第35話 湖で一息つきましょう

 守神クエストの翌日。

 待ち合わせ時間より少し早く、メイは『星屑』の世界にやってきた。


「あ、ツバメちゃーん!」

「メイさん」


 メイを見つけたツバメは、いつも通りの淡々とした表情で【加速】を使用。


「うわっ!」


 距離感を間違えて、そのまま猛スピードでメイに飛びついた。


「どうしたの、そんなに慌てて?」


 思いっきり胸元に飛び込まれて、ちょっと驚くメイ。


「……ご、ごめんなさい。待ち合わせ、初めてだったので」


 ツバメは慌てて身体を離す。


「あはは、1時間くらい前から待ってそうな勢いだったね」

「……3時間ほど」


 恥ずかしそうにするツバメと、笑うメイ。

 誰かとゲーム内で待ち合わせ。

 ツバメには、居ても立っても居られないくらい楽しみだったようだ。


「二人ともお待たせ」


 そこにレンがやって来る。

 こうして、結局約束の15分前には三人集まってしまった。


「今日は何をしよっか?」


 さっそく尻尾をぶんぶん振るメイと、その尻尾に釘付けのツバメ。


「そうねえ」


 ジャングルの守り神との対峙。

 そんな大仕事の後だけあって、どこか落ち着いた雰囲気がある。


「イベントアイテムを持ってるわけでもないし、のんびりクエスト探しでもしてみる?」

「それがいいね! 何か見つかるかなぁ」


 早くもワクワクしてるメイ。

 その横を、一人の村人が通りがかる。

 その手には、釣り竿が握られていた。


「釣りですかー?」

「ああ。夕飯用の魚を釣りに、湖まで行くつもりなんだ」

「湖だって!」

「……ありかもしれないわね」

「いいと思います」


 湖に向かう村人の後を追って、三人はジャングルを進むことにした。

 守神様のクエストが終わり、村人たちの行動も変化しているようだ。


「二人とも、少しいいですか?」

「どうしたのー?」

「一応確認しておいてもらった方がいいかと思って」


 そう言って、ツバメがステータスを開示する。



【名前:ツバメ】

【クラス:アサシン】


 Lv:39

 HP:2460/2460

 MP:72/72


 腕力:104(+45)(+38)

 耐久:10(+48)

 敏捷:203(+38)

 技量:73(+10)

 知力:10

 幸運:10


 武器:【ダインシュテル】攻撃45

   :【黒曜石のダガー】攻撃38

 防具:【ミスリルベスト】防御15 敏捷5

   :【紺碧のローブ】防御16 敏捷18

   :【疾風のブーツ】防御12 敏捷15

 装飾:【シルクグローブ】防御5 技量10


 スキル:【加速】【跳躍】【隠密】

    :【スラッシュ】【投擲】【電光石火】【アサシンピアス】【紫電】

    :【二刀流】



 ツバメの特徴的なスキルは、やはり【隠密】だろう。



【隠密】:対象に認識されていない状況で発動することで、姿を消すことが可能。スキルの使用や攻撃等で存在を知られると可視化する。



 対象に気づかれずに使用すると大きな特効が付く【アサシンピアス】との併用が強力だ。

 弱点に刺さった場合の威力は、驚異的と言っていい。


「さっそく二刀流にしたのね」

「はい、前に装備していた武器を使ってみることにしました」

「二刀流だと【電光石火】は連撃になる感じ?」

「はい」

「スキル付き武器なんかを使うと、三連撃もできそうね」

「お二人のレベルはどれくらいなのですか」

「私は54かな。メイは193」

「93……すごい」

「あ、違う違う。193よ」

「……?」

「気持ちは分かるわ。私もこの目で見るまで……見てもバグか何かだと思ったもの」


 あらためてメイのステータスを確認して唖然とするツバメと、苦笑いのレン。

 少しずつ視界が開けていく。

 そこには、エメラルドブルーの大きな湖が広がっていた。


「うわーきれい! 【ラビットジャンプ】!」


 さっそく木の枝に乗って、湖を見渡すメイ。

 休憩中なのか、そこかしこにプレイヤーが腰を下ろしている。

 中には釣りに興じている者もいるようだ。


「メイ、枝に乗って辺りを確認するのは野生児感強くない?」

「わわわ」


 慌てて木から降りるメイに、レンとツバメが笑う。


「向こうに高台があるみたいだよ、行ってみよう!」


 駆け出すメイに、ツバメも目を輝かせながら続く。

 湖の一端には小さく切り立った崖があり、プレイヤーたちがその先端から湖に飛び込んで遊んでいる。


「わあ、楽しそう!」


『星屑』でも、水に入れば当然濡れる。

 ただしアクションゲームに多い『水場を出ると急速に乾く』システムのため、気にする必要はほとんどない。


「……メイ」

「なにー?」

「アーアアー! はダメよ」

「い、言わないよう!」


 言ったら即『野生児』認定されるだろう叫び声を、一応注意しておくレン。


「……気をつけないと」


 実は危かったメイは自分にそう言い聞かせて、崖のてっぺん目指して走り出す。


「いっくよー! 【ラビットジャンプ】!


 そのまま崖の端にたどり着いたところで、大きく跳躍。


「【アクロバット】!」


 さらに華麗な空中回転を見せつつ着水した。

 その豪快な飛び込みぶりに、プレーヤーたちが「いいぞいいぞ」と歓声をあげる。


「冷たくて気持ちいいよー!」


 顔をブルブル振って、水を払うメイ。


「【加速】【跳躍】」


 その後にツバメも続く。

 大きく遠い跳躍。これも文句なしの綺麗な着水を見せた。


「レンちゃんもおいでよー!」

「当然。今行くわ」


 レンは高い敏捷性を感じさせる軽快なダッシュから、思い切りよく踏み出す。


「おおー!」


 しかし、思ったより空中で身体が回らない。


「あ、あら?」


 そのまま真っすぐ落下して、思いっきり水面に腹部を打ち付けた。

 盛大に上がる水しぶき。

 やがて、黒ずくめの魔女がプカッと大の字で水面に浮かんできた。


「痛たたた……これしっかり落下ダメージもらうのね」


 意外なダメージのもらい方に、さすがに恥ずかしくなるレン。


「……ねえ、二人とも気づいた?」

「どうしたのー?」

「水底で、何か光ったように見えたんだけど」

「見てみます」


 そう言ってツバメが潜る。

 すぐに戻ってきたツバメは、こくりとうなずく。


「確かに何か見えました。ただ、呼吸のゲージがとても足りません」


『星屑』でも、他ゲームと同様に『呼吸』ゲージが採用されている。

 もちろん、ゲージが切れればリスポーンだ。

 そしてレンやツバメでは、どう考えても息が続かない。


「わたしがいってみるよ!」


 そう言ってメイが潜る。

 広がる水中の世界は、陽光が差し込んでいて美しい。

 この世界オリジナルの魚たちは、彩りも綺麗だ。

 メイの目が、すぐにそれを捉えた。

 水底には確かに、何か光るものがある。

 まだまだ『呼吸』は問題ない。

 そのまま水底まで潜り、メイは七色に光る何かに手を伸ばす。


「ただいまー」

「潜れる時間は、耐久値に依存するみたいね」


 メイの潜水時間から、『呼吸』のシステムを言い当ててみせるレン。


「これ、なんだろ?」


 メイは首を傾げる。

 その手に乗っていたのは、七色に輝く作り物の小魚だった。

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