第56話 ステルス潜入ミッションです!

 引っ越し依頼のマダムから得た報酬は、装備品とアイテムだった。


「……装備なんて、もらって良いのだろうか」

「大丈夫ですっ!」

「ええ。私たちが装備するものじゃないし、あっても使わないものだから」


 ツバメもこくこくとうなずく。

 メイたちが選んだのは、『種』のセットだ。


「そういうことなら、ありがとう」

「また一緒に遊びたいなぁ」

「本当ねぇ。クエストクリアは皆さんのおかげですぅ」


 即席の協力クエストは、無事終了。

 三人組の剣士は、丁寧にお礼を言いながら去っていく。


「ああー、楽しかったぁ」


 メイたちも、バタバタしたクエストを十分に楽しめた。


「最高でした。家具を抱えたまま吹き飛んでいくレンさんの姿は一生忘れません」

「それは忘れなさいよ、今すぐに」

「これからどうしよっか?」

「攻略で見たやつならいくつかあるけど……野盗のクエストでも行ってみる? ツバメはまだ行ってないみたいだし」

「【スティール】のクエストですね」

「【スティール】ってなにー?」

「相手の持つアイテムを奪い取るスキルです。成功は【技量】と【幸運】に補正されます。ただ重要なのは【幸運】の方なんですよね……」


 ツバメは幸運値を上げていない。

 このクエストを残していたのは、その辺りに理由があった。


「どんなクエストなの?」


 メイが首と尻尾を傾げる。


「そうね。シンプルに言えば潜入、探索、盗んで逃亡かしら。途中で見つかったら大騒ぎになって大ピンチって感じね」

「はい、そんな感じです」

「おもしろそう……っ」


 メイの目がキラキラ輝き、尻尾がブンブン振れ出した。


「行ってみようよ! きっと楽しいよ!」

「そうしましょうか。ネタが増えるのはいいことだし」


 ツバメの先導で向かうのは、ラフテリアの住宅街。

 細かな石畳が続く、穏やかな一帯だ。


「ここね。猫が来るから捕まえて」

「りょーかいですっ!」

「はい」


 注意深く辺りに視線を走らせるメイとツバメ。

 するとそこに足の速い猫と、一人の青年が駆けてきた。


「待て! この泥棒猫ーっ!」

「来たー!」

「頼む! そいつを捕まえてくれえー!」

「こっちおいでー」


 そういうことではない。

 追いかけて捕まえろという事なのだが、笑顔で両手を開くメイの腕に、猫は普通に収まった。


「つかまえたー」


 猫は逃げずに懐き、猫を抱きしめてるメイも楽しげにくるくる回る。


「……メイらしい捕まえ方ねぇ」


 レンはそう言って、猫が持ち逃げてきた鍵を受け取った。


「すまない、助かった。だがその猫を捕まえるとはかなりの敏捷性の持ち主だな…………君たちに、頼みたいことがある」

「敏捷性を見せる機会は一秒もなかったけど、こういう捕まえ方だと会話と状況がズレるのも当然ね」


 苦笑いのレン。

 猫からの愛され具合しか見せていないメイを先頭に、三人は青年のあとについて行く。

 屋敷に入ると、さっそく依頼を持ち掛けられた。


「最近この辺りでは何かと野盗たちが問題を起こしているのだが、僕も祖父の形見を盗まれてしまってね。それを取り戻してほしいんだ」

「その野盗はどこにいるのですか?」

「街を出て少し進んだ先にある崖だ。やつらはそこに砦を作って住んでいる。ただどうやら盗んだのは頭領らしく、形見の腕輪を身に着けたままなんだそうだ」

「なるほどね、下手に忍び込んで見つかれば袋のネズミ。力で押し込んでも頭領のもとにたどり着く前に逃げられるってところかしら?」

「その通りだ」


 潜入が基本となるこのクエストは、どうやら力づくとはいかないようだ。

 崖を掘って作られた砦に忍び込み、目的の品を『盗んで回収』しなくてはならない。


「要は、盗まれた物を盗み返すクエストってわけね」

「そのようです」

「難しそうだねぇ」

「そこでこれを貸そう。形見の腕輪を奪い返すのに使ってくれ」


 そう言って青年は、宝石の埋め込まれたレザーグラブを取り出した。



【強奪のグローブ】:装備するとアイテムスキル【スティール】を使用可能になる。



「がんばります」

 受け取ったのはツバメだ。


「最近ラフテリアでは『怪盗』の話なんかもされているようだ。そいつが盗み返してくれれば良かったのだがな……」


 青年はため息を吐く。


「そうだ、砦までには少し距離がある。移動にはあれを使ってくれ」


 そう言って青年が指さした先には、見たことのある鳥類がいた。


「ッ!」


 すぐさま駆け出したツバメは、ジャングル以来の大ヒヨコにそのまま飛びついた。

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