第16話 地下に住まうもの

「くそっ! なんて強さだ!」


 メイとレンにやられた賊の男は、地下通路最奥の部屋に逃げ込んだ。

 そこには縛られたお嬢様と、謎の鉄扉。


「だがお前らもここまでだ。俺たちにケンカを売ったこと後悔させてやる!」

「先に火を消しなさいよ」


 この間ずっと燃えたままの賊NPCに、思わずツッコミを入れてしまうレン。


「出てこい!」


 燃える賊の男が、重厚な鉄扉を開く。

 中から出てきたのは、体長4メートルにもなる濃灰色の巨犬。


「いくらお前らでも、こいつに勝てるはずがねえ! ハッハッハッハ! お、おいやめろ! 俺じゃない! やるのは俺じゃグアアアアッ!」


 悲鳴と共に倒れ伏す賊。


「グルルルル……」


 一撃で男を黙らせた巨犬ケルベロスは、そのままゆっくりとメイたちの方に向き直る。


「来るわよ、メイ」

「うん!」


 二人が確認をかわした直後、ケルベロスは猛烈な勢いでメイに喰らいつきに来た。


「【アクロバット】!」


 その豪快な飛び掛かりを、メイはバク転一つで華麗にかわす。

 するとケルベロスは炎を吐いた。


「もう一回【アクロバット】!」


 これを続けざまのバク宙でかわし、着地と同時にショートソードを構える。


「【ソードバッシュ】!」


 駆けこんで来たところに叩き込む一撃。ケルベロスが大きく後ずさる。


「メイ、お願い!」

「うんっ! がおおおお!」


 続けざまに放つ【雄たけび】の衝撃に、ケルベロスは倒れ込む。


「さすがボスね、転がらないだけ大したものだわ【連続魔法】! 【コールドボルト】!」


 放たれた三つの氷柱が、動けずにいる巨犬にさく裂する。

 二人のコンビネーションで、ケルベロスのHPゲージが一気に三割ほど消し飛んだ。

 魔法で弾き飛ばされたケルベロスは、ゆっくりと起き上がる。

 あげる、咆哮。

 するとその頭部が、三つに分裂した。


「なるほどね、本領はここから発揮ってわけ」


 猛烈な勢いで駆け出すケルベロス。その狙いはレンだ。


「【ブリザード】!」


 荒れ狂う猛烈な吹雪が、足元から噴き上がる。

 接近する敵を足止めするための範囲魔法に、ケルベロスが弾かれた。

 そこへ飛び込んで来たのはメイ。

 振り下ろす剣の一撃が、HPゲージを削り取る。

 するとケルベロスは、三つ全ての頭から一斉に炎弾を放った。


「【バンビステップ】!」


 たたみ掛けるように飛来する炎弾を、メイは後方への三連続ステップで回避する。

 ケルベロスは即座に追撃を仕掛けにきた。

 鋭い爪による斬撃。

 そのまま一回転して放つ、堅い尾の一撃。

 これらをメイがすんなり回避すると、再びその口を開く。

 三つの頭が吐く炎が混ざり合い、猛烈な爆炎となって地を駆ける。


「【バンビステップ】! 【アクロバット】!」


 斜め後方へのステップから大きな後方宙返り。

 スキルのコンビネーションで、メイはこの大技を見事にかわす。

 しかしケルベロスはすでに動き出していた。

 一気にメイの目前まで駆け込んで来ると、そのまま後ろ足で立ち上がる。


「ッ!」


 7年に渡る大トカゲの相手ですっかり四足獣の動きが染みついているメイは、知っている。

 後ろ足で立ち上がった後に来る、大技の存在を。

 強烈な咆哮と共に、ケルベロスが必殺の振り下ろしを発動する――その瞬間。


「【コールドボルト】!」


 三つの頭の一番右に、氷柱がさく裂した。

 ノックバックにより、わずかに技の発動が遅れるケルベロス。

 もちろんこの隙を、メイは逃さない。

 その場で剣を引くと、やや高い位置にあるケルベロスの胸元目がけて――。


「【ラビットジャンプ】!」


 飛び込んで行く。


「からの――――【ソードバッシュ】!」


 大ジャンプの登り際に放った突きが、ケルベロスの胸元を貫く。

 後方へ抜けていく衝撃波。

 メイの放った一撃はゲージを削り切り、ケルベロスを粒子に変える。


「やったー! ありがとうレンちゃん!」

「ま、私のはオマケ程度だったけどね」


 ボスモンスターを粉砕したメイは、うれしそうに駆け寄ってくる。そして。


「やっぱりレンちゃんと一緒だと楽しいよ!」

「うぐふ」


 その純真な笑顔で、レンの胸までも撃ち貫いてみせたのだった。



   ◆



「助けていただき、ありがとうございます」


 こうしてお嬢様の救出は、無事成功した。


「こんなに早く助けに来ていただけるなんて、思いもしませんでした」


 お嬢様はそう言ってうれしそうに微笑む。そして。


「そういえば、先ほど賊の皆さまがおっしゃっていたのですが、そちらのランプが何かの仕掛けになっているようです」

「ランプ?」


 言われるまま、メイは壁掛けのランプ動かす。

 すると岩壁の一部が奥にスライドし、そのまま左右に割れた。

 生まれた空間には、木箱が二つ。


「……これ、追加報酬だわ」

「追加報酬?」

「クエストの中にはミッションが付いていて、それも同時にクリアできると報酬が多くなる場合があるの」

「そうなんだぁ」

「今回は救出が早ければってことなんでしょうけど……完全にメイのおかげね」


 二人並んで、置かれた木箱を開ける。

 中にはどちらもスキルブックが入っていた。


「魔砲術……?」


 レンが手にしたのは、見たことのない魔法系スキル。



【魔砲術】:消費MP2倍。遠く離れた地点に向けて攻撃魔法を放つことができる。その際の精度は技量値(装備品による補正含む)に依存する。



「ちょっと待って。これ魔法の射程が大きく伸びるってことよね……こんなの初めて見たわ」


 基本的に魔法の射程は、弓矢に及ばないというのが常識だ。

 しかしレンは『砲』という文字に、新たな可能性を感じ取る。

 しかもこのクエストでしか手に入らないスキルなのであれば、『魔砲術使い』は誰にも知られていないということだ。


「メイのはどうだった? ……メイ?」


 スキルブックを手にしたまま立ち尽くすメイ。

 レンは手元のスキルブックをのぞき込む。



【四足歩行】:使用時の移動速度は動物型モンスターにも匹敵する。またその速度は敏捷値(装備品による補正含む)に依存する。



「野生がメイを、追いかけて来てる……」


 ぐうの音も出ない野生的スキルに、震え出すメイだった。

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