第111話 メイの新たな武器

「よくぞ九尾を倒してくれた」


 隠されたヤマトの大クエストをクリアした三人に、空弧が呼びかける。

 燃え上がる狐火。

 メイの目前に、竹で編まれたカゴが現れた。


「これを持って行くといい。汝らであれば使いこなせるだろう」

「わあ、なんだろう」


 ワクワクのメイは、さっそくカゴを開けてみる。


「かつての戦いで落ちた九尾の毛で作ったものだ。特別な魔力を持っている」



【狐耳・尻尾】:スキル【狐火】は攻撃スキルに青炎による追加攻撃を発生させる。また【幻影】によって従魔や召喚獣を複製する。知力+20、幸運+20。



「わあ! かわいい!」


 猫耳よりも少し大きな耳と、太い尻尾。

 銀から白金へと移っていくグラデーションが美しい。

 メイとツバメは、そのさわり心地にさっそく夢中になる。


「……ちょっと待って」


 そんな中、説明文を読んだレンが眉をひそめる。


「【狐火】の方だけでも十分面白そうだけど、【幻影】ってあの九尾が二匹になったスキルよね」

「そうだと思います」

「メイ自身は召喚士ではないけど、召喚の指輪から出てくるクマとクジラは……召喚獣に当たるんじゃないかしら」

「……っ」


 その言葉に、ツバメが息を飲む。

 自身を吹き飛ばしたあの【幻影】が、ただでさえ強力な召喚の指輪の威力を上げる。

 期待しないわけがない。


「【装備変更】【狐耳】っ」


 さっそく狐装備を身につけてみるメイ。

 太めの尻尾は、これまでないほどにフワフワだ。


「ああ……かわいすぎます……っ」


 狐装備になったメイに、早くも夢中になるツバメ。


「メイさん……ポーズ、おねがいしても良いですか?」

「もちろんっ」


 メイは笑顔で応えると、両拳をクイっと曲げた。


「キュオォォォォーン!」

「……そこは嘘でも『コンコン』でいいんじゃない?」


 なぜかリアルな方に寄せてきたメイに、くすくすと笑うレン。


「そうだ。九尾打倒の件を『ヤマト武装』の店主に伝えに行ってはもらえないか。店主には、いつ九尾がこの世界から抜け出しても戦えるように、準備をしてもらっていたのだ」

「おまかせくださいっ」


 ぴしっと背筋を伸ばして、敬礼してみせるメイ。


「なるほど。さすがにあれだけの大物だし、狐装備だけでは終わらないみたいね」


 こうしてお使いを請け負ったメイたちは、裏ヤマトの世界を抜け出した。



   ◆



「九尾を……倒した……?」


 ヤマト武装の店主NPCは、驚きに唖然とする。


「ですがその耳と尻尾を持っているということは、空弧様に認められた証。それなら対九尾用のアイテム収集も終わりになるんですね」


 そう言って、安堵の息をつく。


「そうだ。九尾狩りのお礼に、持って行って欲しいものがあります。あなたにピッタリのアイテムですよ」

「本当!? やったあ!」


 両手を上げて喜ぶメイは、店主NPCから一冊のスキルブックを受け取った。



【蓄食】:冬眠前のクマのような過食が可能。ステータス向上の実を10個まで一度に使用することができる。



 忘れるな。野生はいつもそばにいる。


「す、隙あらば野生ッ!」


 スキルブックを手に、震えるメイ。


「メイにピッタリってことは、そうなるわよね……でもこれ強いわよ。反則級と言っていいかも」


 一方レンは、さっそく新スキルを品定めしていた。


「ステータス向上の実は通常三つまでしか同時使用できないの。これが10個使えるってなれば数値は100上昇することになる。能力が大きく上がることになるわ」

「100ですか……」


 これにはツバメも驚きを隠せない。


「狐装備は【知力】で威力を上げられると思うし、【蓄食】は活きそうね。装備で上がる【知力】が20だから、実と合計して120も上がる計算になる。それなら十分な武器になるわ」

「ですが、『実』はお金が……」

「そうなのよねぇ……ステータス上げの実はとにかく価格が高いから、はいそうですかとはいかないのがね」

「そんなに高いの? 種は持ってたよね?」


 ラフテリアの引っ越し手伝いでもらった種はまだ、【幸運】上げ以外のものが三つずつ残っている。

 また伏見堂のいなり競争でもらった【腕力】上げの種10個も未使用のままだ。


「実がなるまでに結構時間がかかるのよ。だから種より実の方が全然高くて……ちょっと待って」


 言いかけて、不意に言葉を止めるレン。


「種から実にするのは『大きくなーれ』ですぐできる。価格は実の方が全然高いんだから……種を仕入れて実にして売れば……」

「ッ! とんでもない錬金術が……見つかってしまいました」

「残ってる種を実にして売って、また種を買う。それをメイが育てれば……稼げるわ」

「場合によっては、ハウジングや船の購入もできるほどの金策になりそうです」


 その可能性に、思わずノドを鳴らすレンとツバメ。


「ま、まずは今持ってる種を育てて、新しい種を仕入れましょう!」


 さっそく動き出すレンに、メイは問いかける。


「レンちゃん、これって【腕力】の上がる実を10個使ってもいいんだよね!」

「……まあ、そうね」

「一応……そういうことにはなります」


 急に歯切れが悪くなる、レンとツバメ。


「【ソードバッシュ】も強化されるの?」

「もちろん。とんでもない威力になるでしょうね」

「それだったら【腕力】を上げる実も使ってみたい!」

「……はい、腕力上げの種。育ててみて」

「うんっ」


 レンから受け取った種を、メイはウキウキで植えてみる。


「大きくなーれ!」


 ステータス上げの種は、あり得ない速度で成長。


「…………」


 育った【腕力】上げの実を見て、メイは唖然とした。

 黄色くて長い、その果実は。


「バ、バ……バナナだぁぁぁぁーっ!!」


 叫んで、すぐさま頭を抱える。


「裸足の女の子が樹の上を駆けて来て、雄たけびをあげた後にバナナを食べたら、もう取り返しがつかないよぉぉぉぉ!」

「しかも、バナナを食べて【腕力】が上がるって……結構ヤバいでしょ?」

「言い訳のきかない野生ぶりです」

「ううっ、バナナは……バナナだけはダメだよぉ……っ!」


【腕力】はさらに上がり、ソードバッシュの威力も向上する。

 それでも。バナナが持つ驚異的な『野生』感の前に、メイは悲鳴をあげるのだった。

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