第12話 悪夢の終わり
「うわー、きれいだねぇ」
吸血鬼を倒したメイたちが洞窟を抜けると、そこは山の中腹だった。
時間帯も夜になっていて、広がる海と港町が見事な夜景を作り出している。
「レンちゃんの目もきれい」
「ッ!!」
メイにそう言われて、レンは光る左目を慌てて隠す。
「お、おさまって……早くおさまって、私の左目……っ! 恥ずかしいから、早くう!」
中二病全開スキルの恥ずかしさに、必死に目を押さえるレン。
その姿は、本物の魔眼所持者さながらだった。
「はぁ、すっごく楽しかったなぁ。7年も遊んでたけど、仲間と協力して戦うのなんて初めてだよ」
メイの尻尾が、楽しそうに揺れる。
「こんな風に誰かと夜遅くまで遊んだのも初めて」
「……私もそうよ。ここ、本当だったらかなり苦労するダンジョンなんでしょうね。松明なんかを手に戦って、ようやくコウモリの大群を倒したところで、それを使役してた吸血鬼が出て来るっていう」
少なくとも、一人で斬り抜けられるような場所ではない。
ようやく左目の落ち着いたレンがつぶやく。
「確かに、誰かと協力して戦うっていうのもいいわね。孤高なる闇の使徒とか名乗ってたのが恥ずかしいわ……本当」
楽しそうに山をくだっていくメイ。
その姿を見てレンは両手を組み、「んー」と大きく伸びをする。そして。
「やめるの、やめた!」
吹っ切れた感じで、そう言った。
「ねえ、メイ」
「なにー?」
「私とパーティ、組んでくれない?」
「パーティ?」
「うん。本当はゲームやめちゃうつもりだったけど、もう少し続けたくなってきちゃった」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべるレン。
「すごく楽しかったの――――メイが一緒で」
メイの表情が、一変する。
「もちろんだよっ!」
メイはぴょんぴょんと楽しそうにステップを踏むようにして進んで、くるりと振り返る。
「レンちゃんと一緒だったら、もっともっと楽しくなっちゃうね!」
「……うぐふ」
夜空に瞬く、たくさんの星の下。
楽しい未来を信じてやまないメイ。
その純真なほほ笑みが放つ聖なる輝きに、レンは浄化されて……消えた。
◆
「ところでメイ、あなたレベルいくつなの?」
果樹園に戻って来たところで、レンがたずねた。
いくら弱点を突いたとはいえ、吸血鬼をあっさり倒してしまうような攻撃力なんて聞いたこともない。
「今いくつなのかな。もうずいぶん確認してなかったから……193だって」
「193!?」
ケタ違いの数字に、思わずステータス欄をのぞき込む。
「193なんてレベル初めて見たんだけど……私の三倍以上あるじゃない。有名プレイヤーの最高が90くらいなのにレベル上限が200に更新されたのは少し変だなと思ってたけど、あれはメイのためだったのね……」
「あはは、ずーっとモンスター狩りばっかりしてたからねぇ」
苦笑いを浮かべるメイ。
「スキルも見たことないものばっかり。ああ、洞窟で使ってたのは【夜目】だったのね。【聴覚向上】なんて聞いたこともないわ」
レンは見たこともない数値の並んだステータス欄に興奮している。
「ていうか、装備がほとんど初期のままじゃない。『星屑』は装備次第で結構ステータス値が動くし、ステータスに依存したスキルも多いから……これ、まだまだ大変なことになるわよ」
思わずゴクリとノドを鳴らす。
「そうだよレンちゃん! この装備のせいで皆がわたしのことを野生児って呼んでるの!」
思い出してまた、ほおをふくらませるメイ。
「まあ、それだけボロボロになった装備を着てたらねぇ……そのうえ耳と尻尾だし」
「でも、それも今日でおしまい。クエストをクリアしたら果樹園のおじさんがご褒美をくれるって言ってたから。もし新しい装備品をもらえたら、もう野生児とは言わせないよ!」
意気込んでみせるメイ。
「何がもらえるのか、楽しみだなぁ」
期待をふくらませながら、果樹園のおじさんが住むログハウスへと足を踏み入れる。
「ただ今戻りましたーっ」
「お嬢ちゃん、どうだった!?」
「これでもう大丈夫ですよ! ちゃんと果物泥棒はやっつけてきましたっ!」
へへー! と、メイはちょっとだけ得意げにする。
「そうか……ありがとう、助かったよ」
果樹園のおじさんは、安堵の息をつく。
「そうだ。ずっとお礼の品を考えてたんだがな、お前さんにピッタリなものがあったんだ」
「やったあ!」
歓喜するメイ。
おじさんは倉庫から持ち出してきたお礼の品を、そっと差し出してきた。
「スキルブック――――【雄たけび】だ」
「おた……けび?」
【雄たけび】:獣のごとき激しい咆哮で敵にノックバックを起こさせる。その威力は腕力値と耐久値(装備品による補正含む)に依存する。
「…………」
「ま、また野性味あふれるのが来たわね。聞いたことないスキルだけど、結構レアなんじゃない? 説明通りなら強力だと思う」
レンの予想では、敵の動きを一時的に止めるスキル。
だとすれば、その利便性は間違いなく高い。
しかも腕力値と耐久値に依存なら、メイのステータスがしっかり活きてくる。
「ダ、ダメだよ! さすがにこれは野生児だもん! こんなの使い出したらもう戻ってこれなくなっちゃうよ!」
ぶんぶんと大きく首を振るメイ。
「あはははは……あれ? ちょっと待って。メイ、もう一度ステータス欄を見せてもらってもいい?」
「え? うん」
「私の見間違いじゃなければだけど……あ、やっぱりそうだ」
中空に現れるステータス欄。
レンはその中から、一つの文言を指さした。
「ほら見て、メイはそもそもクラスがもう【野生児】なのよ」
「い、いつの間に……」
「ええと、五年間ジャングルから一歩も出ることなく生き抜いた者に与えられるクラスだって……とんでもないわね……」
感嘆の息をつくレン。
一方のメイは、スキルブックを手にしたまま白目をむくのだった。
◆
「ただいまー!」
VRMMOを始めて7年。
初めてできたゲーム友達に、さつきは鼻歌交じりで現実へ戻って来た。
ヘッドギアを外すと、足取りも軽くキッチンへ。
冷蔵庫から飲み物を取り出し口にする。
「今日は肉じゃがなんだね」
「えっ?」
さつきの言葉に、母やよいが驚きの表情を浮かべた。
「どうして分かったの……?」
「肉じゃがの匂いがしたからだよ?」
「でもまだ材料を買って来ただけで、炒めてもいないんだけど……」
「えっ……?」
やよいの言葉通り、キッチンには中身を取り出していないスーパーの袋。
「ま、まさか……現実でも野生化が……っ!?」
そんな偶然一つに、慌てふためくメイだった。
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