第14話 装備を探します

「とりあえずスキルの話はここまでにして、メイはどんな装備がいいのかしら」

「カッコイイのがいいです!」

「そういうことなら、まずは露店かしらね」

「武器屋さんとか防具屋さんじゃないの?」

「店売りじゃない物の方が、特殊な効果を持ってたりする良い物が多いのよ」

「そうなんだぁ」


 異常なハイレベルの割に知識が初心者のメイは、感心の声をあげる。


「見た目にも色んなものがあって、選びがいもあるわよ。まあその分探すのに少し手間が……って、どうしたの?」


 今日も活気であふれる、港町ラフテリアの大通り。

 その途中でメイは、足を止めていた。


「レンちゃん、何か聞こえない?」

「これだけ人がいるんだから、いろいろ聞こえてくるけど」

「なんか、戦ってるみたいな音がするんだよ……あっちの方から」

「……なるほど、【聴覚向上】が利いてるのね。荒事ならクエストかもしれない」

「行ってみようよ!」

「そうね。タイミングを逃すとそれっきりなんてクエストもあるし、行くだけ行ってみましょう」


 二人は露店の並ぶ大通りから、路地裏へと踏み込んでいく。

 音を頼りにいくつも角を曲がった先に、吹き抜けのような空間。

 そこには、軽鎧に紺のコートをまとった男たちが倒れていた。


「ア、アンタたち冒険者だな!? 頼む、お嬢様を助けてくれ!」

「お嬢様?」

「賊にさらわれたんだ。お嬢様が外遊する際の移動は、常に道順を変えて行っていたのだが……今回はどこかで気取られたようだ……っ」


 悔しそうに地面を叩く男のコートには、貴族の紋章。


「ここまで必死に追いかけて来たのがだが、返り討ちに……頼む、お嬢様を助け出してくれ!」

「もちろんです! いいよね、レンちゃん」


 当然メイは、困る人を放ってはおけない。


「構わないわよ。クエストはほとんど装備やスキルにつながってるから、メイの強化に役立つものが手に入るかもしれない」

「助かる……っ! ヤツらはこの道を真っすぐ逃げて行った。今ならまだ見つけられるかもしれない。頼んだ、レイフレーゼ家の名にかけて必ず礼はする!」

「行こう、レンちゃん!」


 倒れたままの男が指さした方に、すぐさま走り出すメイ。

 しかしレンは、浮かない顔をしていた。


「……これが、レイフレーゼ家のクエストなのね」

「知ってるの?」

「聞いたことあるわ。どうしてもどこかで足取りが途絶えちゃうって言われてる高難度クエストよ。そのせいで情報も全然出てないの」


 その結果、どこの攻略情報でも未解決扱いになっている。

 俗に言う『塩漬けクエスト』の一つだ。

 ラフテリアの近辺には山間や海岸の洞窟があるものの、そこでは何も起こらず追跡が行き詰ってしまうらしい。


「残念だけど、攻略は望み薄ね」


 何せサービス開始から7年も挑戦者たちを惑わせ続けてるクエストだ。

 少なくとも現状、まともなヒントの一つすらない。


「おとなしくクエストを諦めて露店に戻った方が良さそう……どうしたの?」


 レンが今後の動向を考えていると、メイは民家の軒下で丸くなっている猫を見つめていた。


「ちょっといいかな?」


 あくびをする猫に、メイはたずねる。


「女の子が連れ去られちゃったみたいなんだけど、どっちに行ったか分かる?」


 すると猫は身体を起こして伸びを一つ、そのまま背を向けて歩き出した。


「ま、そりゃそうよね」


 素っ気ない猫の仕草に、レンがつぶやく。

 しかし猫は、数歩進んだところで一度振り返った。

 そして再び歩き出す。


「付いて来いってことだね!」

「……さすがにそれは、思い違いじゃないかしら」


 楽しげに猫の後を追いかけていくメイに、レンも半信半疑で続く。

 路地裏の狭い道を、ゆうゆう進んでいく猫。

 行き止まりかと思われた壁がその場所まで行ってみると先へつながっていたり、半開きのドアから空き家に入り込んだりと、道は意外と入り組んでいる。

 軽快に進む猫を追って、民家の壁にかけられたハシゴを昇り、隣の家の屋根から降りると、閉店した酒場の裏手にたどり着いた。

 大通りからは少し離れた路地裏の一角、そこにはたくさんの酒樽が積み重ねられている。

 猫はその酒樽を爪で二、三回ほど引っ掻いてみせた。


「ここだね、ありがとう!」


 メイがほほ笑むと、猫は「なー」と一鳴きして去って行った。


「本当に、こんなところに何かあるのかしら……?」


 何の変哲もない、裏路地の空き地。

 レンは何となく近くにあった樽を押してみるが、ピクリとも動かない。

 代わりに腕力値が600を超えるメイが樽を押す。

 すると酒樽があっさり動いた。

 どうやら樽は、動かすのに高い『腕力値』が必要なオブジェクトのようだ。

 メイは次々に樽を動かしていく。

 やがて足元に現れたのは、一枚の鉄板。

 今度はこれをメイが持ち上げると、そこには地下へと続く階段が。

 そしてその途中に、護衛の剣士たちと同じ紋章の付いたリボンが落ちていた。


「レンちゃん! これって!」


 さっそく見つけた手掛かりに、メイの尻尾がブンブン動き出す。


「うそでしょ……こんな簡単に正ルートにたどり着いちゃうの? とっくにプレイヤーたちが諦めた放置クエストなのに……」


 一方レンは、7年に及ぶ未解決クエストがあっさり真相に近づいたことに困惑する。


「スキル【自然の友達】だっけ? モンスター以外の動物と仲良くなれるって、こういうことなのね……」


【野生児】のメイが、ジャングルで覚えたスキル【自然の友達】

 それは街中での情報収集や、状況の変化等を探すような方法とはまるで違った視点からクエストを進める能力だ。


「本当、【野生児】って面白いクラス……!」


 未だ達成者のないクエストの進展を目前に、思わずレンもワクワクしてしまうのだった。

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