第28話 遺跡を進みます!

「【モンキークライム】!」


 遺跡を行く三人がたどり着いたのは、床のない部屋だった。

 向こう側に扉が見えてはいるものの、穴は底が見えないほどに深い。

 そんな部屋の壁には、階段状に剣が刺してある。

 この剣の側面部分を足場にして登れという事だ。

 剣と剣の間は隙間も広く、かなり難易度の高い仕掛けになっている。

 しかしメイは剣の足場をひょいひょい蹴り上がると、天井付近に付けられた鎖を引き、つり橋を下ろす。


「やっぱり、そこの仕掛けは腕力値が必要だったのね」


 レンが【浮遊】で確認した時には動かなかったつり橋も、メイがいれば問題なし。

 降りてきたつり橋を進み、その先にある扉を開く。

 出た先は、石畳の通路の途中。

 ただし、雰囲気が少し違っていた。

 まず、浸食や崩れがない。

 積み上げられた石壁や床も、綺麗な作りをしている。

 等間隔で立ち並ぶ柱は、どこか神殿のような雰囲気を見せていた。


「意外と短かったですね」

「最初に道を選んだ時に、簡単に進める方を選んでたらもう少し長くかかったんじゃないかしら」


 難しい道はその分早く着けるのだろうと、レンは予想する。


「……レンちゃん、ツバメちゃん」


 メイの耳がピクリと動く。

 その先にいたのは、五人のハンターNPC。


「お前ら、別隊の報告にあがってた冒険者だな!」

「俺たちの仕事の邪魔をしにきやがったんだ! やっちまえ!」


 ハンターたちは、問答無用で襲い掛かって来る。


「レンちゃん、いくよー!」


 先頭にいたメイは、しっかりと五人を引き付ける。


「がおおおお!」


 放った【雄たけび】によって、ハンターたちが一斉に倒れ込んだ。


「【連続魔法】! 【ファイアボルト】!」


 続く三連発の炎で、きっちり三人のハンターを燃え上がらせる。


「ツバメ、よろしくね」

「【加速】」


 残った二人のもとに駆け付けたのはツバメ。

 片方を連続攻撃で斬り倒したところで、起き上がった最後の一人が槍を振り上げた。


「【電光石火】!」


 ギリギリのところを斬り抜ける。

 そして振り返り際の一撃でとどめ。

 見事ハンターたちを片付けた。


「連携も結構サマになってきたわね」

「うんっ」


 うれしそうに拳を上げるメイ。しかし。


「……手の内は、見せてもらったぜ」


 そこに現れたのは、男四人のパーティ。

 剣士二人の前衛に、弓術師と魔術師というバランスのいい構成だ。


「イベントアイテムを持ってるなら、渡してもらおうか……これ、どうしても悪者っぽくなるな」

「相手女の子だししゃーない。でも、こんな形で会ったからには戦わずにはいられないよな」

「ここはお互い、恨みっこなしで頼むぜ」

「もちろん」


 そう言ってレンが杖を構えると、ツバメも構えを取る。

 メイたちにはイベントアイテムの『笛』がある。

 ここで負ければ当然アイテムロストだ。

 走り出す緊張感。

 先陣を切ったのは、こんな展開にワクワクし始めていたメイだった。


「行くよっ! 【ラビットジャンプ】!」


 開戦と同時のダッシュから、メイが大きく跳び上がる。


「その子の叫び声には気を付けろ!」

「分かってる!」


 先ほどのハンター戦をのぞき見ていた剣士は、【雄たけび】を警戒して防御に入った。

 そこでメイは一転、剣を振り上げる。


「【ソードバッシュ】!」

「なんだ、そんな基礎技じゃ俺の守りはあぼるげばあっ!」


 猛烈な一撃に、先頭の剣士二人が吹き飛ばされる。


「お、おいっ! 【アイスエッジ】!」


 基礎技である【ソードバッシュ】に吹き飛んだ二人の仲間を見て、魔術師は一瞬注意を奪われた。


「【跳躍】! 【電光石火】!」


 後衛狙いで動いていたツバメは三本の氷刃を【跳躍】でかわし、ダガーによる斬り抜けで魔術師の背後に回る。


「【紫電】!」


 魔術師を捉えた雷光が弓術師にも伝わり、二人をまとめて感電させる。


「レンさん」

「了解っ! 【フレアバースト!】」


 放たれた爆炎が魔術師と弓術師の二人をまとめて吹き飛ばし、直撃の弓術師は粒子になって消えた。

 魔術師はどうにか反撃に出ようとするが、そこへさらに――。


「【投石】!」


 メイの後追い【投石】に、魔術師は大慌てで地面を転がる。


「あ、あっぶねえ! 何だこの威力!?」


 見たことのない【投石】の威力に、混乱する魔術師。

 その懐には、すでにアサシン。


「【電光石火】」


 放たれた速い一撃で、弓術師に続いての退場となった。


「【連続魔法】! 【ファイアボルト】!」


 一方メイの【ソードバッシュ】】で転がった二人の剣士。

 その起き上がりを狙ったレンの魔法が、炎を巻き起こす。


「【バンビステップ】!」


 その隙にメイは、大きな足取りで距離を詰めると――。


「がおおおお!」


 今度こそ【雄たけび】を放つ。


「「うおおおおおおおおっ!?」」


 剣士二人は、起き上がりを火だるまにされて転がった。

 こうなればあとは、詰めの一撃のみ。


「【フレアバースト】」


 放たれる爆炎。


「ま、負けたぁぁぁぁ!!」


 二人の剣士は、悔しそうな表情で消えていく。


「…………んー」

「どうしたの、レンちゃん?」


 戦いが終わった後。

 何度も足元を確認しているレンに、メイが問いかける。


「うん。悔しそうにしてたわりに、何のイベントアイテムも持ってなかったんだなと思って」


 何のきっかけもなしに、勢いだけで仲間と遺跡深部まで潜ってしまう。

 そういうのも楽しそうでいいわねと、レンは笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る