第42話 村が大ピンチです!

「キング・ゴールデンリザード……」


 初めて聞くその名前に、メイも驚きを隠せない。


「聞いたことないわね」

「私もです」

「という事は、今回イベントの目玉の一つって考えてよさそうね」

「村を守るっても……みんなポイント稼ぎでこっちに集まって来てるだろうから、あまり人はいないだろうな」


 騎士はイベントの現状を見て、そう予想した。


「このままでは目覚めたキング・ゴールデンリザードに、村は跡形もなく喰い尽くされてしまうでしょう」


 占い師が告げる、壮絶な未来。


「前にもあった、クエストの中に別のミッションがあるパターンね。今回はジャングルを守った上でかつ、村も守れるかどうか」

「助けに行かないと!」


 正真正銘の『村を守るクエスト』

 もちろんメイは、村の救助に向かうつもりだ。


「でもここから村まで結構時間かかるぞ。封印されてたのが湖付近ってことは村のすぐ近くだし、距離を考えると厳しくないか?」


 そうなれば、村の近くにいるプレイヤーたちがどれだけ戦えるかにかかってくる。

 メイがたどり着いた時にまだ、村が無事かどうかは分からない。


「メイなら、間に合うと思うわよ」


 そんな中、レンがつぶやいた。


「え? ……あっ」


 それを可能にするスキルに、メイも思い当たる。


「そっか、そうだね! わたし行ってくる! いいかなっ?」

「もちろん。私はメイが楽しくできるのが一番だから」

「私も異存はありません」

「そういうことならここは俺たちに任せてくれ。君に教えてもらったやり方で、大樹前は死守してみせる」


 ゴールデンリザード軍団との戦いは、もはや優勢と言える状況になっている。

 ここはもう任せても問題ないだろう。


「分かりました……わたしは村に戻りますっ!」


 意気込んで、さっそくメイは動き出す。


「【裸足の女神】!」


 スキルの発動と同時に、メイの足元から【白花のブーツ】が消えた。

 裸足になることで敏捷値を10%上昇し、移動・跳躍系スキルの効果も向上。


「行ってきます!」


 そう言い残して、メイは走り出す。

 早く軽快な足取りであっという間に大樹前を離れ、スピードに乗って来たところでさらに速度を上げにかかる。


「【四足歩行】!」


 その走り方は、手も使って走るサルのようにも見える。

 しかしこの状態なら、そこに道があろうがなかろうが関係ない。

 木から木へ、岩から岩へ。

 メイは全ての移動スキルも織り交ぜ、ジャングルを猛スピードで駆け抜けていく。

 するとそこに、スカイブルーの翼を持つ一羽の鳥が並んできた。


「連れて行ってくれるの?」


 その言葉に応えるように、先行し始める鳥。


「よーし!」


 メイはその後を追って、最短距離を駆けていく。



 ――――キング・ゴールデンリザード。



 その体躯はこれまで戦ってきたゴールデンリザードが、子供に見えるほどの大きさを誇る。

 振り下ろした剛腕が、プレイヤーたちをまとめて吹き飛ばした。


「うああああっ!」


 攻撃を受けた者たちは、次々にリスポーンしていく。

 突然現れた超大型のボスモンスター。

 騎士の見立てた通り、村周辺には人手が足りていないようだった。

 その巨体に跳ね飛ばされた三人の剣士が粒子に変わり、生き残ったプレイヤーたちも長い尾で一掃。

 着実に迫り来る特大トカゲ。

 村までは、もうわずか数十メートルしかない。


「嫌だああああ! 村の壊滅とか見たくねえー!」

「私たちほとんど村近くでのんびりしてたからね。悔しいなぁ」


 続く単純な体当たりで、ついに最後の防衛ラインも崩された。


「ダメだ。あれは止めらんねえわ」


 プレイヤーたちを押し倒して進むキング・ゴールデンリザードの前に皆、倒れ伏す。

 その圧倒的な強さに流れ出す、あきらめの空気。

 あとはもう、村の壊滅を見守ることしかできない。


「……ん?」


 そんな惨憺たる状況の中、青い翼の鳥がキング・ゴールデンリザードの視界を横切っていった。


「【ラビットジャンプ】!」


 その後を追って猛スピードで駆けて来た、猫耳の少女。

 強く木を蹴り、高い跳躍から剣を握るとそのまま空中で一回転。


「【ソードバッシュ】!」


 強烈な一撃を、特大トカゲの肩口に叩き込んだ。


「グギャアアアアアアア――――ッ!!」


 キング・ゴールデンリザードは、けたたましい咆哮を上げた。


「間に合ったぁ!」


 間一髪のタイミングでの到着。

 軽やかに着地した裸足のメイは、飛び去って行く青い翼の鳥に「ありがとう!」と手を振った。

 そして特大トカゲの前に一人、立ち塞がる。


「村はわたしが守ります! ――――今度こそっ!」

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