第31話 守神との戦いⅡ
「すごい……角が光ってる……」
「ふふ、メイは変わらないわね」
大きなボス相手にも楽しそうに目を輝かせるメイに、レンも笑ってしまう。
守神の角はこれまでと違い、青白く光り続けている。
「来るわ!」
いよいよ荒れ狂い始めた守神は、角を振り回しながら特攻を仕掛けてくる。
「【バンビステップ】!」
「【加速】」
直線の体当たりを、前衛二人がかわす。
すると守神は急停止。
片足を上げ、そのまま地面を踏み抜いた。
その足から放射状に稲光が駆け抜ける。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】」
これもその場のジャンプで回避する二人。
この間も常に、青い雷光は降り注いでいる。
「魔法に意識を割けないわね……ッ!!」
伸びる木の根も、変わらず後衛狙いを続けている。
「痛ッ!!」
そんな中、ついにレンが雷光に打たれた。
HPを一気に半分ほどもっていかれる。
「まずっ……メイ、ツバメ。この手数だと回避しながらの攻撃は難しいから、一度離脱していい?」
レンは前衛二人に問いかける。
「二人も私を見ながら戦うのなんて無理だと思うし、もしあの体当たりとかパターンの違う雷が来たらもたないわ」
「分かった! ここは任せてっ!」
大きな声で応えるメイ。
ツバメも小さくうなずいた。
「……もちろん、このまま逃げたりはしないわ」
得意げな笑みを残して、レンは敵の攻撃が届かない位置へと下がっていく。
対して守神は止まらない。
猛然とメイに飛び掛かり、輝く角を振り上げる。
「【アクロバット】!」
これを側転でかわすと、頭上に走る閃光。
「ッ!」
決死の横っ飛び。寸前のところで落雷をかわす。
守神がいななく。
足元から伸びた木の根が、ムチのような軌道でツバメを狙う。
「【加速】!」
これを早い動きでかわし、続く雷光も【電光石火】で斬り抜ける。
すると守神が、前足を大きく上げた。
直後、これまでよりさらに荒々しい巨雷が地面を穿った。
これを大きな後方への跳躍で避けた二人は、即座に動き出す。
「ここがチャンス」
駆け出す二人。その足が……止まる。
これまで大きな雷を起こした後は、『身体を振るう』動作と共に完全な隙があった。
しかし落ち続ける落雷が、二人を近づかせない。
「……隙が無くなった」
ツバメがつぶやいた、次の瞬間。
「「ッ!?」」
守神の肩口が爆発し、猛烈な炎があがった。
身体を大きくフラつかせる守神。
メイとツバメの視線が、自然と引き寄せられる。
遠く距離を取ったなだらかな丘の上には、目を金色に輝かせた【魔眼開放】状態のレン。
「あの距離から、魔法を当てた?」
驚くツバメ。
どう見ても、ゲーム最長を誇る弓の射程よりも遠い位置からの攻撃だ。
「すごいよレンちゃん!」
一方メイはただただ大喜び。
すると守神は、怒り声と共に再度前足を大きく上げた。
「そんなサービスしちゃっていいの?」
前足を上げる挙動も、離れていれば隙にしか見えない。
レンは【銀閃の杖】の向きを微調整。
「この距離でも、それだけ身体が大きければ外さないわ! 【魔砲術】【フレアバースト】!」
【魔眼開放】によって知力が15%向上中のレン。
放たれた爆炎は空を切り裂き、前足を突いたばかりの守神の胸部に直撃して盛大な炎をあげる。
それはもはや、砲撃のようだった。
これで残りHPは、約3割。
守神はいよいよ、狂ったかのような咆哮と共に駆け出した。
猛烈な飛び掛かりから振り上げる角。
これを回避したところに、付近一帯に降り注ぐ雷。
さらに木の根が、ムチのように迫る。
「【跳躍】! くっ!!」
雷光をどうにか避けたものの、続く根のムチに叩かれツバメが倒れ込む。
運悪くそこへ、落ちてくる雷。
「ツバメちゃん!」
メイはツバメを抱えてこれを回避。
「【フレアアロー】!」
即座にレンが【魔砲術】を叩き込んで時間を稼ぐ。
「メイさん、私はいいので守神を」
いよいよ最終段階に入って、暴れ狂う守神。
主力であるメイに、ツバメは『自分を見捨てる』よう提案する。
しかしメイは、首を振った。
「メイさん……?」
「大丈夫、ツバメちゃんは……わたしが守る!」
そう応えて「よーし!」と、意気込んでみせた。
ここでメイはついに、新たなスキルを発動する。
「……これで勝負を付けるよ! ――――【裸足の女神】!」
発動と共にメイの足装備、【白花のブーツ】がインベントリに戻される。
ブーツが脱げ、裸足になるメイ。
敏捷値10%向上という効果は、もともとステータスの高いメイの動きをさらに早く鋭くする。
「【バンビステップ】!」
移動系スキルの効果向上によって、降りしきる雷光をかわして守神へと接近。
対して守神は、足元を強く踏みしめる。
「【ラビットジャンプ】!」
地を駆ける雷光を大きなジャンプであっさりかわし、剣撃を叩き込む。
すると守神は、逃げるように後方へ大きく跳躍。
その全身に青い雷光をまとわせて、猛然と駆けだした。
それは守神の最終奥義。
煌々と輝く雷光角で、突撃を仕掛けて来る。
「【アクロバット】!」
メイは目前まで引き付けたところで、バク宙を使ってこれを回避。
角が地面に突き刺さる。
「【バンビステップ】!」
続く角の振り上げも速さを増した足運びでかわし、木の根もすり抜け守神の前足へ。
「【モンキークライム】!」
そこから守神の身体をわずか三歩で駆け上がると、肩口へとたどり着く。
「【ラビットジャンプ】!」
そのまま大きく踏み切って、これまで以上に高い跳躍。
空中で剣を掲げる。
「行くよぉぉぉぉ! ジャンピング――――【ソードバッシュ】!」
強烈な一撃を、守神の脳天に叩き込む。
広がる衝撃波。メイが着地すると、守神はその身体をぐらりと大きく揺らした。
残りHPは1割を切り、嵐の様に降り注いでいた雷が消えていく。
角の光も弱くなり、HPゲージはちかちかと点滅している。
「メイー! 今よーっ!」
「メイさんっ、たぶんこれは……っ」
「なるほど! そういうことだねっ!」
メイは『笛』を取り出すと大きく息を吸い、思いっきり吹き鳴らす。
高く、しかしきれいに響き渡るその音色。
すると守神の角が発光をやめ、動きも完全に停止した。
やがてその身体は小さくなり、元の小鹿に戻っていく。
そして、HPゲージの表示が消えた。
小鹿は「キュルルルル」と小さく鳴いて、枝で編まれた巣で再び眠りについた。
「……これで小鹿ちゃんを助けられたんだよね? ツバメちゃん」
「はい、これでいいんだと思いま――」
「やったあー!」
メイは満面の笑みでツバメに抱き着く。
その躊躇のなさに、思わず赤面するツバメ。
「やったわねメイ! ツバメ!」
遅れて駆けつけたレンも、そのまま二人に飛びついた。
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