第139話 ヤマト天地争乱を終えて
「みんなーっ!」
「メイ!」
「メイさんっ!」
「やりましたね! メイさん!」
両軍激突の戦場に駆け戻ってきたメイは、そのままレンたちに飛びついた。
「ありがとーっ! みんなのおかげだよー!」
うれしそうにぴょんぴょん飛び跳ねるメイ。
レンたちも、力いっぱいメイを抱きしめる。
イベントは終了したが、この場にはまだたくさんのプレイヤーが残っていた。
レンとツバメがやって来たのも、ついさっきのことだ。
「メイならやってくれると思ってたわ」
「さすがメイさんです」
「我々地軍、8年目で初めての勝利ですよ……っ!」
マーちゃんは興奮しながら、メイの手を取る。
「皆さんをお誘いして本当によかったです! 地軍のプレイヤーたちがメイさんたちに触発されて、どんどん『勝てるかも』ってなっていく瞬間は最高でした!」
「カッコよかったぜ地軍将!」
「地軍に入ってよかった!」
「メイちゃん最高!」
「てへへ。皆さん、ありがとうございましたっ!」
ペコっと頭を下げて、メイは恥ずかしそうに後頭部をかく。
鳴り響く拍手。
圧倒的な不利評を覆しての勝利に、ヤマトの熱は下がりそうにない。
「すごかったなぁ、今回は」
「いやー、参加できてよかったわ」
メイ見たさに残った天軍プレイヤーたちも、「グラムが敗けるならしゃーない」と観念しているようだ。
「メイちゃーん」
各々がイベント終了の余韻を楽しんでいる中、メイのもとに駆け寄ってくる一人の少女。
揺れるポニーテールは、ローランのものだ。
「完敗だったよ。メイちゃんたちすごいねぇ」
「みんなが応援してくれたおかげですっ」
メイはニコニコしながら応える。
「私たち、これをきっかけにヤマトを出ることにしたんだ」
「そうなの? ここが本拠地だったんでしょう?」
意外な展開に、レンが思わず問う。
「……思い出したんだよ。私たちが『星屑』を始めたのは、綺麗な世界を冒険したかったからだって。それがすっかりヤマトの王様みたいになっちゃって。いよいよ内弁慶になっちゃってたからね」
「だからまた、冒険しようって話になってよ」
わずかに遅れて来た金糸雀が、言葉を続けた。
「メイちゃんたちのおかげで良いきっかけができたよ。ありがとうね」
そう言って、うれしそうにするローラン。
グラムは最後尾、金糸雀の背後で一人唇を噛んでいる。
「内弁慶って……外では違うのかしら?」
「グラムなら、普段は借りてきた猫みたいになってるよ」
「静かなもんだよな」
「お、おいやめろ」
「なのに妙なところで図太くてよ」
「そうそう。体育がすごく苦手でね、持久走を嫌がって逃げ回ってたんだよ」
「そんで隠れて『星屑』やってたのが見つかって、先生に罰として10キロ走れって言われたんだよな」
「やめろー!」
「それに『卒業までに分割で走る』って返事して、耳鳴りがするまで怒られ続けたんだよね」
「言うなぁ! それならローランだって調理実習で食中毒事件を起こしかけたではないか!」
「わあー! 今それを言わなくても!」
「……悪ィな、恥ずかしいやつらで」
苦笑いの金糸雀。
グラムとローランが同時に振り返る。
「「その感じで可愛い物好きなのを気にしてるクセに」」
「やめろぉぉぉぉー!」
一瞬で顔を真っ赤にする金糸雀。
「もしかして三人は、同級生とかなの?」
日常的な情報がポンポン出てくる三人を見て、メイが問いかけた。
「うん、そうだよ」
「そうなんだ、いいなぁ」
「いいですね……」
ちょっとうらやましそうにつぶやく、メイとツバメ。
「メイちゃんいつも楽しそうだから、また一緒に遊びたいな。次は……同じチームで」
変わらぬ爽やかな笑顔で言うローラン。
「レンちゃんやツバメちゃんも、こんなに強いなんて思わなかったよ。ね、金糸雀」
「本当だな。でも……そう考えるともう一度敵側ってのも楽しそうだなぁ」
「ふん、ならば金糸雀だけ敵だな」
「やめてくれ! メイとグラムが組んだら10秒もたねえよ!」
地獄のような提案に大慌ての金糸雀を見て、笑うレンたち。
そんな中グラムは、こっそりメイの隣にやって来た。
「……メ、メイは、どうやってそんなに強くなったのだ?」
普段はローランたちの後ろにいるグラムだが、意外にもメイにはちょっと素直にたずねる。
「私も同じだよ。学校にヘッドギア持ち込んだりしてたんだ」
「そ、そうか。メイも同じか」
メイの応えに、ちょっとうれしそうにする。
「修学旅行とか……林間学校とかにも……」
「……え?」
たださすがに宿泊行事に待ち込むほどの狂いっぷりはなかったグラム、驚愕する。
「あとは、ジャングルに7年住んでたからかなぁ」
しみじみと、遠くを見るメイ。
「ジャン……グル……え?」
グラムはもう、あっけに取られるばかりだった。
◆
「またな」
グラムを中心に、天軍の三人は次の行き先を求めて去っていく。
行くならジャングル以外。
ちょっとトラウマになってるグラムに笑いながら。
「またねー!」
そんな三人に、尻尾と手をブンブン振るメイ。
「お店を見て、寺社をめぐり、最後は他校とのケンカ。どっちの修学旅行が本物なのかごっちゃになります」
「最後の戦いは他校とのケンカってことになるんだ。ツバメは最後までブレないわねぇ……」
真面目な顔で言うツバメに、レンは苦笑い。
「でも本当に修学旅行みたいだった! みんなと同じチームで戦うのも、すっごく楽しかったよ!」
チームを分けてのイベントも、7年ジャングルで孤軍奮闘していたメイは十分に楽しめたようだ。
尻尾もブンブン、忙しなく動いている。
「それだけは間違いないわね。メイやツバメと遊びに来れてよかったわ」
「はい、皆さんとご一緒できて良かったです」
ヤマトの街並みを眺めながら、笑い合う三人。
こうしてメイたちは、天軍が一方的に勝利を続けていた『ヤマト天地争乱』に、初の地軍勝利をもたらしたのだった。
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