第120話 お社と代理指揮官ローラン

 周囲に注意しながらたどり着いたのは、宝珠を届けるためのお社。

 古い神社の境内のようなその場所には、大きな木造の社が一棟。


「おじゃましまーす」


 門扉を開き、中に入る。


「これは……」


 あとに続いたツバメが、思わず声をあげた。

 窓一つない社の内部は暗く、大きな柱が並ぶ板張りの空間はお堂のような雰囲気だ。

 その最奥に置かれた悪鬼の彫像から、猛烈な妖気が吹き付けてくる。


「なかなか前に……進めません」


 妖気の流れが強く、ツバメはなかなか前に進めない。

 しかしそんな中でも、メイはしっかり一歩ずつ足を踏み出していく。


「さすがメイさん……必要なのが【耐久】でも【腕力】でも問題なしですね」


 強烈な妖気の流れの中、床に手をつきながら必死に進むメイ。

 その姿にツバメは感嘆する。


「ツバメちゃん……」

「はい」

「……い、今わたし……おかしくない?」


 ツバメは首を傾げる。


「その、わたし今……四足歩行っぽくなってるよね?」

「ッ!!」

「ツバメちゃん?」

「あの、ええと…………はい」

「で、でも、おかしくはないよね? 野生っぽくはなってないよね?」


 この状況で『野性味』を気にすることが何よりもおかしいのだが、ツバメはただ「大丈夫です」と応えておく。

 するとメイは安堵の息をつきながら、再びしっかりとした足取りで妖気の中を進んで行く。

 その動きは若干、向かい風の中を進むゴリラっぽくもある。


「よいしょっ」


 置かれた悪鬼の彫像。

 その手に宝珠を乗せると、あふれ出していた妖気が収まった。


「これでミッションクリアだね!」

「はい。鬼も倒しましたし、宝珠も確かに届けました」


 無事に一仕事終えた二人は再び門扉を開き、お社の外に出る。


「――――待ってたぞ」


 そこには、天軍プレイヤーの精鋭プレイヤーたちが、メイを待ち構えていた。


「わ、いつの間に……」

「どうやら、今回のイベントもすぐに終わることになりそうだな」


 代理指揮官ローランの指示は『地軍将を見つけたら必ず一人は戦わずに隠れ、尾行に専念』というもの。

 これによって地軍将が向かう社に、精鋭プレイヤーたちを差し向けることに成功した。


「地軍将メイ、ここまでだ」

「今年のヤマト天地争乱は、ここで決着をつけさせてもらう」


 天軍プレイヤーたちは、手にした武器を構える。

 メイも【大蜥蜴の剣】を手に、わずかに腰を下ろす。


「行くぞッ!」


 一斉に動き出す精鋭部隊。

 狙いはツバメの持つ【紫電】のような、足止め系スキル。

 全員が一気に放出すれば、高い確率で大きな隙を作ることができる。

 慣れたプレイヤーらしい、上手な戦い方だ。

 しかし、メイは動かない。


「大人しく諦める気になったか!?」


 意気込む精鋭たち。

 しかし次の瞬間、上空から降り注いだ炎が爆発炎上した。


「う、うおおおおおお――――っ!!」


 燃え盛る豪快な炎が、まとめて精鋭たちを消し飛ばす。

 まさかの事態に、慌てる生き残りプレイヤーたちも――。


「【電光石火】」

「【ソードバッシュ】!」


 ツバメとメイの追撃に倒れた。


「レンちゃーん! ありがとー!」


 メイが動かなかったのは、杖を構えるレンの姿を【遠視】で捉えていたから。

【浮遊】で遅れてやって来たレンが着地すると、メイはすぐに飛びつきにいく。


「将軍が社に入るって分かってるのなら、出て来たところを叩きに来るわよね」


 ローランの狙いは、お社を出たところでの襲撃。

 そしてレンはそれを予想し、【魔砲術】で一方的な攻撃のできる位置に陣取っていたのだった。



   ◆



「……向こうには、強い魔法を使う子がいるのかな?」


 レンの起こした爆発を、遠く天軍城から見下ろして「おおー」と感嘆の息をつくローラン。


「たぶん、あの中二病の子だね」


 出会った時の格好から、レンを重度の中二病と認識しているようだ。


「今年の地軍は本当に侮れないなぁ……でも、こっちには大勢の味方がいるからね」


 ポニーテールを揺らして、振り返るローラン。


「もちろんです」


 その爽やかな笑みに、天軍プレイヤーは思わず目を奪われる。


「お社前で待ち構えてた部隊も、時間稼ぎはできたのかな?」

「社への集合は、ギリギリ間に合った模様です」

「それなら一気に叩いちゃおっか。グラムは外出中だけど……遠慮はいらないよね」


 天軍プレイヤーが、ヤマトの空に打ち上げる花火。

 それは『突撃』の合図だ。

 ローランの狙いは、メイたちをこっそりお社まで尾行し叩くこと。

 だがその真意は、精鋭たちによる打倒ではない。

 大軍による怒涛の攻勢で押しつぶすことだ。


「さあ、今度も切り抜けられるかな?」


 欄干に身を乗り出して、ローランはお社の方を見つめる。


「イベント開始からずっと戦い詰めだったメイちゃん。そして今回そんなメイちゃんを狙う天軍プレイヤーの数は――――3000人以上だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る