第110話 決戦・九尾の狐

 クジラの突撃から凍結、さらに毒性を乗せた【四連剣舞】まで。

 HPを半分近く持っていかれた九尾の吐息が青く燃え、全身が白く輝き出した。


「速度が……上がってるわ!」


 早く、大きくなった青炎弾でメイとツバメを狙いつつ、炎塊も五つ同時に展開。

 五度攻撃を当てなければ爆発するやっかいな炎塊も、その移動速度を上げている。


「【連続魔法】【ファイアボルト】! から【フリーズボルト】!」


 四連続魔法から、別属性の魔法に切り替えることでクールタイムを管理。


「もう一回!」


 二つの青炎塊を霧散させたところで、レンの足元に現れる紋様。


「ッ!」


 慌てて飛び退くと、足元の紋様から青の炎が燃え上がった。


「ここからは後衛もしっかり狙ってくるってわけねっ!」


 九尾の攻撃に気を使いながら炎塊を砕き、レンはどうにか四つ目の解消に成功。


「でもこのままじゃ、最後の一個はギリギリ――」


 足元から噴き上がる青炎を避けるため、魔法の発動が一呼吸遅れる。


「きゃあああっ!」


 青炎塊が爆発。

 とっさに防御に出たものの、HPが六割ほど削られた。

 すると九尾は、その顔を天へと向けた。


「キュオォォォォーン!」


 響き渡る不吉な鳴き声。

 舞い上がる青炎と共に起こる、まさかの事態。

 全員が、驚愕に足をふらつかせる。


「なんということですか……っ」

「九尾が……二匹になった!?」

「そんな……」


 メイも、驚きに頭を抱えていた。


「鳴き声って『コンコン』じゃないのーっ!?」

「そこ!?」


 驚きどころが狐の鳴き声についてで仰天するレン。


「来ますっ!」


 二匹になった九尾は、燃える足跡を残しながら猛烈な勢いで迫り来る。

 狙いはそれぞれ、前衛の二人だ。


「【バンビステップ】! 【アクロバット】!」


 体当たりを後方へのステップでかわしたメイは、続く前足の振り下ろしも後方回転で回避。


「【加速】! 【跳躍】!」


 しかしツバメ側の九尾は、体当たりをかわされた瞬間――。


「そういう……ことですか……っ!」


 飛び掛かってきた九尾は、【幻影】スキルによって作られた偽物。

 強烈な光を放つと、大量の火の粉をまき散らして爆散した。


「ああッ!!」


 地をバウンドするツバメ。

 直撃をどうにか避けたものの、一撃でHPを八割強も消し飛ばされた。

 再び一体に戻った九尾は、長い尾を振る。

 すると上空高く、青炎の太陽が燃え盛り始めた。


「前半戦とは別物じゃない……ッ!」


 燃え盛る青炎は弾け、一斉に降り注ぐ。


「まずっ!」

「レンちゃんっ! 【裸足の女神】っ!」


 メイは【裸足の女神】と【鹿角】による高速移動で、一気にレンのもとへ。

 そのまま抱きかかえて、青炎の雨を回避する。


「だいじょうぶ?」

「ありがとう、助かったわ」


 すでに残りHPが3割ほどしかないレンは、ギリギリのところで命拾い。


「……これ普通に厳しいわね。二体になるのもやっかいだし、偽物が爆発するのはやり過ぎよ。せめてどっちが偽物か分かれば……」

「偽物がどっちか分かれば、対処できるの……?」

「一応、手はあるわ」

「レンちゃん、犬神ちゃんの時のこと覚えてる?」

「犬神の時……?」


 言われてレンは、ハッとした。


「ああ、そういうこと! やってみましょう! 防御は種を使えばいけるわ!」

「そっか! そういうことだねっ!」


 意外な糸口が見つかって、思わず二人笑い合う。


「まずはわたしが引き付けるよっ」

「お願いするわ」


 メイは【裸足の女神】と【鹿角】の速度上昇スタイルで九尾の前に。


「【バンビステップ】!」


 中空から迫る炎弾をかわし、突撃も回避。

 続く青炎爆破も【ラビットジャンプ】で斬り抜ける。


「キュオォォォォーン!」


 すると九尾は再び【幻影】を使用。


「今度は、二匹ともメイに……っ!」


 まさかの事態に驚くレン。しかし。

 一匹目の突撃を早いステップでかわし、あえてその足もとを駆け抜ける。

 青炎の爆発を背に感じながら、飛び込んで来た二匹目の体当たりには最速の【バンビステップ】で距離を取る。

 直後、【幻影】は猛烈な爆破と共に消えた。


「あぶなかったぁ……大丈夫! ちゃんと聞こえてるよー!」


 かすめる炎の中、笑顔で剣を振る。

 メイが生み出した隙を使い、レンはこの後の流れを説明していた。


「では、行ってきます」


 ここでメイに並ぶように、ツバメも前線へ。


「キュオォォォォーン!」


 九尾はそれを見て再度【幻影】を展開した。

 二体の九尾はそれぞれ、メイとツバメを追いかける。

 火の粉をまき散らしながらの突撃。

 しかし、メイは動かない。


「……『足音』が聞こえない。ということは……大きくなーれ!」


 走る閃光を前に、【密林の巫女】を発動。

 目前に現れた三本の巨木が壁となり、爆破の衝撃を阻んだ。

 消える九尾の幻影。

 対して本物の九尾は、ターゲットを逃がさない。

 炎を上げながらの突進から、猛烈な爆破を巻き起こす。


「ッ!!」


 ツバメは、青い炎に巻き込まれて消えた。しかし。


「……そっちは残像です」


 本物の突撃を【残像】で回避したツバメは、【加速】で距離をつめる。


「【四連剣舞】!」


 そこからつなぐのは【ヴェノム・エンチャント】を乗せた四連撃。

 これで、計八回。


「きますっ!」


 蓄積した毒性値が体内で爆発。

 九尾は、その身体を大きく跳ねさせた。


「メイさん、今ですっ!」


 笑みで応えるメイ。

 その右手はすでに、天に向けられていた。


「それでは……よろしくお願いいたしまーす!」


 赤い番傘と、くわえた笹。

 足元に描かれた魔法陣からせり上がってくるのは、一頭の巨大なクマ。

 砂煙を上げて走り出し、そのまま跳躍。

 動けずにいる九尾に、グレイト・ベアクローを叩き込む。

 だが、これだけでは終わらない。


「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」

「【魔眼開放】【フリーズブラスト】っ!」


 巨グマの一撃にバウンドした九尾を狙い、放つコンビネーション。

 クマからツバメ、レンへとつなぐ連携が決まって残りHPは1割。

 さらに、九尾から凍結とダウンを奪い取った。

 当然、これだけでは終わらない。


「【ラビットジャンプ】!」


 赤い傘を肩に担ぎ、笹をフッと吐き捨ててみせたクマの肩を飛び越えて来たのは、【王蜥蜴の剣】を手にしたメイ。


「やああああああああ――――っ!」


 召喚から始まったコンビネーション。

 その最後の一撃は。


「ジャンピング【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」


 九尾の肩口に、衝撃波を伴う一撃が叩き込まれた。

 消し飛ぶHPゲージと共に、身体が青い炎に変わる。

 九尾はそのまま、ゆっくりと消え去っていった。


「か、勝った」

「勝ちました……っ」

「やったああああー!」


 安堵の息をつくレンたちと、満面の笑顔で抱き合うメイ。

 思わずぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「……まさか本当に九尾を退治してしまうとは。君たちはヤマトの英雄だ」


 三人のもとにやって来た空弧も、消えゆく九尾の姿を見ながら賞賛の言葉を贈る。

 こうしてメイたちは見事、ヤマトの秘蔵クエストを攻略してみせたのだった。

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