第133話 動き出す両軍

「寺社の中には、やっぱなさそうだな」

「さすがにそこまで見つけにくい場所にはないんじゃねえか」

「とにかく俺たちは、この一角に集中しよう」


 すでに両軍入り乱れ、ヤマトの街は騒がしい様相を呈している。


「思ったより、争いは起こってないですね」


 ツバメの言う様に、両軍総出で街を駆け回っている割に戦闘は目に付かない。

 屋根を使って街の中心付近へと向かうメイたちも、まだ戦いには至っていない。

 皆『御剣』の発見に力を注いでいるようだ。


「勝利ポイント、貢献ポイントがそのまま報酬に関わるイベントだから、自軍の勝ちが優先なのよ」


 ここまで来たら、勝ってポイントをもらいたい。

 そのためには何より、御剣の発見が重要だ。


「よっ、はっ、それっ」


 メイも【アクロバット】を使った華麗な跳躍で進んで行く。


「うん?」


 不意に、視線を上げる。

 そこには、ヤマトの空に上がる一発の花火。

 瞬間、騒がしかった街が騒然とする。

 この花火は地軍所属なら誰もが知る、『向かえ』の合図だ。

 真緑色の輝きは、『南』を示している。


「きたよ! レンちゃんツバメちゃん!」


 すぐにメイが目を輝かせる。


「いよいよね、行きましょう!」

「はい!」


 それは【天地の御剣】発見の報。

 見つけたのは地軍が先のようだが、天軍もほどなくその場所に気づいて狼煙を上げる。

 これでイベント参加者たちの全てが、【天地の御剣】の現れた方向を把握した。


「おい! 行くぞ!」

「ああ!」


 そうなってしまえばもう、御剣のもとに向かう他ない。

 そしてそれは同時に、レンやローランの予想が当たっていたということでもある。

 両者が街の中心地付近に出て来ていたのは、ヤマトの左右に置かれた城の近くに御剣が出るような事はないと考えたから。

 ここまできたら、運営も両軍を正面からぶつけて『ヤマト天地争乱』の決着をつけさせたいだろう。

 そうなれば、マップ中央のどこかに出ると考えるのが妥当だ。

 駆け出したメイたちは、屋根の上をそのまま早い速度で駆けて行く。

 しかし、予想が同じなら当然その途中でぶつかる可能性も上がることになる。


「あれ、メイちゃんたちだ」


 最初に気づいたのは、付近に注意深く視線を走らせていたローラン。

 それに続くようにして、金糸雀が足を止めた。


「お、マジじゃねーか」


 視線の先には、『御剣』のもとへと向かうメイたちの姿。


「定番だけど、ここはあたしが引き受けるとしようか」

「なんだ、それなら全員ここで叩いてしまえばいいではないか」


 金糸雀の提案に、グラムが応える。


「メイちゃんは足が速いからね。もし『剣』を手に入れることに徹底されたら、何が起こるか分からないよ?」


 ローランは、メイの機動性とレンの作戦が意外な結果をもたらすことを警戒。


「つーわけだから、グラムたちは御剣のところに行ってくれ。どっちにしろここからは、あたしの速度に合わさせちゃ追い抜かれちまうしさ。ここで時間稼ぎしときゃ二人は先に御剣のところに着ける可能性が高くなんだろ」

「む……いいだろう。まさかとは思うが、負けたりするなよ」

「ああ、まかせとけって」

「それじゃ金糸雀、再会はイベント終了後かな?」

「そういうことだな、8年連続の祝勝会だ」


 先を急ぐグラムとローランを見送って、金糸雀は思案に入る。

 大雑把に結んだ長い金髪。

 三人の中ではやや重めの、鈍い銀色のチェストアーマー。

 大きめのガントレットでつかんだハンマーが、彼女の目印だ。


「さーて、そんじゃあたしは少し準備をしておくか」


 辺りを見回して、金糸雀は程よい高さの建物を探す。

 この付近は舗装のしっかりされた、大きな商店が立ち並ぶ地帯。


「……あれがよさそうだな」


 ほどなくして、メイたちがやって来た。

 見立てた通り、背の高さにばらつきのある商店の屋根ではなく大通りを通る形で。


「レンちゃん、ツバメちゃん!!」


 メイの言葉で奇襲に気づいたツバメは、慌てて足を止める。


「――――やっぱ、登場は派手じゃないとなぁ!」


 大型商店の最上階から飛び降りて来た金糸雀は、神秘的な文様の彫られたハンマーをその手につかんだ。


「いくぞォ! 【ギガントハンマー】!」


 直後、巨大化したハンマーが地面に突き刺さり、砂ぼこりを高く巻き上げた。

 ゆっくりと視界が晴れていく。

 メイたちの前に立ちふさがった金糸雀はハンマーを担ぎ直し、二ッと笑ってみせる。


「ここを通りたきゃ、あたしを倒してからにしてもらおうか!」

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