第17話 無事クエスト終了です!

「よくお嬢様を助けてくれた。礼を言う」


 護衛の男たちが、深々と頭を下げる。

 賊にさらわれたお嬢様の救出。

 長きに渡って未解決だったクエストを見事クリアした二人は、レイフレーゼ家にやって来ていた。

 壮年の当主は、うれしそうに娘を抱きしめる。


「娘の窮地を、こんなにも早く助けてもらえるとは。君たちには最大の感謝をもってこたえなくてはなるまい」


 当主が手を上げると、護衛の者たちが三つの宝箱を持ってやって来た。


「ぜひ持って行ってくれ。君たちの冒険の役に立つだろう」

「ありがとうございますっ!」


 メイはうれしそうに頭を下げる。


「さっそく開けてみましょう」

「うんっ」


 二人はワクワクしながら、目の前に置かれた宝箱に手を伸ばす。



【浮遊】:緩やかな浮遊を可能にする。総重量によってその軌道が変わる。



「これも、見かけないスキルだわ」


 ただ、現状のメイが覚えることで戦いの幅が広がる感じはない。


「……ちょっと待って」


 そんな中、不意に思い浮かぶ一つの『形』


「これって【浮遊】で樹とか岩の上に上がって、高いところから【魔砲術】で攻撃するって戦い方もできそうね……」


 レンは早くも、イベントに向けて新たな戦法を考え始める。


「わあ……」


 一方メイは、目を輝かせていた。

 そこにあったのは、白を基調にした軽鎧とブーツのセット。


「レンちゃん装備だよ! 装備が入ってた!」



【白花の鎧】:綺麗な作りをしていながらも丈夫な軽鎧。力強い動きを可能とする。

      :耐久30 腕力15


【白花のブーツ】:高い耐久性と軽量さを兼ね備えた美麗なレザーブーツ。軽快かつしなやかな動きを支援してくれる。

        :耐久20 敏捷10



 見た目にもかなり上等そうな一品だ。


「見て見て! このブーツがすっごくいいんだよ!」


 中でもメイはブーツに目を引かれた。

 ステッチによる紋様が入ったレザーブーツは、可愛らしくもありカッコよくもある。

 まさにメイにとって、理想の装備品だ。


「いいじゃない。メイによく似合うと思うわ。防御じゃなくて【耐久値】が上がるってのもいいわね」

「装備してもいい?」

「もちろん」


 さっそくメイは、新たな防具を身に着ける。

 軽装ながらも上品さを感じる白のニットにキュロット、胸元と腕の一部だけに金属を使った軽鎧。

 白と明るいベージュのレザーブーツ。

 メイの綺麗な黒髪が映えて、雰囲気が一気に変わる。


「別人みたいじゃない……っ!」

「これなら耳と尻尾があっても、問題ないよね!」


 これまでの『耳と尻尾が生えてたせいでジャングルに捨てられた子』みたいな雰囲気から大幅な変化。

 飛び回るメイらしく、身軽になっているのもいい感じだ。


「これでもう、野生児とは言わせないよっ!」


 期待していた装備が手に入って、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶメイ。


「……さて」

「最後の宝は何かな?」

「メイが開けて」

「いいの?」


 素直に喜ぶメイの姿が見たいレンは、宝箱の開封を任せる。


「それじゃあ、開けるね」


 メイが箱を開く。

 そこには、一冊のスキルブックが入っていた。


「なんだろう」


 ここまでの流れを見る限り、このクエストの報酬は魅力的なものばかり。

 期待せずにはいられない。



【裸足の女神】:使用時に足装備が外れる。裸足になることで敏捷値を10%上昇し、移動・跳躍系スキルの効果も向上させる。



「…………」


 白目をむくメイ。


「手に入れたばかりのオシャレなブーツを、即座に脱がしにきたわね……」


 綺麗な装備での裸足は、むしろ余計に目立つだろう。


「野生児なら靴なんか履いてんじゃねえよってことかしら……」

「そんなの困るよー!」


 あまりに見事な流れに、さすがに感嘆するレン。


「しかもこの【裸足の女神】が、メイに直撃の良スキルなのがまた……【ラビットジャンプ】【バンビステップ】【モンキークライム】の強化は間違いないとして……」

「ないとして?」

「【四足歩行】も強化されるでしょうね」

「……レンちゃん。耳と尻尾のある裸足の子が、雄たけびをあげながら四足歩行してたら、それはもう完全な獣だよーっ!」

「わ、私としてはうらやましいわよ? プレイヤー全体でもメイだけだろうし」

「レンちゃんだったら、四足歩行する?」

「…………」

「前にレンちゃんが言ってた、最後は本当に化け物になっちゃうって話、本当かもしれないね……」

「ええと……メイがどんな姿になっても、私は最後までメイを人間だって言い続けるわよ?」


 戦慄するメイと、苦笑いのレン。


『――――星屑のフロンティアをプレイ中の皆さまに、ご報告です』


 そこに、運営のアナウンスが入ってきた。


『大型イベントの開催もいよいよ目前。期間は明日夜18時から、翌々日の23時までとなります』


「これに参加するんだよね?」

「そのつもり。今回はどんなイベントになるのかしら」


 毎回場所や趣向を変えてくる大型イベント。

 その案内に、二人は意識を向ける。


『皆様のご参加をお待ちしております。今回のイベントの舞台は――――ジャングルです!』

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