第119話 ミッションの中の強敵です!

「ふん、この程度では相手にならんな」


 対人戦が得意な地軍プレイヤーたちの一部は、独自にグラム打倒に動いていた。

 しかし、一分も持たずに壊滅。

 宝珠を手にしたグラムは、余裕の足取りでお社への道を行く。


『――――新ミッション発生』


「む、ミッション途中で新たなミッションか」


『宝珠を狙い、『鬼』がヤマトに現れました。各軍はこの鬼を退治した後に宝珠を社に収めてください』

『なお、『鬼』は誰が戦っても問題はありませんが、トドメは宝珠を持つ将軍でないと刺せません』


「ならば、ここで待っていれば敵の方からやって来るというわけだな」


 グラムは慌てるでもなく、その場で堂々と敵の襲来を待つことにした。



   ◆



「アサシンピアス」

「ぐっ!?」


 一方メイは、先行するツバメに続いて屋根を移動していた。

 天軍は各所に見張りプレイヤーを立てていたが、ツバメが【隠密】からの【アサシンピアス】で排除。

 天軍の目を盗みながらの移動に成功していた。


「鬼ですか。せっかく敵の目を逃れたのに、派手に戦うと居場所がバレることになりますね……メイさんっ!!」

「ッ!! うわっと!」


 次の瞬間、メイがいたところを真空刃が通り過ぎて行った。

 向いの屋根の縁に立っていたのは、白と黒のボロボロの着流しを雑に羽織った少年。


「……二本角に牙。どうやら敵は『酒吞童子』のようですね」


 酒吞童子は、音もなく刀を構える。


「向こうの路地裏なら早々人目にはつきません。降りて戦いましょう」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」


 メイは即座に移動を開始。

 厳戒態勢下でも人目の少ない裏路地へ降りる。

 すると、後を追ってきた酒呑童子の姿がブレた。


「【縮地】」

「えっ?」


 メイの目前に、刀を掲げた鬼の姿。


「ッ!? 【アクロバット】!」


 振り下ろされる刀を、慌てて後方回転で回避。


「早い移動を見てから剣を振るのは……間に合わないかも……っ」


 そのスキルは、狭い範囲だが距離をつめるだけなら最速クラス。


「【縮地】」


 再び懐に飛び込んで来た酒吞童子は、高速の突きを放つ。


「【アクロバット】! よーし、そういうことならっ!」


 やはり【縮地】相手では回避が限界。

 メイは早々に剣を諦め、徒手空拳に。


「【装備変更】」


 さらに装備変更で【猫耳】を【狐耳】に交換。

 再び【縮地】で距離をつめて来た酒呑童子に――。


「【キャットパンチ】」


 見事なカウンターを叩き込んだ。さらに。


「――――フレア!」


 拳からあがる青炎。


「からの、パンチパンチパンチパンチパンチーッ!」


 青炎をまとった猫パンチを、連続で叩き込む。

 すると後方への【縮地】で間を取った酒呑童子の目が、カッと大きく見開かれた。

 妖気が凝縮し、生まれた三つの鬼顔が喰らい付きに来る!


「【バンビステップ】!」


 メイはこれを後方への跳躍で回避してみせた。


「……おい! あれ地軍将だぞ!」

「……まずいですね」


 メイの後方から駆けて来たのは、三人の天軍プレイヤー。

 どうやら戦いによる異音を聞きつけたようだ。

 裏路地の一角。

 メイは前方に酒吞童子、後方に天軍と挟み撃ちの形になってしまう。


「三人は私にまかせてください」


 酒呑童子の背後にいたツバメは、そう言って走り出す。


「うんっ」


 対してメイはそのまま直進。

 酒呑童子に向けて駆け出した。

 しかし酒呑童子の狙いは、先に近寄ってきたツバメ。

 刀から放たれる、真一文字の真空刃。


「【壁走り】」


 ツバメはそのまま壁を蹴り、真空刃を回避。

 酒呑童子の横を駆け抜ける。

 そして直進してきたメイとすれ違ったところで跳躍。


「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」


 空中で放った四連の水刃が、先頭の天軍忍者を打ち倒す。


「アクア……【電光石火】!」

「ッ!?」


 水刃に身構えた天軍プレイヤーの裏をかき、駆け抜ける一撃。

 しかし敵の防御値が高かったのか、一発打倒とはいかない。


「【紫電】」


 そこですぐに足止めを使い、【加速】からの連撃でトドメを刺す。

 すると残った最後の魔術師は、この隙を使って魔法を放った。

 直撃。

 炎の柱が、ツバメを焼き尽くす。


「いよーっし! あとは酒呑童子と一緒に地軍将を叩けば――」

「【四連剣舞】」

「……え?」


 倒れ込む魔術師。

 魔法使いが炎柱で焼いたのは、【加速】直後にツバメが残した【残像】だった。


「【バンビステップ】!」


 鬼顔の喰らい付きをかわすと、酒呑童子は再び【縮地】でメイの目前に。


「ひょうたん?」


 突然現れた大きな瓢箪を、そのまま叩きつけにくる。

 メイはこれもステップ一つでかわすが、中身の酒が飛沫となり燃え上がった。


「うわわわわーっ!」

「【縮地】」


 炎を割って、飛び出して来る酒吞童子。

 右から左への斬り払い。

 そして振り上げへとつなぐ。

 これをメイはしゃがみ、跳躍、足の引きでかわす。


「【縮地】」


 怒涛の攻勢。

 追う酒呑童子が放つのは、高速移動からの全力の斬り下ろし。


「きたっ!」


 しかしメイは、この時を待っていた。


「【装備変更】からの……とっつげきー!」


 大掛かりな振り下ろしは、鹿角パリィの餌食。

 酒呑童子の刀が、大きく弾かれた。

 互いに陥る硬直。

 だが当然、復帰はメイの方が早い。


「【装備変更】っ!」


 早い踏み込みから放つ横なぎで大きくHPを減らし、トドメの一撃へ。


「【ソードバッシュ】!」


 しかしこれを、酒吞童子は後方への【縮地】で回避。

 真空刃でメイを狙い撃つ。しかし。


「エクスプロード!!」


 続く【狐火】の爆発に巻き込まれ、HPゲージ全損。

 新たな【ソードバッシュ】の前に、酒呑童子は粒子となって消えた。


「ツバメちゃーん、ありがとー!」


 一対一の状況を守ってくれたツバメに、すぐさま抱き着きに行くメイ。


「あ、い、いえっ」


 満面の笑みと共に動く狐耳。

 その可愛さから、ツバメは目が離せない。


「……あ。メ、メイさんっ。HPが、HPがものすごい速さで減ってます」

「うわっと!」


 宝珠の毒を思い出して、メイは慌てて飛び退く。


「てへへ、ごめんね」

「い、いえ」

「おい! こっちから戦闘音が聞こえたぞ!」

「……先を急ぎましょう」

「りょうかいですっ!」


 聞こえてきた天軍プレイヤーたちの声。

 二人は駆け足で、お社へ向かうのだった。

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