第36話 釣りをします!

「何に使うものなんだろう」

「綺麗だけど、イベントアイテムにしては地味ね」

「小さなクエストかも。お使い系の」


 メイの手に乗った『作り物の小魚』を見ながら、水からあがる三人。

 湖の底に沈んでいたアイテムとなれば、何かしらのクエストに関わるものだろう。

 そのまま湖のほとりを歩いていると、釣りを楽しむプレーヤーたちの一帯にたどりつく。

 どのプレーヤーも、割と調子よく釣れているようだ。


「魚もポイントになってるんでしょうか」

「まあ、イベント中に魚釣りをしてるプレイヤーは単純な釣り好きだと思うけどね」


 釣りプレーヤーたちは、どんな種類の魚を釣ったという話題で盛り上がっている。

 メイたち同様、ポイントを追いかけている感じはない。


「釣りも楽しそうだねぇ」

「なんだか、魚に目がない食いしん坊な猫みたいで可愛いですね」


 興味深そうに尻尾を揺らすメイに、ツバメがほほ笑む。


「あれ?」


 そんなメイの目が留まる。

 そこには、村で出会った三姉妹の姿があった。


「どうしたのー?」


 声をかけると、三姉妹の三女が振り返る。


「夕食用の魚を釣りに来たんだよ! でも、なかなか釣れなくて……」


 そう言ってため息を吐く。


「お姉ちゃんたち、釣りはできる?」

「なるほど、今夜の夕食のお手伝いクエストってわけね。それじゃ今日は釣りでもしてみましょうか」

「うんっ!」


 元気に返事をするメイに、ツバメもうなずく。

 三人は、さっそく竿を借りて釣りクエストを開始した。


「釣りをしたことはあるのですか?」

「現実の釣りはないわね。まず餌にさわれないもの」

「餌を使わなければ大丈夫なのー?」

「それでも嫌よ。活きてる魚をそのままさわるのも怖いし……」

「メイさんは?」

「わたしは魚なら大丈夫……わたしも苦手かな!」

「……メイ、虫とか魚にさわれる=野生児っぽいではないと思うわよ」

「てへへ。ちょっと都会っ子ぽくなれるかなと思ったんだけどなぁ」

「でも、こういう落ち着いた感じもいいわね。大きなクエストをクリアした後だから気楽っていうのもあるけど」

「本当です」

「魚、三人分用意してあげたいねぇ」


 三人並んで釣り糸を垂らしつつ、とりとめのない会話に花を咲かせる。

 穏やかな時間が、ただただ過ぎていく。


「なかなか釣れないですね」

「釣りは運の要素もあるんじゃないかしら。私たちは『幸運』を上げてないから。それでも、続けてればそのうち一匹二匹くらいはかかると思うわよ」


 黒ずくめの格好でのんびり釣り竿を握る、ちょっとシュールな絵面のレンが言う。


「ま、釣れないなら釣れないで、それはそういう思い出になるんじゃない?」

「そうですね」


 三人がかりで釣れないのなら、それも悪くない。

 ツバメがかすかに頬を緩ませる。


「……メイ? どうしたの?」


 そんな中、メイはジッと湖の上を飛んでいる鳥たちを見つめていた。


「ジャングルにいた頃、鳥が川の上から魚を狙ってるのを見たことがあったんだ。だからもしかすると、鳥のいるところが釣れやすいんじゃないかなぁと思って」

「7年のジャングル暮らしで得た知恵ってわけね。いいわ、行ってみましょう」


 これまでのメイの素晴らしい活躍を考えれば、移動して狙ってみるのも一興。

 三人はさっそく鳥の多い場所へ足を向け、再び釣り糸を垂らす。


「……かかった!」


 すると、すぐにメイの竿に反応あり。


「私も!」

「私もです」


 さらにレンとツバメも続く。

 あとは竿を引いて魚を寄せるだけ。

 こうして三人は見事、魚を釣り上げてみせた。


「でもやっぱり……直接触るのは……」


 釣り上げてはみたものの、その後に戸惑うレン。

 どうやら一度手にしないと、インベントリにも入れられないようだ。

 するとそんなレンを見て、メイも慌てて魚から手を放す。


「あっ、わ、わたしも直接触るのは怖いかなっ」

「今、普通に捕まえてたじゃない」

「あはは、バレちゃった」

「メイさんの知恵が、ここでも役に立ちました」

「ジャングルで得たヒントがしっかり活きるっていうのが面白いわね」


 幸運値が低くとも、意外な方法で釣りは成功。

 釣り上げた魚は、生でも全然動じないツバメに頼んで三姉妹のところへ戻ることにした。


「釣れたよー!」

「お姉ちゃん! ありがとう!」


 三人で釣った魚を持っていくと、三女が飛び跳ねてよろこぶ。

 長女次女は、「ありがとうございます」と頭を下げた。

 クエストは、これで無事完了だ。


「せっかくなので、私たちもがんばってみようと思います」


 そう言って三姉妹は、また並んで釣り竿を振るう。


「これ、何匹でも釣れるしポイントにできるっていうクエストみたいね」


 姉妹は基本ここにいて、ニ十匹でも三十匹でも釣った分だけ渡すことができるのだろう。

 そしてその数によってポイントが付くというクエスト形式だ。


「……でも、小魚のおもちゃは何に使うのかしら」


 やはり、見つけたイベントアイテムの使い道は分からないまま。

 陽光降り注ぐ湖のほとりは、変わらず穏やかだ。

 大きなクエストの兆候なんかも特に見られない。

 並んで首を傾げる三人。


「……君たち、それをどこで?」


 するとそこに、一人の釣り老人がやってきた。

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