第121話 天軍の一斉攻撃です!

「え、ええええええ――――ッ!?」


 砂煙を上げて突撃してくる天軍プレイヤーに、メイが驚きの声をあげる。

 ローランが動かした敵軍勢力は、なんと3000人以上。

 地軍将メイを狙って、怒涛の勢いで突進してくる。


「やれー! ここで勝負を付けるんだ!」

「この人数なら圧勝だ!」

「将軍打倒の手柄は、わたしがもらう!」


 叫び声を上げながら特攻してくる、天軍のプレイヤーたち。

 すでに誰がメイを打ち取るかで夢中になっている。


「か、開戦時の戦いより数が多いです……」

「やるしかなさそうね。大技、連携はいつもみたいに合図しながら使いましょう」

「はい」

「りょうかいですっ!」


 驚きながらも、すぐに気合を入れ直すメイ。


「それでは、先陣を切らせていただきますっ」


 そう宣言して動き出す。 


「【バンビステップ】!」

「将軍自ら来やがった!」

「潰せ! 同時攻撃で潰すんだ!」


 攻撃に入ろうとする天軍の先頭集団。

 しかしメイの足運びは、思っている以上に速い。

 一気に先頭集団の懐に入り込むと――。


「がおおおおーっ!!」


 まずは【雄たけび】で先手を取る。


「なっ!?」


 硬直する前衛部隊。


「【ソードバッシュ】!」


 その隙間を縫ってきた足の速いプレイヤーたちもまとめて、横なぎで吹き飛ばす。


「からの――――【ソードバッシュ】!」


 後続も、返す刃が生む衝撃波で殲滅。

 前衛部隊をまとめて消し飛ばした。

 そんなメイの視界の外から、豪華な杖を持った魔術師が放つ魔法。


「【ホーリーレイ】!」


 使用魔法を『言葉にした』瞬間、メイはすぐさま振り返った。


「【アクロバット】!」


【聴覚向上】によって魔法攻撃にいち早く気づいたメイは、煌めく三連の光線を側転一つで回避。

 しかしそんな回避際の隙を狙い、放たれる毒ナイフ。

【腕力】と【技量】に依存する中距離攻撃は、真っすぐにメイのもとに飛んできて――。


「よっと」


 首の動き一つで回避された。

【遠視】は、攻撃体勢に入った者を見逃さない。

 見事な連続回避を見せるメイ。

 それでも敵軍は、その人数こそが最大の武器。


「ウオオオオオオ――――ッ!!」


 スキル【ハイジャンプ】は、タメが必要だが重量装備の戦士でも大きな跳躍ができる有用スキル。

 振り上げた大型の戦斧を、メイ目がけて全力で振り下ろす。


「地軍将を倒すのはオレだあああーっ! 【大地割り】ィィィ!」


 それは、硬い防御も貫いてダメージを与えると有名な高威力スキルだ。

 だが。メイに向けて正面から武器を振り下ろすのは、悪手以外の何物でもない。


「【装備変更】」


 メイの【猫耳】が【鹿角】に変わる。


「とつげきー!」


 必殺の【大地割り】は、綺麗に弾かれた。


「おわっ!?」


 転がった戦士が顔を上げると、見えたのは駆け込んでくるメイの姿。


「もう一回、とっつげきー!」

「う、うおおおおおーっ!?」


 重量級の戦士が弾き飛ばされ、味方を巻き込み倒れ込む。


「【バンビステップ】」


 さらに速度を上げたステップで駆けつけて、放つ斬り下ろし。


「【ソードバッシュ】! エクスプロード!!」


 重量戦士に巻き込まれて倒れた天軍プレイヤーごと、まとめて粉砕した。


「な、なんだこの戦い方!?」

「今年の地軍将……強くねえか!?」


 人数の多さによって、すでに勝った気でいた天軍プレイヤーたちは慌て出す。


「【魔眼開放】【フレアバースト】!」

「【加速】【アクアエッジ】」


 一方メイと背中を向け合うような角度で、天軍と戦うレンとツバメ。


「【フレアアロー】!」


 大人数対応の魔法に合わせてツバメがフォローに入り、ツバメの攻撃の後押しを魔法で行う。


「ッ!!」


 そんな中、撃ちもらしの盗賊がレンのもとに早い移動で飛び込んで来た。

 放たれる短剣による斬撃。


「【魔力剣】!」


 これをとっさの近距離スキルでけん制すると――。


「【電光石火】」


 その脇から飛び込んで来たツバメが盗賊を討つ。そして。


「レンさん後ろです」


 そんな簡素なつぶやきに、レンは確認なしで杖を振る。


「【連続魔法】【ファイアボルト】」


 放たれた三連続の炎弾が、背後に迫っていた武闘家を見事に燃え上がらせた。

 さらに、メイのもとに向かおうとする一団には。


「【ファイアウォール】!」


 炎の壁を立てて足止め。


「【加速】【アクアエッジ】【四連剣舞】」


 駆けつけたツバメの連続攻撃で打倒。

 自分たちの身を守りながらも、メイをアシスト。

 レンたちも、見事な戦いぶりを展開していた。



   ◆



「派手な戦いだね。私も少しだけ加勢しておこうかな?」


 そう言ってローランは、インベントリから美術品のような金属製の洋弓を取り出した。

 最上層の欄干の前へと進むと、ゆっくり構えを取る。


「【鷹の目】」


 それは高所から、遠く離れた場所をのぞくことのできるスキル。

 対象を見つけたローランは、静かに弓を引く。


「それじゃいくよ、メイちゃん――――【裂空一矢】【バーストアロー】!」


 弓の発射と共に、大きく揺れるポニーテール。

 放たれた矢は、凄まじい速度でメイのもとへ飛んでいく。

【裂空一矢】は、弓による超長距離攻撃を可能とするスキル。

【バーストアロー】は、着弾と同時に高火力の爆発を起こす。

 この二つを組み合わせた一撃は、天軍の7年連続勝利を支えた必殺技だ。

 そして、かつて二度ほど地軍将を撃ち抜いたスキルでもある。

 ローランもレン同様、遠距離攻撃は大の得意。


「よっと」


 しかしこれをメイ、普通にかわす。

 メイの横を通り抜けた矢は、その後方で猛烈な爆発を巻き起こした。


「あれ、当たらなかった?」


 確信の一射がかわされて、ローランは首を傾げる。


「それならもう一回【裂空一矢】【バーストアロー】!」


 気を取り直し、もう一発。


「ほいっと」

「……また外れた。もう一回」


 しかし、当たらない。


「なんで? もう一回!」


 それでも、メイに矢は当たらない。


「いくよー! 【ソードバッシュ】だー!」


 迫り来る天軍プレイヤーを高威力の剣撃で吹き飛ばし、そのついでとばかりに矢を避ける。


「……うそでしょ?」


 さすがに『これはおかしい』と、ローランは疑念を抱き始める。


「もしかしてメイちゃん…………見えてる?」


 いよいよ動きがノッてきたメイ。

 まるでローランの疑問に応えるかのように「にっ」と笑った。

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