第15話 港町の地下通路

 酒場の裏手から入り込んだ地下通路には、まだランプが灯っていた。

 二人は石積みの道を、明かりを頼りに進んでいく。


「なんだかワクワクしちゃうねぇ」

「本当。しかもこのクエストってまだ誰にもクリアされてないの。私たちが初めてよ」

「そうなの?」

「だからここは、まだ誰も踏み込んだことのない場所ってことね」

「おおー!」

「そうなれば当然、面白い報酬がもらえる可能性も高いわ」


 サービス開始から7年も攻略されていないのなら、難易度は高く設定されているはずだ。

 よって報酬もそれなりのものになると、レンは予想する。


「……なんか、声が聞こえるよ」

「そろそろみたいね。ねえメイ、ちょっといい?」

「なに?」

「人数はどれくらいいると思う?」

「ええと、五、六人かなぁ」

「なるほどね。それなら試したいことがあるの」


 そう言ってレンは、メイに一つのコンビネーションを提案する。


「面白そうだね! やってみよう!」


 さっそく耳をピンと張って、意気込むメイ。

 そのまま二人は、堂々と賊の前に姿を現した。


「な、なんだテメエらは!」

「どうやってここまで!? レギンは、ブルーノはどうした!?」

「やっぱり、本来はいくつか経由しないといけないポイントがあったのね」


 賊たちの反応から、本来は別のルートを経由してこの場所に来るのだと、レンはあらためて理解する。


「関係ねえ! とにかくここで口を塞いじまえばいいだけだ! やっちまえ!!」


 その言葉を合図に、剣を手にした賊たちが動き出す。


「メイ、お願い!」

「まかせて!」


 そんな賊の一団を十分に引き付けたところで、さっそくメイがスキルを発動する。


「がおおおお!」

「なっ!? うおおおおおッ!?」


【雄たけび】によって放たれた強烈な衝撃が、賊たちをまとめて転がした。


「はいレンちゃん!」

「【連続魔法】! 【ファイアボルト】!」


 すると次の瞬間、レンの掲げた杖から炎弾が三連続で放たれた。

 そのまま三人の賊が炎に包まれ動かなくなる。


「くっ!」


 慌てて転倒状態から起き上がる男たち。

 しかしその時すでに、【連続魔法】は再使用可能となっていた。


「【連続魔法】! フリーズボルト!」


 続けざまに放たれた氷柱でとどめ。襲い掛かって来た賊たちは全員倒れ伏した。


「ふう、うまくいったわね」

「レンちゃんスゴい!」

「これだけの隙を作れるんだもの、すごいのはメイの【雄たけび】の方よ」


 見事なコンビネーションが決まって大喜び。

 メイが歓喜にその目を輝かせていると、突然その獣耳がビクッと動いた。


「ッ! レンちゃん、後ろーっ!」


 叫び声と同時にレンの背中へ駆け込んで来たのは、身を隠していた一人の賊。

 これは完全に、後衛を狙ったバックアタックだ。

 賊の男は刃の大きなナイフを取り出すと、そのまま真っすぐレンに特攻してくる。


「【アサルトスピア】!」


 スキルを用いた一撃は完全に、防御や回避が得意でない後衛を殺しにきている。

 レンの言った通り、このクエストはそう甘くない。


「まかせて、メイ」


 しかしレンは落ち着いたまま、片手でメイを制した。


「【魔力剣】」


 杖を放すと、その手中に生まれた魔力の光が短剣の形を取る。

 レンは飛び掛かって来た賊の剣をかわすと、そのまま光剣を叩き込む。


「これでも一応、敏捷にも振ってるからね!」


 大きくゲージを減らした男に、もう一発光の剣を振るってとどめ。

 伏兵を見事返り討ちにした。

 霧散していく光の剣。

 見るスキル全てが新鮮なメイは、思わず尻尾を振りながらレンに駆け寄る。


「すごーい! カッコイイ魔法だね!」

「……まあ、これもわざと敵を懐に潜り込ませてから『接近戦ができないなんて、言ってないけど?』ってカッコつけて言うために覚えたんだけどね……ああもう、本当に恥ずかしいっ」


 思い出して、レンはブンブン首を振る。


「さて、本題はここからよ」

「本題?」

「そうだ、一応【雄たけび】お願いね」


 レンがそう言うと、突然倒れていた賊の一人が起き上がり、大慌てで奥の部屋へと駆け出した。


「はい【ファイアボルト】」


 放たれた炎が、逃げていく賊の背に直撃して大きく燃え上がる。


「がおおおお!」


 そこへさらに、メイの【雄たけび】による衝撃が襲い掛かる。

 すると賊の男は火だるまのまま吹き飛ばされて、奥の部屋へと転がり込んで行った。


「……これ、スキルの順番逆でも面白いわね。敵が火だるまになって転がっていくのなんて初めて見たわ」

「なんか、奥の部屋に吸い込まれていったみたいだったね」

「倒れた賊の一人が逃げ出す展開を予想したプレーヤーが、背中にスキルを叩き込むなんて考えもしなかったんでしょうねぇ」


 最後の賊NPCは、何があっても奥の部屋に逃げるようになっている。

 そのためメイの放った衝撃波による転倒の勢いと、奥の部屋へ向かおうとするNPCの動きが合わさって、部屋に吸い込まれたかのような動きを産み出したのだった。

 これにはレンも、さすがに笑ってしまう。


「さ、追いましょう。おそらくボスがいるから気合入れていきましょうね」

「うんっ!」


 二人はほほ笑み合うと、奥の部屋へと足を踏み入れた。


「さっきより、明らかに広いわね」


 レンの予想通り、そこは戦いやすそうな広めの空間になっていた。

 その奥にはイスに縛られたお嬢様の姿。そして。


「ま、まだ燃えてる……」


 現在進行形で服が燃えている賊。さらに。

 最奥に設置された鉄の大扉をバンバンと叩く、『何か』がいた。

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