第26話 村で追いかけっこします!
三人はジャングルの村を歩いて回る。
この村も草木のせん別が行き届き、各所に見られる花飾りが美しい。
それなりに大きな村のせいか、他のプレイヤーとは思ったよりすれ違わない。
「きれいな村ですね」
「村の人たちも穏やかでいいわね」
観光気分で村を散策していると――。
「誰か捕まえてー!」
大慌てで駆けて来た幼い少女が叫んだ。
見れば、ものすごい勢いで村内へ散らばって行くニワトリたち。
「わあ! と、とまってー!」
とっさにメイが叫ぶ。
「本当にとまった……」
ツバメが驚きの声をあげる。
なんと逃げ出したニワトリの約半数が、その場にぴたりと足を止めた。
「ありがとー!」
足を止めているニワトリに律儀にお礼をいいながら、その身体を抱え上げる。
そこからメイは、待っているニワトリたちをせっせと少女のもとに運んでいく。
「【加速】」
一方ツバメは、メイの声が届かなかったニワトリを追う。
スキルによる高速移動から飛び掛かり、そのまま抱えて地面を転がる。
「捕まえました」
首を傾げまくるニワトリに思わずほほ笑む。
こちらも問題なさそうだ。
「待ちなさいよー!」
レンは、地道に走ってニワトリを追いかけていた。
「それっ!」
早いジャンプでかわされる。
「もう一回!」
急加速ですり抜ける。
「ああもう、大人しく捕まりなさいよー!」
思い切って飛び掛かるレン。
しかしニワトリは羽ばたいてそれを回避。
倒れ込んだレンの頭に、華麗に着地した。
「これで、捕まえてる判定なの……?」
得意げに胸を張るニワトリを頭に乗せたまま、少女のもとに戻るレン。
「なっ! あの子たちはもうっ!」
しかしいまだ逃走中のニワトリはやがて、村の外へ出ようとし始める。
レンは慌てて村外へ出ようとしているニワトリのもとへと走り出す。
「なるほど、そういうことねっ!」
村の外に出てみれば、そこには待っていましたとばかりに現れるヒョウ。
ニワトリたちは、吸い込まれるようにヒョウのもとへ。
「【ファイアウォール】!」
炎の壁で、ヒョウとニワトリを分断。
「よかった。焼き鳥にならなくて」
炎の前で足を止めたニワトリたちに息をつく。
「みんなとまってー!」
そして遅れてやって来たメイとツバメによって、無事ニワトリの回収を終えた。
「これ、外に逃げたニワトリはあのヒョウに取られていっちゃうのね」
捕まえた数がそのままポイントになるんだろうと、レンは冷静に予想する。頭にニワトリを乗せたまま。
「……生贄みたい」
「誰が黒魔術師よ」
黒ずくめの服装にニワトリという姿のレンに、思わずつぶやくツバメ。
「ありがとう! ちゃんと全部いるよ! 一羽も逃がさず捕まえちゃうなんてすごいね!」
「助けていただいて、ありがとうございました」
「うちの妹がご迷惑を……」
よろこぶ幼い少女と、その姉であろう二人がやって来て頭を下げる。
二人が祈ると、三人の周りにライトエフェクトが現れた。
「MPが回復してるわね」
「なんだか本当に、ジャングルにいた頃を思い出すなぁ」
三姉妹を見ながら、ほほ笑むメイ。
「おや、どうしたんだい?」
そこへやって来たのは、ローブをまとい杖をついた老人。
「村長さん。うちの妹が逃がしてしまったニワトリを、この方たちが捕まえてくれたんです」
「そうだったのかい。それはお世話になりました」
経緯を聞いた村長は、ゆっくりと頭を下げる。そして。
「おや、君……その笛は……」
ジャングルにたどり着いてすぐの滝で、【浮遊】と【モンキークライム】で手に入れた笛に目を付けた。
「滝のところで見つけたんです!」
メイがそう言うと、村長の表情が変わる。
「……ぜひ、お話を聞かせてください」
◆
花による飾りが美しい、村長の家。
やって来た三人に、村長が語り出す。
「その笛は、守神さまの様子を見に行った者に持たせたものです」
「守神さま?」
メイが首を傾げる。
「このジャングルを古くから守護する、大きな鹿の神さまです。我々はこの守神さまと共生してきたのですが……最近、この辺りを密猟者が荒らし回っておるのです」
「子グマを売ろうしてた人たちですね」
「なるほど、あのハンターたちは密猟者だったのね」
「守神さまの怒りを買えば……ジャングルに災いが起こると言われております」
村長は大きなため息をつく。
「冒険者さん、力を貸していただけませんか。守神様の無事を確認してきて欲しいのです。このままでは何が起こるか……」
「レンちゃん!」
「きたわね」
うなずき合う二人。
「これ、結構大きなクエストよ。ツバメも引き続き力を貸してくれる?」
「はい」
ツバメはこくりとうなずいた。
「ああ、ありがたい。その笛はぜひお持ちください。いざという時、その音色が守神様の怒りを鎮めると言われています。最も、怒りで我を忘れている間は届かないと思われますが……」
「……なるほどね。それでその守神様はどこにいるの?」
「守神様の眠る遺跡は、山の上にございます」
「あの山を……登るの?」
最初に【浮遊】でじっくり時間をかけて降りた滝。
あのテーブルマウンテンを登るというのは、並大抵のことではないだろう。
「お任せください」
村長はそう言って家を出る。
杖を掲げると、どこからともなく一羽の巨大な白い鳥が舞い降りて来た。
「うわあ! きれい!」
「守神様の眠る遺跡まで、あなたたちを運んでくれます」
その大きくも美しい鳥の姿に、さっそくメイの尻尾がブンブンと元気良く動き出した。
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