第134話 VS金糸雀
「【アクセルスウィング】!」
移動攻撃スキルで飛び込んで来た金糸雀。
手にしたハンマーを大きく振り上げる。
これをメイは、横方向へのステップでかわす。
「【ギガントハンマー】!」
続けて発動するスキルは、横殴りでも使用可能。
巨大化したハンマーが、猛烈な勢いで空を薙ぐ。
「【ラビットジャンプ】!」
これをジャンプ一つで、しっかり回避するメイ。
「もう一発だーッ!!」
金糸雀はさらに身体を一回転。
大きな踏み込みと共に、再び巨大化ハンマーを振り上げる。
「【アクロバット】!」
これも十センチほどの距離感でメイが回避したところで――。
「【フレアストライク】!」
「くっ! 【アクセルスウィング】!」
移動攻撃スキルを前方に放つことで回避する金糸雀。
爆発と共に上がった炎は、メイたちの姿を覆い隠す。
「二人は先に行って。この状況、天軍将はもう御剣に向かってるはずよ」
「レンちゃん……りょうかいですっ!」
「ツバメも、後は頼むわね」
「はい!」
レンを残し、メイとツバメは急いで御剣のもとへと向かう。
「……あーあ、こりゃもう追いつけねえなぁ」
先を行くメイとツバメの背を見て、息をつく。
「貴方は足が遅そうだものね」
「まあな。こちとら登場シーンのために、商店の階段を一段ずつ登ったくらいの鈍足よ」
レンは「何よそれ」と、笑みをこぼす。
「さて、こうなっちまった以上は地軍将の側近くらい倒しておかねえとな」
「それは私も同意見よ」
残された二人は、自然と向かい合う。
レンは杖を、金糸雀はハンマーを、ゆっくりと構えた。
「最初から飛ばしていくわ! 【魔眼開放】!」
金色に輝くレンの左目。
同時に、金糸雀が動き出す。
「【アクセルスウィング】!」
「ッ!!」
直線移動からの豪快な振り上げ。
レンはこれを、横へのステップで回避した。
続く斜めの振り下ろしもバッステップでかわす。
レンの【敏捷】なら、ギリギリ近距離でも立ち回れそうだ。
「【フレアアロー】!」
放たれた炎の矢を、くるりと一回転して避けた金糸雀は再びスキルを発動。
「【アクセルスウィング】!」
レン目がけて一気に距離をつめる。
レンはこれを、後方への短いジャンプで回避する。
「――――【キャンセル】!」
しかし金糸雀は、その動きをピタリと止めた。
「【ギガントハンマー】!!」
「それは……知ってるわ!」
巨大化するハンマー。
大急いで駆け出したレンは、ギリギリのところで攻撃範囲を転がり出る。
それでも、肩口をかすめた衝撃波がHPゲージを奪っていった。
「余波だけで2割……っ! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
起き上がりと同時に放つ、4つの炎弾。
これを金糸雀はおとなしく防御。ダメージは軽微。
「……さすがに厳しいわね。そういうことなら【ブリザード】!」
金糸雀は【腕力】と【耐久】の特化型。
高威力の魔法を当てなければ、そうHPを減らすことはできない。
「このまま近接で戦ってたら長くはもたない。やっぱり有利な位置で戦わないと」
氷嵐による足止め。
小さなバックステップから【浮遊】で浮き上がり、レンはそのまま距離を取る。
「ちょっと待ったぁ!」
すると突然、金糸雀が呼びかけて来た。
「距離を保って、魔法で削ろうって考えてねえか?」
「ちょっと時間がかかりそうだけどね。一撃死を避けるのは当然でしょう?」
「そういうことなら……真っ向勝負ってのはどうだ?」
「真っ向勝負?」
意外な提案に、眉をひそめるレン。
「ああ、もう距離は好きなだけやる。魔法を撃ちたいだけ撃ちゃあいい」
「貴方はどうするの?」
「ただ真っすぐお前さんのもとに向かう。あたしが着く前にHPを削り切れたらそっちの勝ちだ」
「HP全損前に距離を詰められたら、私の負けってことかしら?」
「そういうことだな。正直、追いかけっこしながら戦うのは好きじゃなくてよ。分かりやすくていいだろ?」
「……おそらく何か『狙い』があるんだろうけど、魔法撃ち放題は悪くないわね」
一撃死と距離感に気をつけながら、隙を突いて魔法で削るというのは精神疲労が大きい。
だが真っすぐ迫る敵に魔法をひたすら放つのであれば、『砲台』として集中できる。
「……その話、乗ったわ」
「そうこなくっちゃ」
うれしそうに笑う金糸雀から、レンは大きく距離を取る。
杖を【ワンドオブ・ダークシャーマン】に変更することで【敏捷】を捨て、【知力】を上昇。
【知力】上げのリンゴも使っておく。
「【コンセントレイト】」
最後に魔力を集中して、準備は完了だ。
「それじゃあ、始めようぜ」
「ええ」
始まる真っ向勝負。
金糸雀が、ゆっくりと歩き出す。
「容赦なく行かせてもらうわ! 【魔砲術】【誘導弾】【フレアバースト】!」
放たれる壮絶な爆炎。
威力向上全部乗せの一撃が、金糸雀に迫る。
「――――【金剛武装】」
発動するスキルが、光沢のあるエフェクトを生みだした。
直後、猛烈な爆発が巻き起こり煙が辺りを覆い尽くす。
「そういうことね……っ!」
しかし金糸雀は止まらない。
ただ真っすぐに、レンのもとに歩みを進めていく。
「【魔砲術】【誘導弾】【フレアアロー】! 【フレアストライク】!」
レンが放つ魔法は、全て直撃。
派手なエフェクトと炎が、付近をまばゆく照らし出す。
「【魔砲術】【誘導弾】【フリーズストライク】! 【フリーズブラスト】!」
クールタイム対策に次々魔法を変え、強力な魔法を連射する。
「ッ!!」
それでも歩みは止まらない。
それどころか、身体が揺らぐことすらない。
金糸雀は笑う。
「こいつがあたしの隠し玉だ!」
「俗に言う『スーパーアーマー』ってやつね! 【魔砲術】【フレアバースト】!」
【金剛武装】はどんな攻撃を受けてもノックバックなしで進み、さらに『中遠距離攻撃』に対する防御まで上げるという優秀スキル。
ハンマーを手に進む金糸雀の足音はどんどん大きくなり、さらにその速度までもが上がっていく。
歩みは小走りに。
そして小走りが爆走に変わっていく。
「【魔砲術】【フレアアロー】【フレアストライク】【フレアバースト】!」
爆音、砂煙を上げて迫る金糸雀。
その足が、【魔砲術】が必要ないところにまで踏み込んで来た。
「【フリーズストライク】【フリーズブラスト】【フレアアロー】【フレアストライク】【フレアバースト】ッ!」
レンは全力で魔法を連射し、HPゲージを削っていく。
「【フリーズストライク】【フリーズブラスト】」
それでも、金糸雀の爆進は止まらない。
「【フレアアロー】【フレアストライク】【フレアバースト】! ……うそっ!?」
目前にまで迫った金糸雀に放った炎の一撃は、まさかの不発。
「MP切れ……っ」
最悪の事態に絶句し、レンは唇をかむ。
「逃げねえとは、潔いじゃねえか」
そして金糸雀はついに、レンの前へとたどり着いた。
「さあ、こいつで終わりだァァァァ――っ!!」
勝利を確信し、高々とハンマーを振り上げる。
「……潔くなんてないわよ。あがくわ、最後まで」
杖を手に、つぶやくレン。
「【吸魔】」
目前の金糸雀から、MPをわずかに吸収した。
それでも、使える魔法は一つだけ。
「【ファイアボルト】ォォォォー!!」
「【ミョルニル・インパクト】ォォォォー!!」
放たれた一発の炎弾。
その直後、ハンマーが地面に深々と突き刺さった。
猛烈なエネルギーエフェクトが天を突き、霧散していく。
「…………お前さん、意外と熱いタイプなのな」
つぶやく金糸雀。
勝負は【ミョルニル・インパクト】が突き刺さる直前、あがきのファイアボルトによって決着した。
そのため、レンにダメージは入らない。
「今回は特に、みんなで一緒によろこびたいのよ」
「なんだ、思ったより中二病中二病してねえじゃんか」
「負けたよ」と、悔しそうに息をつく金糸雀。
天軍将との再会は、果たせぬままの退場となった。
「中二病していない……か。うれしいこと言ってくれるわね」
格上を相手に見事な勝利。
もはや【浮遊】すら使えないレンは、「フフッ」と小さく笑い声を上げた。
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