第40話 ゴールデンリザードの大群です!

 守神が目を覚ますまで、因縁の大トカゲ軍団と戦い抜く。

 ジャングルの存亡をかけた壮大なクエスト。

 メイにとっては親の顔より見たゴールデンリザードが、大樹目がけて押し寄せて来る。

 たてがみのように膨らんだ胸元で、立ち並ぶ木々を押し倒しながら。


「とんでもない迫力ね」

「すごいです」

「こんなの初めて見たよ……」


 さすがにこの数の多さには、圧巻という感じでメイも目を奪われていた。


「でもワクワクするね。レンちゃん、ツバメちゃん!」


 仲間と一緒のためか、黒い尻尾が楽しそうに揺れ始める。

 短い呼びかけの時間で集まったプレイヤーも、すでに数百人を超えていた。


「それじゃ、まずは私からいこうかしら」

「景気のいい一発、おねがいします」


 ツバメのそんな一言にレンはちょっと得意げに片足を引き、【銀閃の杖】を掲げる。


「さあいくわよ! 【魔砲術】【フレアストライク】!」


 放たれる炎の砲弾。

 巻き起こる盛大な爆発に、数匹のゴールデンリザードが吹き飛んだ。

 これが号令になる。

 あり得ない距離を飛んでいったレンの魔法に驚きながらも、プレイヤーたちは咆哮をあげて走り出す。

 ゴールデンリザードたちも、目前に集まったプレイヤーたちを『敵』と認識。

 両者は正面からぶつかり合う。


「オラアアアア!」


 大剣を持った青年の一撃が、大トカゲを切り裂いた。

 しかし長い尾による反撃で、青年も大きく弾かれる。


「うおおっ、やっぱ結構強いな!」


 ゴールデンリザードは、なかなかに強力なモンスターだ。

 その大きな身体から放たれる攻撃は、どれも高威力。


「あっぶね!? この数はさすがにヤバいぞ!」

「これ、普通にキツイな」


 戦いなれたプレーヤーですら、複数相手では回避が優先。

 常に周りを注意しながらの、懸命な戦いを強いられる。


「……あ、俺死んだ」


 そんな中。運悪く三体のゴールデンリザードに囲まれた錬金術師少年が、敗北を悟る。


「【モンキークライム】!」


 木から木へと、軽快に飛び移って来たのはメイ。


「がおおおお!」


【雄たけび】一つで、大トカゲたちの動きを止めた。


「【ソードバッシュ】!」


 弱点を突かれた大トカゲが、一撃で粒子に変わる。


「【バンビステップ】!」


 早い足の運びで二匹目を斬りつけつつ、そのまま三匹目の懐に潜り込む。


「もう一回! 【ソードバッシュ】!」


 弱点突きで見事二体の大トカゲを打倒。さらに。


「【投石】!」


 生き残った二匹目の姿勢を、ひろった石で再び崩す。


「とどめ、おねがいしますっ!」

「は、はいっ」


 少年は慌てて、手にした剣で大トカゲを斬る。

 それは見事、最後の一撃となった。

 ナイス! と拳を突き上げ駆けて行くメイに、少年が「すげえ……」とこぼす。

 リズムに乗ったメイは止まらない。

 その視線の先には、ゴールデンリザードの猛烈な飛び掛かりで倒れ込んだ武闘家少女の姿。

 とどめを刺そうと、大トカゲは特攻を仕掛ける。


「きゃ、きゃああああーっ!」


 動けずにいる武闘家少女に、大トカゲの体当たりがさく裂しようとしたその瞬間。


「とつげきー!」


 真横から現れた鹿角メイの頭突きが、大トカゲを弾き飛ばした。

 跳ね飛ばされた個体は大きくバウンドし、他の大トカゲ二匹に直撃して消える。


「……あ、ありがとうございます」


 見たこともない鹿角装備を頭に、大トカゲの巨体をあっさり突き飛ばす。

 唖然としながら礼を言う武闘家少女に、メイは「どういたしましてっ!」と爽やかに応じた。

 だが消えた大トカゲに押し倒された個体は、まだ生きている。

 メイはすぐにその後を追うも、そこには四匹の大トカゲが待ち構えていた。

 あっという間に取り囲まれる。

 放たれたのは、二匹同時の毒液攻撃。

 空中に大量の毒液が散らばった。


「【バンビステップ】!」


【鹿角】装備によって強化された足運びは、鋭さを増す。

 毒液が落ちて来る前にその範囲を抜け出し、わずかに行き過ぎて慌てて「おっとと」と、踵を返す。


「がおおおお!」


 そのまま振り返り様の【雄たけび】で体勢を崩し、再び鹿角に雷光を走らせる。


「とつげきー!」


 弾き飛ばした大トカゲが、もう一匹巻きこむ様にして転がり樹に激突。

 メイは倒れた大トカゲたちを高速【バンビステップ】で追いかけて跳躍。

 豪快な斬り下ろしと、早い突きでそれぞれとどめを刺す。

 その隙に横から飛び込んで来た、無傷の大トカゲ。

 メイはその爪を、大きなステップで回避。


「【ラビットジャンプ】!」


 近くの木を蹴り跳び上がると、落下の勢いに任せて斬り掛かる。

 そのまま返す刃から突きまでの三連撃を叩き込んで、残りは一匹。


「【装備交換】!」


 メイは装備を【猫耳】に戻す。


「【アクロバット】!」


 最後の大トカゲの圧し掛かりを軽快なバク転であっさりかわし、その起き上がりに弱点の胸元にショートソードを突き差した。


「な、なんだあの子」

「すっげえ」

「さすが、第二の故郷って言うだけあるわねぇ……」


 圧勝。四体のゴールデンリザードとの戦いを無傷で切り抜ける。

 そのすさまじい戦いぶりはもはや、大群で暴れ回るゴールデンリザードよりも華々しかった。

 こうして、メイを始めとしたプレイヤーたちの攻勢で場は落ち着き始めていく。

 しかし。


「だ、第二陣が来やがった!」


 数が減ってきたところで、やって来た増援のゴールデンリザード軍団。


「なるほど。第二波、第三波と数を足してくる感じなのね」


 この攻防戦の形式を、レンはここで把握する。

 おそらくこのまま、幾度にも渡って新手がやって来るのだろう。

 そしてそれを耐え切れるか否かが、クエストの成否を決める。


「ま、それはそれとして先制は取らせてもらうわね【魔砲術】【フレアストライク】!」


 レンは楽し気な笑みを浮かべながら、敵増援の先頭を吹き飛ばしてみせた。

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