第112話 イベントとまさかの展開

「バナナ……バナナかぁ……」

「まあ、いざという時に取っておけばいいんじゃないかしら。何気に【雄たけび】も【耐久】【腕力】依存だから、効果が強化されるし」

「うう、品行方正な普通の女の子でいたいのに……っ」


 まだ野生児からの脱却を諦めていないメイには、バナナは絵面が強すぎるようだ。


「【知力】上げの実はリンゴだし、一緒に使えばごまかせるんじゃない?」

「動物園のおやつタイムみたいにならない?」

「…………」


 レン、言葉を失う。

 新スキル【蓄食】は、ステータス向上の実を一度に10個使用できるという驚異的な効果を持つ。

【腕力】を上げるかどうかは別にして、狐装備用の【知力】の実を準備するため、再びヤマトの街を進むメイたち。

 すでに『おおきくなーれ!』で、売却用の実は準備済みだ。


「ステータスアップの実を売りたいんだけど、いいかしら」

「はいはい! もちろんです!」


 声をかけたのは、ヤマトの大通りに露店を開いている商人プレイヤー。

 短いブラウンの髪に大きな目、エプロンをつけた生粋の商人職だ。


「こんなにですか……助かります」

「それで、その売り上げで種を買いたいんだけど」

「種類はどうしますか?」

「とりあえず【知力】多めで、一応【腕力】も」

「かしこまりました。それではこちら【知力】の種30個と【腕力】の種20個でいかがでしょう」

「それでお願いするわ」


 手持ち25個の種が、実にして売ることで50個に増える。

【密林の巫女】による種の増量作戦は、見事に成功した。

 これをまたメイの【密林の巫女】で実にすれば、【蓄食】による大幅なステータス強化が可能となる。

 もちろんそれを売れば、種はさらに倍だ。

 狙い通りの展開に、思わず感嘆してしまうレンたち。


「――――おい商人よ、ステータス上げの実を買いに来てやったぞ」


 そこに、生意気そうな態度の少女がやって来た。


「すいません、今ちょうど在庫を切らしちゃってて」

「なんだと……?」


 長い白髪の小柄な少女は、隣にいたメイに目を付けた。


「む。またお前か!」

「あっ、グラムちゃん! こんにちわ!」

「誰がグラムちゃんだ! 毎度我が前に現れては邪魔をしおって!」

「メイちゃんだよね。あはは、よく会うねぇ」


 頭と脚にだけ鎧をまとったポニーテールの少女は、爽やかな笑みを浮かべる。


「もういい、他を当たるぞローラン」

「はいはい、今行くよ。毎回ごめんねメイちゃん」

「いえいえ、こちらこそー」

「……お前ちゃんと『地軍』に入ったんだろうな? 我が恐るべき力にしっかり恐怖するんだぞ、いいな?」


 わっはっは、と勝ち誇った顔で去って行くグラム。


「それじゃまたね」


 ローランも、メイと手を振り合って去って行く。


「……っと、いけね」


 何やら呆けていた長い金髪を雑に結んだ少女も、遅れてグラムについて行った。


「……あ、あの、皆さんはイベントに参加されるんですか?」


 立ち去るグラムたち。

 すると、商人がたずねてきた。


「どうしようかしら」

「参加するのならぜひ『地軍』に入ってください! お願いします! お願いしますっ!」

「な、なんでそんな必死に……」

「グラムさんたちがいる『天軍』は初年度から勝ち続けています。もはや誰も『天軍』の勝利を疑わないような状況です。そのせいで『地軍』はどんどん人が集まらなくなってしまって……私は初年度から『地軍』なので、なんとか一度くらい勝ちたいと思っているのですが……」

「なるほどねぇ。メイはどう思う?」

「合戦イベントだよね、楽しそう!」


 ここ最近はクエストが中心だったこともあり、メイは目を輝かせる。


「私も参加してみたいです」

「そういうことなら、出てみましょうか」

「うんっ」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございますっ! 今『地軍』での参加状を送ったので、ステータス画面から参加申請を行ってください」


 メイたちは商人に言われるまま、参加申請を終わらせた。


「最後の最後に、頼もしい味方が増えました」

「最後……?」


 そんな商人プレイヤーの言葉に、メイが首と尻尾を傾げる。

 するとその疑問に応えるかのように、運営のアナウンスが始まった。


『――――ただいま、大戦イベント『ヤマト天地争乱』の参加受付を終了しました』

『第八回は、戦いの要となる『将軍』をイベント参加プレイヤーの中から選出します』


「今年は……プレイヤーからですか」


 つぶやく、商人プレイヤー。


『まずは天軍将――――グラム・クインロード』


「はい、今年も天軍勝ち確でましたー」

「これは奇跡も起きない展開だなぁ」

「よーし! 天軍に入っといて正解!」


 ざわめき出す通行人たち。

 グラムの将軍就任に、誰もが8年連続の『天軍』勝利を確信する。

 そんな中。


『続いて地軍将――――メイ』


「……え、ええええええええ――――っ!!」


 まさかの事態に、驚きの声を上げるメイ。


「わたしが将軍なの!? どどどどうしようレンちゃん、ツバメちゃん!?」

「……ま、いつも通り楽しみましょうよ」

「私も、メイさんと一緒に楽しく遊びたいです」


 あっさりとした返答。

 思わずメイは、レンとツバメに飛び着いた。


「そうだね! わたしにはレンちゃんとツバメちゃんがいるんだもん。こんなの絶対楽しくなっちゃうよ!」


 メイの名は、まだまだ知らない者が多い。

『地軍』の将が誰なのか、誰何するプレイヤーたち。

 そんな中、メイはすっかりイベントの始まりが楽しみになっていた。


「あ、そうだ。一応……バナナ持っておく?」

「必要ございませんっ!」


 レンの提案を、すぐさま却下する。

 しかしメイは、少し考えるようにした後――。


「……や、やっぱり一応持っておこうかな。将軍だし」

「大丈夫よ。それはあくまでお守りだから」

「はい。あくまでお守りです」

「なんでだろう……お守りって言われれば言われるほど、バナナを使うことになりそうな気がする……っ」


 こうしてメイは、『天軍』全員から狙われる『地軍将』として、イベントに参加することになったのだった。



【名前:メイ】

【クラス:野生児】


 Lv:207

 HP:15438/15438

 MP:355/355


 腕力:721(+32)

 耐久:535(+50)

 敏捷:440(+30)

 技量:404(+20)

 知力:10

 幸運:10


 武器:【王蜥蜴の剣】攻撃32

 防具:【白花の鎧】耐久30 腕力15

   :【白花のブーツ】耐久20 敏捷10

 装飾:【猫耳・尻尾】敏捷20 技量20(【鹿角・尻尾】)(【狐耳・尻尾】)

   :【召喚の指輪Ⅱ】


 スキル:【ソードバッシュ】【投石】【装備変更】【キャットパンチ】

    :【ラビットジャンプ】【バンビステップ】【モンキークライム】【アクロバット】【四足歩行】【裸足の女神】【野生回帰】(【突撃】)

    :(【狐火】)(【幻影】)

    :【アメンボステップ】【ドルフィンスイム】

    :【遠視】【聴覚向上】【嗅覚向上】【夜目】【雄たけび】

    :【自然の友達】【密林の巫女】【蓄食】

    :【クマ召喚】【クジラ召喚】



【名前:聖城レン・ナイトメア】

【クラス:魔導師】


 Lv:67

 HP:2190/2190

 MP:735/735


 腕力:10(+8)

 耐久:10(+66)

 敏捷:111(+12)

 技量:103(+15)

 知力:456(+30)

 幸運:10(+1)


 武器:【銀閃の杖】攻撃8 知力15(【ワンド・オブ・ダークシャーマン】)

 防具:【夜空の冠】防御5 知力10

   :【夜空の黒衣】防御30 知力5

   :【夜空のブーツ】防御15 敏捷12

 装飾:【銀の腕】防御15 技量15

   :【真っ赤なリボン】防御1 幸運1


 スキル:【スタッフストライク】【吸魔】【浮遊】

    :【ファイアボルト】【フリーズボルト】【ファイアウォール】【ブリザード】

    :【フレアアロー】【フレアストライク】【フリーズストライク】【フレアバースト】【フリーズブラスト】

    :【魔眼開放】【連続魔法Ⅲ】【連続魔法Ⅳ】【魔力剣】【魔砲術】【コンセントレイトⅠ】【誘導弾】

    :【クイックキャストⅠ】【クールタイム減少Ⅰ】【MP向上】



【名前:ツバメ】

【クラス:アサシン】


 Lv:54

 HP:3018/3018

 MP:105/105


 腕力:114(+49)(+45)

 耐久:10(+48)

 敏捷:343(+38)

 技量:73(+10)

 知力:10

 幸運:10


 武器:【グランブルー】攻撃50

   :【ダインシュテル】攻撃45

 防具:【ミスリルベスト】防御15 敏捷5

   :【紺碧のローブ】防御16 敏捷18

   :【疾風のブーツ】防御12 敏捷15

 装飾:【シルクグローブ】防御5 技量10(強奪のグローブ)


 スキル:【加速】【跳躍】【隠密】(【スティール】)【壁走り】【残像】

    :【スラッシュ】【投擲】【電光石火】【アサシンピアス】【紫電】

    :【ヴェノム・エンチャント】【四連剣舞】

    :【二刀流】【ダブルアタック】

    :【アクアエッジ】

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