第41話 教えてメイ先生

 ゴールデンリザード軍は、増援によって勢いを増していた。


「しまった!」


 左から来た大トカゲの攻撃を避けたところにもう一体。

 右からの体当たりに、女剣士が跳ね飛ばされる。

 途切れなく、そしてどこからでもやって来る大トカゲたちに大苦戦。

 そんな光景が、各所で見られるようになっていた。


「とつげきー!」


 尻もち状態の女剣士を助けたのは、鹿角のメイ。

 二匹まとめて、巻き込むような形で地を転がす。

 スキル【装備変更】による早替えが、見事に活きている。


「【フレアバースト】!」


 そして倒れ込んだゴールデンリザードたちを、爆炎が焼き尽くした。


「レンちゃんありがとうって……わあ! うしろうしろー!」


 後ろから迫る大トカゲを、慌てて身振りで伝えようとするメイ。

 レンを狙いに来た個体は、すぐそこまで迫っていた。


「【紫電】」


 しかし、かけ抜ける雷光がその動きを止めた。


「【電光石火】」


 二刀流による連撃を叩き込んだところで、レンが杖を構える。


「【フレアアロー】!」


 ツバメとレンの見事な連携で、大トカゲを打ち倒す。


「あ、ツバメちゃん。一歩だけ足引いて」

「……はい?」


 ツバメが、言われた通りに足を引く。

 すると目前に、飛び掛かって来ていたゴールデンリザードが倒れ込んできた。


「ッ!」


 驚きながらも、その横腹にダガーの連撃を叩き込むツバメ。

 次の瞬間には、メイの斬撃とレンの炎で粒子に変えられた。


「なにその絶妙すぎるサジ加減……よく一歩の後退だけで避けられるって分かったわね」

「あはは、何十万回と見てきた攻撃だからね」

「何十万回?」


 苦笑いのメイに、襲い掛かって来る新手の大トカゲ。


「村を守ろうと7年受け続けたクエストって、ゴールデンリザードの討伐だったんだよ」


 メイはツバメの問いに応えながら、足の動き一つで爪をかわす。


「そ、そうだったんですか」

「でも、最初は大変だったなぁ」


 懐かしむ様に目を細めつつ、大トカゲの尻尾を跳躍でかわす。


「やっぱり大きなモンスターは難しいよねぇ」

「今はもう、目を閉じたままでも戦えそうな感じです」


 そして真正面から飛び掛かってきた大トカゲの胸元に、寸分たがわず剣を突き差した。


「あはははは、さすがにそれは無理だよー」

「よく戦いながらそんな流暢に会話できるわね……」

「もはや作業感覚です」


 これにはさすがに驚きを隠せない二人。

 もはやこの場は、メイの独壇場だ。


「おいおい! また増援だぞ!」


 凄まじいペースで大トカゲの数を減らしていくメイ一行。

 だがその増援のペースに、全体では押されていた。


「うおおっ! さすがにこの数は厳しいなぁ!」

「……なあ、あの子どうなってんだ?」


 ゴールデンリザードの尾に弾き飛ばされた軽装の槍使いが、仲間と会話しながら戦うメイを見て驚きの声をあげる。


「な、なあ、そこの野生児ちゃん!」

「野生児ではございませんっ!」


 飛び掛かりを仕掛けてきたゴールデンリザードを前方宙返りでかわし、木に突っ込ませたメイが尻尾を立てながら応える。


「教えてくれ! どうしたらそんなに上手くこいつらと戦えるんだ!?」

「俺にも聞かせてくれ!」

「私も知りたいです」


 槍使いたちの要望に、ツバメも乗っかる。

 意外な展開にメイは少し驚きながらも、一匹の大トカゲを引き寄せた。

 そして真横から迫り来る尾撃を、軽快なジャンプでかわす。


「ええと、尻尾はその場の垂直ジャンプで大丈夫! 難しい時は普通に防御が一番ですっ!」


 続けて飛んできた毒液を、わずか二歩の移動で回避する。


「毒液には必ず隙間があるから、そこを潜る感じで! 落ち着けば隙間が見えます!」


 すると大トカゲは一気に距離を詰め、その腕を振り上げた。


「爪の攻撃は上げた手の側に避けるといいけど、一番安全なのは後ろに下がること」


 ここは無理せず、一歩下がってみせる。

 鼻先をかすめていく爪に、メイはまるで動じない。


「ちょっと面倒な飛び掛かり攻撃は、必ず一度身体を伏せるから、見たらすぐ右か左に飛ぶか走れば大丈夫!」


 メイが大きく一歩横にずれると、その数センチ横を大トカゲが通り過ぎていく。

 すると大トカゲは、咆哮と共にその身を起こした。


「一番間違いない戦い方は、圧し掛かりを避けたところで……胸元の色違いの鱗を狙って【ソードバッシュ】! こんな感じですっ!」


 と、日常会話みたいな口調で言うメイ。


「【加速】」


 まさに圧し掛かりを仕掛けてきた大トカゲを、ツバメは後方へ回避する。


「【電光石火】」


 すぐさま速い前進で一撃加え、さらに。


「【アサシンピアス】」


 ダガーを大トカゲの胸元に突き差した。


「そうそう、そんな感じだよっ!」

「なるほど」


 即座に形にして見せたツバメに、メイがぱちぱちと拍手を送る。

 そしてこの『一度下がって倒れ込んだところに弱点を突く』戦法は、一気に広がっていく。


「これいけるぞ!」

「ああ! やれるな!」


 もともとレベルの高いプレイヤーたちはもちろん、ゴールデンリザード相手では不利なレベルのプレイヤーたちも、無理せず守って圧し掛かりへの反撃を狙うことで効率が大幅アップ。

 メイのアドバイスによって、押されていた戦況が見る見る逆転していく。


「うおおー! 野生児流すげえ!」

「野生児流なら、私でも勝てます!」

「ありがとう! 野生児先生!」

「野生児ではございませーんっ!」


 こうしてゴールデンリザードの進攻はしっかりと食い止められ、プレーヤーたちにも余裕が見え始めた。


「……あれ?」


 そんな中、メイが不意に動きを止める。


「動物たちが、逃げる方向を変えた?」

「そんなこと、あるのですか?」


 首を傾げるツバメ。

 すると、メイの耳がかすかに動いた。


「いま何か聞こえた……聞いたこともない、激しい遠吠えが」


 逃げる動物たちは、その遠吠えから離れるように進路を取っている。


「おーい! ちょっと聞いてくれ!」


 そこに水晶玉を譲った騎士と、占い師がやってきた。

 どうやら占い師も、味方NPCとして戦っていたようだ。


「どうしたのよ」


 レンが問うと、占い師は沈痛な面持ちで応える。


「……かの者が、目覚めてしまいました」

「かの者?」

「はい。全てを壊し食い尽くす、正真正銘の化物です。長らく封じられていたのですが、守神様の力が弱くなったのを好機と見て、封印を破ったようです」


 震え出す占い師。

 その顔には、ハッキリと恐怖が浮かんでいる。


「封印の地は湖の近く。かの者は空腹を満たすため……村を狙うでしょう」

「村を!?」


 メイの声に、占い師は無念そうにうなずいた。


「……最後の最後に、村の存亡をかけたミッションも出てくるのね」


 レンが感嘆の息をつく。


「ですが、その恐ろしい化け物とは一体何者なのですか?」


 ツバメの問いに、占い師は恐る恐る口を開く。


「……その名は、キング」

「キング?」



「――――キング・ゴールデンリザード」



「ええええええええええ――――ッ!?」


 そしてメイの叫び声が、再びジャングルに響き渡った。

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