第57話 野盗たちの砦へ向かいます!
今回のクエストで相手にする野盗たちは、石の崖に作った巣窟に居をかまえている。
出入り口に立つ見張りから少し距離を取った茂みの裏に、身を隠す三人。
「大きくなーれっ」
すると引っ越しマダムからもらった種セットの一つが、芽を出し実をつけた。
「……普通はこんなに早く育たないし、時間限定だけどステータス値が1個で『10』上がるから、いい値段するんだけどね」
この実を、ツバメの【幸運】を上げるために手渡しておく。
「それじゃよろしくね」
「はい」
短く応えて、ツバメが【隠密】で姿を消した。
「わくわくするねぇ」
砦に忍び込んでお宝を盗む。
そんな変わり種のクエストに、メイは早くも目を輝かせている。
「でもいきなり見張りが二人って、結構やっかいね」
この感じでは、1人目に時間を取られたら2人目が仲間に敵襲を報告して終わりだろう。
「そろそろね。メイ、お願いできる?」
「おまかせください! 【投石】!」
「うぐっ!?」
倒れる見張り番。
予想通りもう一人が、砦内に駆け込もうとしたところで――。
「【アサシンピアス】」
ツバメの一撃によって倒された。
「さ、行きましょう。私の攻撃魔法もそうだけど、メイも【雄たけび】とか【ソードバッシュ】は音が大きいから控える形でお願いね」
「りょーかいですっ!」
淡い灰色の石崖に掘られた砦。
三人は身をかがめながら内部に侵入し、見張りの姿を見つけて木箱の裏に隠れた。
野盗はおおよそ一定の間隔で右、左と身体の向きを変えながら見張りに従事している。
「……今ね」
この野盗の視線が外れた瞬間を突いて、三人は少し進んだ先の木箱の裏に隠れた。
続くフロア。今度は二人の野盗が、タイミングをズラして振り返ってくる感じだ。
ただ、三回に一回は見張りが早めに振り向くのに注意が必要。
「今っ」
しかしゲーム慣れしているレンには関係なし。
二人の野盗が視線を離したところで、動き出す。
「ッ!?」
ここでメイが足を引っかけ転んだ。
途端に走り出す緊張感。
しかし、メイはそのまま二度の前転を繰り返して木箱の裏へ。
ギリギリセーフ。
「よくとっさに前転できたわねぇ」
「ジャングルでは戦闘中に足を取られることもよくあったから」
てへへと笑うメイ。
砦は地下に向けて作られているらしく、三人は足音にまで気を使いながら階段を下りて行く。
そして再び、見張りの野盗。
三人は息を潜めてチャンスを待つ。
しかしこの見張りが、向きを変えない。
「……どうしよう。絶対見つかっちゃうよ」
「こういうのには、定番があります」
「定番?」
メイが首と尻尾を傾げると、ツバメは【投擲】で【黒曜石のダガー】を投げる。
「うん? 何の音だ?」
見張りの兵士が、ダガーの刺さった方に意識を取られる。
その時すでに、レンは走り出していた。
「【魔力剣】」
一気に見張りのもとへと駆け付けたレンが、唯一の近距離魔法で斬り付ける。
「ぐふっ」
「これでよし、と」
「おおー……っ」
倒れ伏す見張り番を見て、メイは音がならないよう小さく拍手する。
「【アサシンピアス】でもいいんだけどね。使用中ずっとMPが減り続けるから、【隠密】はできるだけ節約しておきたいのよ」
投げたダガーを回収した三人は進み、厨房らしき部屋に入り込む。
広い厨房に、人の姿は見られない。
「ようやく一息付けそうだねぇ」
「広い厨房ですね。意外と食生活はしっかりしていそうです」
野盗の食事情を語りながら進む、メイとツバメ。
そんな中レンは、何かアイテムでもないかと積まれた木箱を確認していく。
「うそっ!?」
すると食品の入った木箱を漁っていた、食いしん坊野盗とバッチリ目が合った。
「ななななんだお前たちはっ!?」
「しまった!」
すぐさま走り出す、食いしん坊野盗。
「ごめん! 隠れてたヤツに見つかった! あいつを逃がすと砦全体の野盗たちが動き出すわ!」
「ええっ!?」
「イチかバチかだけどっ【フリーズボルト】!」
「【投擲】」
「【投石】!」
逃げる食いしん坊野盗の背を撃つ三人。
どれか一つが当たれば……というところだが、三つ全てが見事に直撃した。
「うぎゃあー!」
野盗はどうにか倒したものの、それでも鳴った音は決して小さくない。
「「「…………」」」
祈るような思いで、三人顔を見合わせる。
「どうやら……」
「セーフのようですね」
「よかったぁ」
安堵の息をつくメイ。
再び歩き出した足元に――――ワイヤー。
それは踏めば大きな音を鳴らす、定番の罠。
「メイ! ストップー!」
慌ててメイを抱き留めるレン。
「「「…………」」」
メイの足はギリギリ、ワイヤーの数センチ手前。
連続の緊張に、思わず笑い合ってしまう三人だった。
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