状態から放つもの。

 でなければ攻撃判定が『点』の弓矢は、早々当たらない。

 しかしスキル【オートエイム】があれば、跳躍中でも関係なし。

 これに高い【敏捷】と移動スキルを組み合わせることで、近接戦闘のできる弓手のでき上がりだ。


「ッ!」


 放たれた矢を、ツバメがかわす。

 駆け出したローランは、通常移動もかなりの速度だ。


「【アクアエッジ】」

「【ラピッド・ワン】」


 水刃によるけん制を潜り抜け、弓を構える。


「【五矢射ち】!」


 それは五本同時に矢を放つ、扇状の範囲攻撃。


「ッ!! 【加速】!」


 ツバメは斜め後方への回避を狙うも矢は腕を掠め、HPゲージが2割ほど吹き飛んだ。


「……なかなかやるなぁ。弓術師の接近戦は、初見は驚きですぐに勝負がつくんだけど」

「近距離も得意じゃないと、弓使いが将軍の隣を付いてくるはずがない。と、レンさんが言っていました」

「あの中二病ちゃんか。鋭いね」


 そう言って、再び弓を構えるローラン。


「【五矢射ち】!」

「【四連剣舞】!」


 迫る矢を剣舞で弾く。

 するとローランはそのまま空中へ。


「【回転跳躍】【曲芸射撃】【速射】!」


 放つ矢は全て、【オートエイム】によってツバメのもとへ向かう。


「【加速】」


 横っ腹をかすめていく矢にHPを削られながらも、ツバメは距離を詰めていく。


「【電光石火】!」

「【ラピッドワン】【速射】!」


 ツバメの突撃を後方へのステップでかわしたローランは、矢をひたすらに連射。


「【壁走り】!」

「ッ!?」


 ツバメを追うように放たれた矢は全て、壁に突き刺さる。

 そのままツバメはローランの懐へ。


「【電光石火】!」

「【ラピッド・ワン】ッ!」


 ダガーが腿を触れ、ローランのHPが1割ほど減少。


「このまま一気にいきます!」


 距離を詰めて行くツバメ。

 するとローランは【回転跳躍】で後方へ跳び、空中で弓を構えた。


「――――【バーストアロー】」

「ッ!?」


 これを避けるも、足元で起きた爆発に転がる。


「【速射】」

「ッ!!」


 決死の回避。しかし二本の矢が身体を強くかすめていった。

 ツバメのHPは、残り3割強。


「この連携を避けるなんて、単純に回避が上手なんだね」

「……常にメイさんの動きを見てますから」

「なるほど、手ごわいわけだ……っ」

「【壁走り】!」


 戦いの中でたどり着いたこの場所は、左右に商店の壁がある。


「【跳躍】」

「【ラピッド・ワン】」


【壁走り】中に【跳躍】で壁を蹴って迫る攻撃は、早いステップでかわされた。


「【電光石火】」

「【回転跳躍】」


 追いかけてくる攻撃を、空中へ回避するローラン。


「【壁走り】」


 ツバメは【電光石火】の終わり際からそのままもう一度【壁走り】を発動。


「【電光石火】」


 そこから再び壁を蹴り、跳弾の様な動きで後を追う。


「【ラピッド・ワン】【速射】!」


 ローランは下がりながら矢を連射。


「【五矢射ち】!」

「ッ!」


 続けざまに放った範囲攻撃を、ツバメがどうにか避けたところで――。


「【バーストアロー】!」

「ッ!!」


 放たれた矢が、身体を貫いた。

 直後、巻き起こる爆発が砂煙をあげる。

 ここでの戦いは、終始押していたローランがそのまま決着をつけた。

 誰の目にも、そう見える状況だった。


「【加速】」

「ッ!?」


 巻き上がる煙を割って、飛び出してくるツバメ。

【オートエイム】は、敵性と判定したものを狙ってくれる優秀なスキル。

 しかしその判定は、【残像】にも引っかかってしまう。

 それはツバメにとって、期待通りの展開。

 ローランはまさかの事態に硬直する。

 この隙を、逃す手などない。


「【ヴェノム・エンチャント】【電光石火】!」


 斬り抜けから振り返り、通常攻撃を二連発。


「【紫電】」


 ローランが動き出す寸前に、再び停止を強制する。


「【四連剣舞】!」

「くっ! 【ラピッド・ワン】!」


 ようやく身動きが取れるようになったローランは、慌てて距離を取る。


「【アクアエッジ】!」


 しかし水刃による追撃で、受けた攻撃は計八発。

 これにより、蓄積した毒性が爆発する。


「……うそっ!?」


 再び身体が動かなくなるローラン。

 すでにその視界には、迫り来るツバメの姿。


「――――【電光石火】!!」


 駆け抜けて行く一撃が、HPゲージを削り切った。


「…………負けちゃったかぁ。メイちゃんだけじゃなく、君もこんなに強かったんだね」

「勝負するならこの組み合わせだと、レンさんが言っていました」


 相手が逆ならレンはローランを振り切れず、ツバメの攻撃力では金糸雀を攻め切れない。

 よってこの組み合わせ以外はなし、というのがレンの見立てだった。


「あの中二病ちゃんかぁ……お見事だね」

「……とても、頼れる仲間達です」

「メイちゃんたちも、同じように思ってるんだろうね」


 爽やかな笑みで言うローランに、ツバメは少し恥ずかしそうにする。


「それじゃあ、またね」


 手を振りながら消えて行くローラン。

 残念そうにする彼女も、グラムとの再会はかなわない。


「……MPは残りわずかですが、メイさんの後を追いましょう」


 戦いを終えたツバメは、まだかすかに赤い顔のまま歩き出すのだった。

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