第109話 九尾との戦い

 鳥居の続く山道を登り、クレーターのような形状をした裏ヤマトの中心地へと降りていく。


「いよいよね」

「緊張します」

「ドキドキしちゃうよ!」


 すると、巨大な体躯に九本の尾を持つ狐がゆっくりと立ち上がった。


「この地に封じられ早数百年。よもや人間の方から我が前にやって来るとはな……」


 語り出す九尾を前に、メイたちは自然とレンを最後尾にした陣形を取る。


「ならば積年の恨み……貴様らを食い殺すことでなぐさめるとしようか」


 九尾は一度ゆっくり目を閉じると、カッと大きく見開いた。


「ゆくぞ、忌まわしき人間ども!」

「くるっ!」


 宙空に現れたのは、青く燃え盛る炎の砲弾。

 渦巻く九つの炎砲弾が、一斉に放たれた。


「【バンビステップ】!」


 これをメイは、左右への早い動きで回避する。

 続けざまに放たれた第二波はツバメへ。


「【加速】……【アクアエッジ】!」


 ツバメは最後二発の完全回避が危ういとみて、水刃でこれを打ち消した。

 すると九尾は、炎砲弾と同時に巨大な青炎の塊を放つ。

 ゆっくりと迫ってくる炎塊を、メイは余裕で回避するが――。


「……ッ!! 【ラビットジャンプ】!」


 嫌な気配を覚えて跳躍。

 まばゆいフラッシュの直後、青炎塊が爆発炎上した。

 猛烈な熱風と共に、大量の火花をまき散らす。


「あぶなかったぁ」


 安堵の息をつくメイに、しかし九尾は止まらない。

 さらに青炎弾と炎塊を繰り出してくる。


「【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 ここでレンが、四連発の冷気を放った。

 その全てが見事、青の炎塊に直撃。


「メイ、【投石】をお願いっ!!」

「りょーかいですっ! 【投石】!」


 メイの投じた石が当たると、青炎塊は火花を散らして消える。


「ゆっくり飛んで来る方は、五回攻撃判定を取れば霧散させられるわ!」

「さすがレンちゃん!」

「前衛が優秀だからよ」


 笑い合う二人。

 そこへ九尾は再び、九連の炎弾を放つ。

 これをメイが【バンビステップ】による回避を始めたところで、グッと後ろ足を曲げた。

 走り出す。その狙いはシンプルな突撃だ。


「【ラビットジャンプ】!」


 これをメイは、高い跳躍で回避。

 突撃と共に九尾が吠える。

 するとその眼前で、青炎が爆発を起こした。


「わあ……」


 突進からの青炎爆破。

 まさかの二段階攻撃も、上空へ逃げたことが功を奏してダメージはなし。

 落ちてくるメイ。

 当然九尾は、その隙を狙う。

 メイは手を振り上げて、ツバメとレンに「いくよー」と合図。

 それからしっかりと、九尾を引き付けて――。


「がおおおおー!」


 雄たけびでその動きを止める。


「レンさん」

「ええ、いきましょう」


 声だけで合図をかわす二人。


「【加速】【アクアエッジ】【四連剣舞】」


 四連の水刃が、九尾の左前脚を切り裂く。

【アクアエッジ】を四連続で放つことで、大量の水が飛び散った。


「【フリーズブラスト】!」


 そこを狙って撃つ、レンの氷結魔法。


「狙い通りっ!」


 九尾の左前脚が凍結を起こし、【雄たけび】からの硬直をわずかに延長させる。

 それは短い時間だが、メイの足なら十分間に合う。

 着地硬直を終えるやいなや、全力で駆けこんで放つ剣撃。


「【ソードバッシュ】!」


 左から右への大きな薙ぎ払い。

 三人の連携で二割強ほどHPゲージを削ると、九尾は大きく跳び下がった。


「『星屑』は水さえあれば凍結が起こせるとは思っていたけど……【四連剣舞】と【グランブルー】の水量なら少しだけど凍結連携として成立しそうね」


 レンがそう言うと、メイは目を輝かせた。


「と、いうことは……っ」

「もちろん、いけるはずよ」


 そう言って笑いかける。


「【四連剣舞】!」


 下がった九尾は再度、青炎弾と炎塊を同時に放つ。

 それらをギリギリのところで回避しながら、青炎塊に向けて放つ四連撃。


「【ファイアボルト】」

「ありがとうございます」


 最後の一発をアシストし、ウィンク一つで返すレン。


「【加速】」


 ここで九尾はターゲットをツバメに移した。

 迫る青の炎弾を決死の【加速】で回避するツバメに、九尾が後ろ足を曲げる。


「ッ!」


 力強い飛び掛かりを仕掛けてきた九尾は、そのままツバメに頭突きをぶちかました。

 炸裂する、青炎。


「ツバメ!」

「ツバメちゃん!」


 付近を煌々と照らす青炎に、思わず叫ぶメイとレン。

 その視界から、ツバメが消えた。


「……成功です」


 青炎爆破に巻き込まれたツバメに代わり、その数メートル横から無傷のツバメが現れる。


「やはり敵モンスターは、【残像】もターゲットとして認識するようです」


 本来、九尾の攻撃対象は前衛の『メイ』と『ツバメ』が優先で、『レン』も遠距離攻撃で狙うという形。

 しかしそこに【残像】があれば、それもターゲットとして認識してしまうようだ。

 見事に『釣られた』九尾は振り返り、ツバメ目がけて前脚を振り上げる。

 その足先には、青く燃える炎。


「【紫電】」


 しかし先手を打ったのはツバメ。

 駆け抜ける紫の電光に、九尾は身体をのけ反らせた。


「今ですっ!」


 合図を送るツバメ。


「待ってましたっ!」


 この時すでにメイは、右手を高く掲げていた。


「それでは――――よろしくお願い申し上げますっ!」


 召喚の指輪が輝き、足元に広がる魔法陣。

 猛烈な水しぶきを上げて、巨大なクジラが空中に飛び出してくる。

【紫電】によって硬直した九尾に、直撃する体当たり。

 その圧倒的な重量に、九尾は押しつぶされる。


「ありがとー!」


 帰りゆくクジラに手を振るメイ。

 見れば、白イルカも魔法陣から上半身を出して手を振っている。

 だが、これだけでは終わらない。

 クジラの一撃は着水と同時に大きな波を巻き起こす。

 その海水が、九尾に触れた瞬間。


「【フリーズブラスト】!」


【コンセントレイト】で魔力をためていたレンの放った猛吹雪が、九尾の半身を氷漬けにした。


「やったあ!」


 狙い通りの展開に、思わずレンとメイが笑い合う。


「【ヴェノム・エンチャント】」


 そこへ駆け込んで行くのはツバメ。


「【四連剣舞】」


 そのまま四連続の斬撃を叩き込んだ。


「……す、すごーい!」


 メイの召喚から始まり、最後には毒性の蓄積まで。

 すさまじいコンビネーションに、メイは尻尾をブンブンさせながら歓喜の声をあげたのだった。

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