第102話 狐の嫁入り
街中に放置されていた祠をきれいにして、『金いなり』を供えたメイたち。
三人の前に現れた子狐は、下げていた頭をゆっくりと持ち上げた。
「し、しかもこれ、噂に名高い『金いなり』じゃないですか……っ」
手にしたお供え物を見て、子狐は感動の声をあげた。そして。
「あ、あの。金いなりを手にすることのできるような、強い皆さんに聞いて欲しい話があるんです……っ」
「なんでも言ってください」
即座に子狐の前に正座して、聞く体勢を整えるツバメ。
メイもその後に続き、レンも流れで腰を下ろす。
「実は、私の姉が近々結婚することになったのです」
「おおーっ! おめでとうございますっ!」
さっそく拍手でお祝いするメイ。
「『狐の嫁入り』は、ヤマトの一角にある鳥居から鳥居までを行脚するのが定例なのですが……どうやら妨害が入りそうなのです……」
「妨害?」
「はい。それと言うのも、街に住む狐とタヌキはずっと仲が悪くてですね。姉のライバルだったタヌキが、その妨害を狙っているのです」
「延期したりはできないの?」
「それでは狐の面目が立たないと、意地になっているようで……」
「なるほどね。要は狐の嫁入りを防衛しろってことかしら」
「はい、その通りです」
よほどやっかいな相手なのか、ため息と共にうなだれる子狐。
「わかりましたっ! わたしたちにお任せください!」
メイはそう言って胸を叩く。
レンもうなずくことで応えた。
「大丈夫です。私たちが力になります」
そのふさふさの尻尾に伸びる手を、必死に抑えていたツバメ。
優しいを言葉かけつつ、こっそり尾に触れてにっこり。
「ありがとうございます! それでは、よろしくお願いしますっ」
子狐が律儀に頭を下げると、世界が霧に包まれる。
やがて濃霧が晴れると、そこは人気のなくなった神社の境内。
始まりの鳥居から、ゴールの鳥居までは平坦な林道が続く。
距離にして約100メートルと行ったところか。
「雨だ」
天候は快晴。
そんな中、パラパラと舞い出す小雨。
「わあ……すごーい……」
鳥居から出てきたのは、人の姿に狐面をつけた白無垢。
朱色の傘を持ち、隣を進むのは袴姿の狐面。
その後ろには、ニ十体ほどの和服姿の狐面が二列で続く。
「クエスト用に別空間に移動するなんて豪華ねぇ。それで、そのタヌキはどう攻めてくるの?」
「力づくで攻撃を仕掛けてくると思います」
「直接対決になるのね。ということは、私の攻撃魔法が列に直撃なんてことになっても……」
「はい……数発しかもたないと思います」
「な、何度かは耐えてくれるのね……」
燃えようが凍ろうが、気合で嫁入り行進する姿を想像して苦笑いするレン。
「来ました!」
立ち上がった子狐が、前足を向ける。
「よーし、負けな……え、ええーっ!?」
思わず叫び声を上げるメイ。
見れば葉っぱを頭に乗せた大量のタヌキが、嫁入り行列の右側から怒涛の勢いで突っ込んでくる。
「……こ、攻撃していいのでしょうか」
その見た目の可愛さに、躊躇するツバメ。
「あれは分身です! 容赦なくやっちゃってください!」
「なるほどね。ちょっと思ってた狐の嫁入りとは違うけど、いきましょう!」
「りょーかいですっ!」
嫁入り行列に表示されるHPゲージ。
それは、防衛戦の始まりの合図。
「使える時に使わせもらうわ! 【フレアバースト】!」
【銀閃の杖】から放たれた爆炎が、猛烈な業火を巻き起こす。
巻き込まれたタヌキは煙になって消えていく。
「【ソードバッシュ】!」
景気のいい爆発に続くのはメイ。
一振りで十五匹もの分身タヌキを消し飛ばした。
二人の猛攻撃。
運良く隙間を抜けてきた個体に迫るのは、ツバメ。
「【アクアエッジ】!」
多少距離があっても関係なし、打ちもらしの掃討にはもってこいだ。
「続いていくわ!【フレアストライク】!」
新手のタヌキの小集団に向けて放った炎の砲弾が、タヌキをまとめて煙に変える。
「さっすがレンちゃん、これならいけそうだねっ!」
メイがそう口にした瞬間。
濁流のような勢いで、新たなタヌキの一団が境内になだれ込んできた。
「こ、これは大変だー! 【ソードバッシュ】! からの【ソードバッシュ】!」
しかし大量のタヌキも、メイは範囲攻撃と化している基礎スキルで吹き飛ばしていく。
「【加速】【アクアエッジ】!」
「【連続魔法】! 【ファイアボルト】!」
打ちもらしたタヌキも近いものはツバメが、少し距離のあるものはレンが魔法で潰す。
見事な連携が、しっかり嫁入り行列を守る。
「…………ん?」
そんな中、いち早くメイが異常に気づいた。
振り返るのと同時に、【遠視】がそれを捉える。
「うわー! レンちゃん、反対側からも来てるよーっ!」
「本当じゃない! 【魔砲術】【フレアストライク】!」
嫁入り行列の左側からも突撃してくるタヌキの群れ。
「ツバメは列の本隊について、打ちもらし掃討に集中して!」
「はいっ」
ツバメは下がり、嫁入り行列の最後尾へ。
「【魔眼開放】」
レンも左目を金色の輝かせると、【知力】を上げて魔法威力を向上。
「魔法連打で数を減らして、ツバメに補助してもらうしかないわね……メイは……」
「【装備変更】【バンビステップ】!」
頭装備を【鹿角】に変え、速度アップ。
「【ソードバッシュ】! まだまだっ! 【バンビステップ】からの【ソードバッシュ】だー!」
「……大丈夫そうね」
軽やかなステップでタヌキを払い飛ばすメイに、レンは笑みを浮かべた。
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